Top page科・属リストMerulinidaeEchinoporaEchinopora pacifica

Merulinidae サザナミサンゴ科
Echinopora リュウキュウキッカサンゴ属

Echinopora pacifica Veron, 1990
(Figs. 1-21)

Echinopora lamellosa: Shirai 1977: 568 (part), lower middle & right figs.; Veron, Pichon & Wijsman-Best 1977: 183 (part), figs. 366-367, 371.

Echinopora gemmacea: Uchida & Fukuda 1989: 153, 1 fig., 154 (part), 2nd fig.

Echinopora pacificus Veron, 1990: 150, figs. 55-57, fig. 86 [Kabira Bay, Ishigaki Island]; Nishihira 1991: 256, 1 fig.; Nishihira & Veron 1995: 382, 3 figs.; Veron 2000: vol. 3, 252 (part), figs. 3-5, 1 skeleton fig.; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 34, 114, 2 figs.; Sugihara 2016: 34, 103, 2 figs.; Hylleberg & Cedhagen 2018: 183, 239 (part), 2nd fig.

not Echinopora pacifica: Veron 2000: vol. 3, 252 (part), fig. 2 (= Echinopora cf. gemmacea).

? Echinopora pacifica: Veron 2000: vol. 3, 252 (part), fig. 1; Uchida & Fukuda 1989: 154 (part), upper fig.

タイヨウリュウキュウキッカサンゴ 西平, 1991
(図1-21)

リュウキュウキッカ:白井 1977: 568 (一部), 下段中央と下段右の図 (Echinopora lamellosa として).

オオリュウキュウキッカサンゴ 内田・福田, 1989: 153, 1図, 154 (一部), 下図 (Echinopora gemmacea として); 西平・Veron 1995: 383, 左下の図 (Echinopora gemmacea として).

タイヨウリュウキュウキッカサンゴ 西平, 1991: 256, 1図 (Echinopora pacificus として); 西平・Veron 1995: 382, 3図 (Echinopora pacificus として); 亀田・目崎・杉原 2013: 34, 114, 2図 (Echinopora pacificus として); 杉原 2016: 34, 103, 2図.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25

図1-9. IH_SMPC_1916. 奄美大島三浦, 水深 11 m. 2019-03-02. 図6は標本葉状部, 図7は群体中央付近, 図8は個体, 図9は共骨上の針状突起.

図10, 11. SMPF 76-238. 黒島フキ礁外縁, 水深 5 m. 1976-10-30. 福田照雄採集. 内田・福田 (1989) で用いられた標本.

図12-16. SMP-HC 4049. 宮古島世渡崎東, 水深 3 m. 2023-7-13. 野村恵一採集. 典型的な Echinopora pacifica の骨格および生時の画像.

図17-21. SMP-HC 4010. 宮古島大神島南西, 水深 3 m. 2023-7-11. 野村恵一採集. 典型的な Echinopora pacifica の骨格および生時の画像.

図22, 23. 990612-10. 石西礁湖ウラビシ, 水深 5 m. 1999-06-12? 野村恵一採集. 八重山産の典型的な Echinopora cf. gemmacea サンゴ個体.

図24, 25. IH_SMPC_1908. 奄美大島和瀬海岸, 水深 6 m. 2019-03-01. 奄美産の典型的な Echinopora cf. gemmacea サンゴ個体.

図の撮影:図1-15, 22-25, 平林勲; 図16-21, 野村恵一.

形態:群体は被覆状で中央部は厚く周縁部は葉状に張出すこともある。個体は中央の凹んだ半球形~円筒形で基部にかけて厚く盛り上がり、多くが共骨からよく突出する。個体は群体中央付近では突出方向、配列共に不規則、葉状に張出した群体周縁付近では概ね同心円状に配列される。莢径は 3~7 mm (平均 4.3 mm)、隔壁は21~41枚で4次まで発達し、1次、2次隔壁は海綿状の軸柱に達するが4次隔壁はほとんどが莢内にやや伸長する程度。隔壁は板状か網目状で、側面や上縁には多数の小棘を有する。1次、2次隔壁上縁は不規則に小棘で覆われた鋸歯を有し、鋸歯数はパリ状葉を含めると1次隔壁で3~4本、2次隔壁では2~3本にみえるが、沖縄産、奄美産の標本では未発達のものや鋸歯同士が融合しているものも多く、また隔壁の形状によっても鋸歯の数にはばらつきがある。莢壁や共骨は頑強で、表面は規則正しく配列された針状突起に覆われる。針状突起の基部は表面が滑らかな三角錐であることが多く、縦方向に隣接する基部が融合して数珠状のやや不完全な肋を形成する。針状突起の上半部は不規則な小棘で覆われる。生時の色彩は黄色や褐色の地色を呈し、光の当たり方により群体表面は緑色や紫色を帯びる。

識別点:杉原ら (2015) に掲載された Echinopora cf. gemmacea によく似るが、本種はサンゴ個体が大きく共骨からよく突出しており、個体の密度もやや低い。また、本種は莢壁外縁や共骨の表面が形の揃った針状突起で高密度に覆われており群体表面はベルベット状に見える (西平・Veron 1995)。さらに、隔壁側面の小棘は1次隔壁の厚みに対して本種が平均で 2/5 程度であるのに対し、E. cf. gemmacea では 1/2 程度かそれ以上の長さのものも多く、棘の密度も高い。さらに、E. cf. gemmaceaでは隔壁上縁の鋸歯は本種に比べて顕著でよく目立ち、莢壁や共骨表面を覆う針状突起先端付近の小棘は突起のサイズに対して長く密度が高いため、全体に刺々しく見える。

ただし、本種と E. cf. gemmacea には中間的な形態を有する標本も存在することから、両種の分類学的位置関係についてはより詳細な検討が必要である。

分布と生態:奄美群島以南に分布する。水深 5 m 以深で見つかることが多いが本属のサンゴとしてはやや稀。昼間はポリプを開かない。

和名の由来:本種は1990年に記載された後、西平 (1991) によってタイヨウリュウキュウキッカサンゴの仮称が提唱され、その後も本種の和名としてはタイヨウリュウキュウキッカサンゴが広く用いられている。一方、内田・福田 (1989) では E. gemmacea として群体の画像を掲載し、オオリュウキュウキッカサンゴの新称を提唱しているが、示されている図は個体サイズや配列に加え、基盤に広く固着していることなどから E. pacifica であると考えられる。

しかし、内田・福田 (1989) で用いられたとされるオオリュウキュウキッカサンゴの標本 (野村 2020) を検討したところ、個体の大きさなどから E. pacifica である可能性が高いものの、当該標本は周縁部の僅か 35 mm × 30 mm ほどのものであり、個体の発達も十分ではないため、同定は暫定的である (図10, 11)。また、当該標本が掲載された3画像と同一群体であるのか、あるいはどの画像の群体のものであるのかについては不明である。

和名の提唱順に従えば、西平 (1991) よりも先に提唱された内田・福田 (1989) の「オオリュウキュウキッカサンゴ」を本種の和名として用いるべきではあるが、標本の同定が暫定的であることに加え、①すでに国内の多くの文献において「タイヨウリュウキュウキッカサンゴ」の和名が用いられていること、②同様に「オオリュウキュウキッカサンゴ」が E. cf. gemmacea (過去に E. gemmacea と同定されているものも含む) の和名として広く定着していることから、和名の変更に伴う混乱を避けるため、本報ではタイヨウリュウキュウキッカサンゴを用いることとした。

西平 (1991) ではタイヨウリュウキュウキッカサンゴの由来について記述されていないが、太平洋に広く分布することに起因する種小名 pacifica (原記載では pacificus) から本種に「タイヨウ (大洋)」の和名を与えたものと推測される。

備考:Veron (2000) では完全な葉状を呈する生時の群体の画像 (fig. 1) が本種として掲載されているが、国内から同様の群体形のものは確認できておらず、また画像にスケールが示されていないことなどからシノニムリストから除外した。また、同文献の fig. 2 についても同様にスケールは示されていないが、色彩と個体密度から E. cf. gemmacea と同種である可能性が持たれる。なお、原記載では種小名は pacificus とされたが、属名との性の不一致により、現在は pacifica に訂正されている。

E. pacifica に類似した形態を有する群体について
奄美産、沖縄産の本属標本において、形態的に E. pacifica に類似するものの、個体サイズが明らかに小さな群体が散見された (図26, 27: 野村恵一撮影)。当該群体では、①共骨から個体がよく突出すること、②莢壁外縁および共骨上面が形の揃った針状突起で等間隔に覆われること③莢壁が厚く頑強であることなどから E. pacifica に最も類似するものと思われるが、一方で個体は莢径 2.2~3.4 mm (平均 2.8 mm) と小さく密に分布しており、隔壁側面や針状突起を覆う小棘は各構造に対して相対的に長い点などは典型的な E. pacifica とは異なる。こうした群体と、E. pacifica および E. cf. gemmacea との区別についてはより詳細な検討が必要である。

  26 27

図26-27. SMP-HC 4071. 宮古島世渡崎東, 水深3m. 2023-7-13. 野村恵一. 図26は標本外形, 図27は同標本の個体の拡大図.

参考:担名タイプの写真

Echinopora pacifica Veron, 1990 ── Holotype, MTQ G32490 in Veron (1990) figs. 55, 56 [ScholarSpace]

引用文献:

Hylleberg JH, Cedhagen T (2018) Indo-Pacific corals identified and illustrated by Hans Ditlev. Vol. 2. National Science Museum, Ministry of Science & Technology, Thailand. [ResearchGate]

亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. 日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]

西平守孝 (1991) フィールド図鑑 造礁サンゴ 増補版. 東海大学出版会, 東京.

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

野村恵一 (2020) 沖縄海中生物図鑑第9・10巻「サンゴ」で使用された標本の所在ならびに串本海中公園センターで所蔵されている八重山諸島産イシサンゴ標本目録. マリンパビリオン 特別号10: 1-27. [串本海中公園]

白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.

杉原薫 (2016) パラオ・グアム産サンゴ類標本目録. 琉球大学博物館 (風樹館) 収蔵資料目録第11号. 琉球大学博物館 (風樹館), 西原町. [琉球大学風樹館]

杉原薫・野村恵一・横地洋之・下池和幸・梶原健次・鈴木豪・座安佑奈・出羽尚子・深見裕伸・北野裕子・松本尚・目﨑拓真・永田俊輔・立川浩之・木村匡 (2015) 日本の有藻性イシサンゴ類. 種子島編.国立環境研究所生物・生態系環境研究センター, つくば. [国立環境研究所]

内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第10巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.

Veron JEN (1990) Checklist of the hermatypic corals of Vanuatu. Pac Sci 44: 51-70. [ScholarSpace]

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 3. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Veron JEN, Pichon M, Wijsman-Best M (1977) Scleractinia of eastern Australia., part II. Families Faviidae, Trachyphylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

執筆者:平林勲

Citation:

 

更新履歴:

2023-11-12 公開