Euphylliidae ハナサンゴ科
Fimbriaphyllia ナガレハナサンゴ属
Fimbriaphyllia paraglabrescens (Veron, 1990)
(Figs. 1-3)
Euphyllia paraglabrescens Veron, 1990: 162, figs. 68-70, 91, 92 [Ojioya Port, Tanegashima]; Nishihira 1991: 256, 2 figs.; Veron 1992: 193; Nishihira & Veron 1995: 388, 3 figs.; Veron 2000: vol. 2, 72, figs. 1, 2, 1 skeleton fig.; Dai & Horng 2009: vol. 1, 150, 2 figs.; Sugihara et al. 2015: 88, 3 figs.; Dewa 2016: 2, 11 figs.; Ministry of the Environment, Japan 2017: 4, 1 fig.; Nishihira 2019: 49, 5 figs.; Kagoshima Prefectural Board of Education 2019: 1 fig.
Fimbriaphyllia paraglabrescens: Rowlett 2020: 491, 6 figs.
タネガシマハナサンゴ 改称
(図1-3)
ハナサンゴモドキ 西平, 1991: 256, 2図; 西平・Veron 1995: 388, 3図; 杉原ら 2015: 88, 3図; 出羽
2016: 2, 11図; 環境省 2017: 4, 1図; 西平 2019: 49, 5図; 鹿児島県教育委員会 2019: 1図.
図1. タネガシマハナサンゴ. Fig. 1. Fimbriaphyllia paraglabrescens (Veron, 1990).
A-H. KCA23D0003, 和名基準標本. 種子島中種子町大塩屋湾, 水深 5 m, 2008-12-04: A. 群体; B. サンゴ体, 上面, 個体配列はファセロイド型とファセロ・メアンドロイド型が混在; C. 同, 側面; D, E. 同, ファセロイド型の個体と莢の構造; F, G. 同, 1次隔壁側面; H. 同, 肋の構造.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2.タネガシマハナサンゴ. Fig. 2. Fimbriaphyllia paraglabrescens (Veron, 1990).
A-D. KCA23D0001. 種子島西之表市上之古田港, 水深 2 m. 2023-09-28: A, B. 群体; C. サンゴ体, 上面, 個体配列はファセロイド型とファセロ・メアンドロイド型が混在; D. 同, 側面.
E-H. KCA23D0002. 大塩屋湾, 水深 3 m. 2023-07-12 (採集): E. 群体 (水槽内); F. 同, 触手 (水槽内); G. サンゴ体, 上面, 個体配列はほぼファセロイド型; H. 同, 側面.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 出羽尚子撮影.
図3. タネガシマハナサンゴ. Fig. 3. Fimbriaphyllia paraglabrescens (Veron, 1990).
A. 生息状況 (高密度集団). 種子島中種子町馬立岩屋.
B. 褐色型群体. 馬立岩屋.
C. 長径 30 cm 程の大型の褐色型群体. 馬立岩屋.
D. 触手内に幼生を保育する褐色型群体. 馬立岩屋.
E. 緑色型群体. 馬立岩屋.
F . 触手内に幼生を保育する緑色型群体, 馬立岩屋.
G. 褐色・緑色混合型群体. 馬立岩屋.
H. 枝分かれした触手と触手内に保育される幼生. 西之表市洲﨑鼻.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 出羽尚子撮影.
形態:群体は短い主枝上縁から、主枝よりもやや長い枝を放射状に伸ばした花束状を成す。枝は稀に2次分枝が認められる。群体の一般的な大きさは幅 12 cm、高さ 8 cm 程であるが、稀に幅 30 cm、高さ 20 cm を超えるものもある。
個体の配列はファセロイド型もしくはファセロイド型とファセロ・メアンドロイド型が混生し、個体は触手環内出芽によって増殖する。個体の開口部はアサガオのようによく開いた円形~楕円形を成し、枝先には口が1つか複数個が並び、莢径は 2~4 cm である。隔壁は葉状を成し、上内縁はやや角張る。隔壁・肋は5次まで発達する。1次と2次隔壁は莢壁上縁近くでよく突出し、莢の周辺から中心に向かって緩やかに傾斜したあと、莢中心付近では急傾斜で落ち込む。隔壁の上縁は滑らかか細かく刻まれ、側面は滑らかか微細な縦線状の隆起列が認められる。軸柱を欠く。肋は断続的に莢壁の外側に伸び、低次隔壁に対応するものは葉状に突出する場合もある。肋の上縁は細かく刻まれる。
軟体部は鮮やかな緑色もしくは褐色で全体が一様なものが多いが、これら2色の中間的な色彩や2色が混合したものもある。触手の先端は球状によく膨らみ、輪郭は白く縁取られる場合が多い。ポリプは昼間に伸び骨格全体を被うが、触手は短く、時に枝分かれする。なお、水槽内で飼育した場合は、触手が長く伸びる場合がある。
識別点:本種は Euphyllia glabrescens ハナサンゴによく似るが、本種の触手は通常短く時に枝分かれするのに対し、ハナサンゴの触手は長く枝分かれしないことで区別される。なお、両者は骨格での区別は困難である。また、本種は
Fimbriaphyllia yaeyamaensis ハナブサツツマルハナサンゴにも外見が似るが、本種の隔壁は莢開口面よりも上に顕著に突出し、触手先端がよく膨らむのに対し、ハナブサツツマルハナサンゴの隔壁は莢開口面よりも上にあまり突出せず、触手先端の膨らみがやや弱いことで、両者は区別される。
分布と生態:種子島固有種とされていたが (Veron 1990, 西平・Veron 1995)、現在国内では種子島および屋久島での分布が確認されている
(環境省 2017)。ただし、種子島に比べて屋久島での生息数はごくわずかであり、種子島が主分布域である。また、海外では唯一台湾南端からの報告があるが
(Dai & Horng 2009)、本種は浮遊幼生期を持たず親のいる場所からほとんど分散しないため (出羽 2016)、距離が大きく隔たった種子島周辺と台湾南端の間には遺伝的交流が長期間にわたって遮断されており、両海域の個体群は少なくとも別亜種的な位置関係にある可能性が持たれる。Rowlett
(2020) においても台湾産の標本は F. cf. paraglabrescens とされている。
本種は波当たりの弱い内湾域の岩礁上部からその斜面の基本的に水深 10 m 以浅に生息し、岩礁のオーバーハング部や亀裂など遮蔽された場所を好んで定着する。本種の雄群体は精子を放出するものの雌群体は卵を放出せずにポリプ内で受精した卵を保育する、雌雄異体・幼生保育型の繁殖様式を持ち、年に1回、7月から8月の小潮の頃にプラヌラを放出する。この頃になると、雌群体の触手内に成長した幼生が外部からも観察できる。幼生の放出は数日に渡って行われ、口から放出される。幼生はほとんど遊泳せず、分散能力が極端に低い
(出羽 2016)。この特殊な繁殖生態は、本種の分布域が狭小である要因であると考えられる。
和名の由来と改称の理由:改称和名は種子島がほぼ唯一の生息地であると共にタイプ産地であることに基づく。本種にはハナサンゴモドキの和名が与えられ (西平 1991)、これまでこの和名が用いられてきた。本和名はハナサンゴとモドキ
(擬き) の合成名で、ハナサンゴに似て非なる種であることを表す。
本種は近い将来における野生での絶滅の危険性が高い種であるとして、2017年に環境省海洋生物レッドリストで絶滅危惧IB類に指定された (環境省
2017)。本指定を契機に、種子島では行政や住民が一体となった本種の保全活動が推進され、2019年には鹿児島県の天然記念物として指定され (鹿児島県教育委員会
2019)、その保護が図られている。このように、本種は地域にとって最も重要な海洋生物、あるいは島の宝として認識されてきている。しかしながら、一方で本種に対し「にせもの」や「まがいもの」の意味を持つ「モドキ」がついた命名に対する苦情と共に、「今後の保全のためにもより大切にしたいと思えるような種名に変えて欲しい」との要望がしばしば寄せられている。また、擬人的ではあるが、「モドキ」は種にとっての尊厳を欠いた差別的な表現である。
2022年に策定された「日本産イシサンゴ目の標準和名の提唱と使用のガイドライン」 (深見ら 2022 参照)では、“科学・教育・産業・法律・行政など公共の場で使用されることを十分に考慮し、これらの場で使用が自粛されるような和名を命名するべきではない。特に差別的な表現を含んだ名称とならないように⼗分に配慮するべきである
(ガイドライン4.1.抜粋)” と定めている一方で、“響きが悪い・気に入らないといった理由による改称は避けるべきである (ガイドライン4.2.抜粋)”
とも定めている。「モドキ」は種にとってはなはだ差別的な表現であるものの、これまで多くの種の和名で使用されてきた経緯がある。従って、それらの全てを変更するとなると大きな混乱の発生が想定されるため、必ずしも推奨されるものではない。ただし、本種については上述したように絶滅危惧指定種であり、地域による永続的な保全活動の推進に大いに役立つことを配慮し、和名を改称することが望ましいとの結論に達した。
なお、旧和名ハナサンゴモドキの和名基準標本は特定されていないため、タネガシマハナサンゴの和名基準標本としてタイプ産地と同じ大塩屋湾の標本 (KCA23D0003)
を指定した。
和名提唱日:2023-12-09.
備考:Luzon et al. (2017, 2018) は Veron & Pichon (1972) が提唱した2つの亜属 (Euphyllia と Fimbriaphyllia) を属に昇格させたが、タネガシマハナサンゴについては遺伝子や繁殖様式の情報が得られなかったため、本種が属する属の再検討は行わなかった。Rowlett
(2020) は、Euphyllia ハナサンゴ属は触手が概して長く決して枝分かれしないことと雌雄同体・幼生保育型であること、Fimbriaphyllia ナガレハナサンゴ属は触手が概して短く時に枝分かれすることと雌雄異体・配偶子放出型であることを、生体形質ならびに繁殖様式における両属の主な識別点として上げ、タネガシマハナサンゴをナガレハナサンゴ属に帰属させた。本種は同属の他種とは異なる雌雄異体・幼生保育型の繁殖様式を持つが、触手が時に枝分かれすることと雌雄異体である特徴を重視し、本稿では Rowlett (2020) と同様に本種の所属をナガレハナサンゴ属とした。
参考:担名タイプの写真
Euphyllia paraglabrescens Veron, 1990 ── Holotype, G32494 [Flanders Marine Institute]
引用文献:
Dai CF, Horng C (2009) Scleractinia fauna of Taiwan I. The complex group. National Taiwan University, Taipei.
出羽尚子 (2016) 貴重な生きものを展示するために. ~種子島海域固有種・ハナサンゴモドキ繁殖への道~. さくらじまの海, 20 (3): 2-3 [PDF]
深見裕伸・野村恵一・梶原健次・横地洋之・野中正法・立川浩之・北野裕子・鈴木豪・藤田喜久・山野博哉 (2022) 「日本産イシサンゴ目の標準和名の提唱と使用のガイドライン」の策定について. 日本サンゴ礁学会誌 24: 1- [J-stage]
鹿児島県教育委員会 (2019) 種子島のハナサンゴモドキ. In: かごしまの天然記念物. Accessed http://
環境省 (2017) ハナサンゴモドキ. In: レッドリスト・レッドデータブック, 添付資料 別紙3, 海洋生物レッドリストの掲載種において注目される種のカテゴリー
(ランク) とその評価の理由. Accessed at: https://
Luzon KS, Lin MF, Lagman MCAA, Licuanan WRY, Chen CA (2017) Resurrecting a subgenus to genus: Molecular phylogeny of Euphyllia and Fimbriaphyllia (order Scleractinia; family Euphylliidae; clade V). PeerJ 5: e4074 [PeerJ]
Luzon KS, Lin MF, Lagman MCAA, Licuanan WRY, Chen CA (2018) Correction: Resurrecting a subgenus to genus: molecular phylogeny of Euphyllia and Fimbriaphyllia (order Scleractinia; family Euphylliidae; clade V). PeerJ 6: e4074/correction-1 [PeerJ]
西平守孝 (1991) フィールド図鑑 造礁サンゴ 増補版. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝 (2019) 有藻性サンゴ類属の同定練習帳. 沖縄美ら島財団総合研究センター, 本部町.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
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杉原薫・野村恵一・横地洋之・下池和幸・梶原健次・鈴木豪・座安佑奈・出羽尚子・深見裕伸・北野裕子・松本尚・目﨑拓真・永田俊輔・立川浩之・木村匡 (2015) 日本の有藻性イシサンゴ類. 種子島編.国立環境研究所生物・生態系環境研究センター, つくば. [国立環境研究所]
Veron J (1990) New Scleractinia from Japan and other Indo-West Pacific Countries. Galaxea 9: 95-173. [Flanders Marine Institute]
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Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine
Science, Townsville.
執筆者:出羽尚子・野村恵一・深見裕伸
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更新履歴:
2023-12-09 公開