Plerogyridae ミズタマサンゴ科
Nemenzophyllia ハナビラサンゴ属
Nemenzophyllia turbida Hodgson & Ross, 1982
(Figs. 1-8)
Nemenzophyllia turbida Hodgson & Ross, 1982: 174, figs. 4, 5; Veron 2000: vol. 2, 84, figs.
1-4, 1 skeleton fig.; Hylleberg & Cedhagen 2015: 279, figs. 1, 2; Yokochi
2020: 37, figs. 1, 2.
ハナビラサンゴ 横地, 2020
(図1-8)
ハナビラサンゴ 横地, 2020: 37, 図1, 2.
図1-2. 西表島網取湾, 水深 40 m. 1992-05-05撮影. スケールは 50 mm.
図3-5. RUMF-ZG-4406, CMNH-ZG 09756, IORD-C-92003. 全て1992-05-05, 西表島網取湾水深 40 m から採集. スケールは 10 mm.
図6. RUMF-ZG-4406. サンゴ体上面. スケールは 10 mm.
図7-8. RUMF-ZG-4406. 群体終端肥厚部. スケールは 5 mm.
図の撮影は全て横地洋之.
形態:サンゴ体は、厚さ 6〜12 mm、上端の長さ数 cm から 10数 cm の扇状に広がるフラベロイド型ないしフラベロメアンドロイド型の骨格が分岐し、高さは 20 cm 程度までである。骨格上面に一列に並ぶ個体の境界は不明瞭で、中央には薄い軸柱が壁状に連なる。群体の湾曲部や終端のやや膨らんだ部分では、隔壁は3次まで認められる。1次隔壁は軸柱に達し上端は莢壁端から 4 mm ほど突出するが、3次隔壁は短く軸柱に達せず、ほとんど突出しない。2次隔壁は両者の中間的である。骨格側面には、隔壁に対応した肋がサンゴ体基部から上端に向かって放射状に発達する。
識別点:近縁の Plerogyra ミズタマサンゴ属との共通点として、昼間に嚢胞を広げていることが挙げられる (Benzoni et al. 2014)。本種は生時の外観が Plerogyra discus Veron & Fenner, 2000 に酷似しており、両種の区別は困難と思われる。しかし骨格では、本種には上述した中央を走る薄膜状の軸柱があるのに対して、後者はこれを欠き、隔壁端が急激に落ち込む深い谷となっていることから、両種は明瞭に区別できる (Veron 2000 参照)。
分布と生態:我が国では、これまでのところ西表島網取湾内の礁斜面下端水深 40 m の砂泥底からのみ知られている希少種で、西表島が分布北限となる。種小名が示す通り本種は内湾的で濁った砂泥底に生息し、まとまった群落を形成する。
和名の由来:和名は、生時には軟体部を大きく広げ花びらの様相を呈することに由来する (横地 2020)。和名基準標本は RUMF-ZG-4406 (西表島網取湾産)
である。
備考:本種は Hodgson & Ross (1982) によって Caryophylliidae チョウジガイ科の新属新種として記載された。属名はフィリピンでのサンゴ分類学の先駆者である
Nemenzo 博士に因む。その後、Veron & Hodgson (1989) では泥底に生息することに起因する極端な生態型 (ecomorph)
として Plerogyra ミズタマサンゴ属に編入されたが、Veron (2000) では Euphylliidae ハナサンゴ科の Nemenzophyllia に戻された。1属1種の有藻性イシサンゴで、WLoS では最近 (2020年10月) まで所属科不明 (incertae sedis) とされてきたが、Benzoni et al. (2014) は、骨格と生時のマクロな形態および分子に基づく系統解析から Blastomussa タバサンゴ属、Plerogyra ミズタマサンゴ属、Physogyra オオハナサンゴ属と共に新しい科の創設の必要性を指摘しつつも、そのためにはミクロな形態に関する追加情報が必要とした。その後、Rowlett (2020)
が自費出版の図鑑でこれら4属からなる Plerogyridae ミズタマサンゴ科を創設し,WLoS でも追認された (Hoeksema &
Cairns 2020)。
引用文献:
Benzoni F, Arrigoni R, Stefani F, Pichon M (2011) Phylogeny of the coral genus Plesiastrea (Cnidaria, Scleractinia). Contrib Zool 80: 231-249. [ResearchGate]
Hodgson G, Ross MA (1982) Unreported scleractinian corals from the Philippines. Proc 4th Internat Coral Reef Symp Manila 1981 2: 171-175.
Hoeksema BW, Cairns S (2020) World List of Scleractinia. Plerogyridae Rowlett,
2020. Accessed at: http://
Hylleberg J, Cedhagen T (2015) Indo-Pacific corals identified and described by Hans Ditlev. National Science Museum Ministry of Science and Technology, Thailand. [ResearchGate]
Rowlett J (2020) Indo-Pacific Corals. Rowlett (self-published). [WoRMS]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Hodgson G (1989) Annotated checklist of the hermatypic corals of the Philippines. Pac Sci 43: 234-287. [ScholarSpace]
横地洋之 (2020) 西表島から採集された日本初記録の有藻性イシサンゴ Nemenzophyllia turbida Hodgson and Ross, 1982. Fauna Ryukyuana 58: 37-41. [琉球大学学術リポジトリ]
執筆者:横地洋之
Citation:
更新履歴:
2023-11-12 公開