Fungiidae クサビライシ科
Pleuractis Verrill, 1864 ゾウリイシ属

Pleuractis granulosa (Klunzinger, 1879)
(Figs. 1-7)

Fungia granulosa Klunzinger, 1879: 65, pl. 7, fig. 3, pl. 8, fig. 3; Claereboudt 1991: 21; Nishihira & Veron 1995: 249 (part), 1 underwater fig.; Veron 2000: vol. 2, 276, figs. 1–3, 1 skeleton fig.

Fungia döderleini Yabe & Sugiyama, 1941: 77 (part: specimen from Palau) , pl. 66, figs. 9, 9a-d.

Fungia (Verrillofungia) granulosa: Veron & Pichon 1980: 156, figs. 257–263; Veron 1986: 342, 1 fig.; Nishihira 1988: 117, 2 figs.

Fungia (Wellsofungia) granulosa: Hoeksema 1989: 125, figs. 18, 323–335, 638–639.

Pleuractis granulosa: Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123, figs. 10D, 11C; Sugihara 2014: 17, 60, 4 figs.; Yokochi et al. 2019: 46.

Fungia (Verillofungia) scabra: Randall & Myers 1983: 17, figs. 356, 357.

not Fungia granulosa: Nishihira & Veron 1995: 249 (part), 1 skeleton fig. (= Lithophyllon scabra?); Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 93, 3 figs. (= Fungia fungites).

not Fungia (Verrillofungia) granulosa: Shirai & Sano 1985: 229, fig. 10 (= Lithophyllon scabra?).

ナミクサビライシ　西平, 1988
(図1-7)

ナミクサビライシ　西平, 1988: 117, 2 図; 西平・Veron 1995: 249 (一部), 1 図 (水中写真); 杉原2014: 17, 60, 4 図; 横地ら 2019: 46.

非 ナミクサビライシ 白井, 1977: 527, 3 図 (= Fungia fungites シタザラクサビライシ); 西平・Veron 1995: 249 (一部), 1 図 (骨格写真: = Lithophyllon scabra?); 亀田・目崎・杉原2013: 28, 93, 3 図 (= Fungia fungites シタザラクサビライシ).

白井 (1977) は新称和名ナミクサビライシを Fungia fungites と同定した標本 (写真から同定は正しいと思われる) に、また新称和名ナミヒラクサビライシを F. döderleini と同定した標本に与えた。後に白井・佐野 (1985) は白井 (1977) の F. döderleini と同一の標本の写真１枚を掲載し、Fungia (Verrillofungia) granulosa ナミヒラクサビライシ (白井新称) とした (写真からこの標本は Pleuractis granulosa ではなく Lithophyllon scabra の可能性が高いと思われる)。

一方、西平 (1988) はナミクサビライシの和名を F. (V.) granulosa と同定した標本 (写真から同定は正しいと思われる)に充てた。その後、内田・福田 (1989) は F. (Fungia) fungites シタザラクサビライシの解説の中で和名ナミクサビライシをシタザラクサビライシの異名とした。

以上の経緯から、正しく同定された P. granulosa が日本から初めて報告されたのは西平 (1988) であり、この時に用いられた和名はナミクサビライシである。この和名は白井 (1977) のナミクサビライシの新参ホモニム (かつシタザラクサビライシの新参シノニム) である。しかしながら、白井 (1977) 以降ナミクサビライシの和名が F. fungites に使われたことはなく、近年は F. fungites の和名としてはシタザラクサビライシが、P. granulosa の和名としてはナミクサビライシが定着している (Claereboudt 1991; 西平・Veron 1995; 杉原 2014; 横地ら 2019など)。これらのことを考慮し、和名の安定を図り混乱を避ける観点から、本WEB図鑑では P. granulosa の和名として西平 (1988) を命名者とするナミクサビライシを用いることを提唱する。

図1A–H. CMNH-ZG 00398. 八重山諸島黒島, 水深 15 m. 1991-11-23. サンゴ体の長径 92.2 mm. 野村恵一・立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図2A–G. CMNH-ZG 06843. 西表島網取湾, 水深 22 m. 2014-08-05. サンゴ体の長径 65.7 mm. 立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図3A–G. CMNH-ZG 06590. 宮古島狩俣, 水深 15 m. 2014-01-24. サンゴ体の長径 71.5 mm. 立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図4A–G. CMNH-ZG 06612. 宮古島狩俣, 水深 15 m. 2014-01-24. サンゴ体の長径 71.0 mm. 立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図5A–G. CMNH-ZG 07160. 宮古島諸島八重干瀬, 水深 37.6 m. 2015-06-30. サンゴ体の長径 56.4 mm. 島田 剛採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図6A–G. CMNH-ZG 06116. 奄美諸島喜界島, 水深 10 m. 2011-01-23. サンゴ体の長径 85.0 mm. 立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋とサンゴ体壁の穴.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.

図7A–G. CMNH-ZG 07516. 奄美大島手安, 水深 5 m. 2016-01-29. サンゴ体の長径 71.0 mm. 立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F, G: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
H: 肋とサンゴ体壁の穴.
I: サンゴ体下面中央付近の顆粒配列.
J, K: 斜め方向から見た肋の突起列.
L: 生時のサンゴ体.

図の撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態：成体のサンゴ体は自由生活性・単口性で、ほぼ円形の輪郭を持つ。観察に用いた標本の長径は 4.5～9.3 cm (N=16) (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 18.5 cm)。長径は短径の1.00～1.09倍程度。サンゴ体は厚みのある円盤状で、口の周辺がやや盛り上がり、その周囲はほぼ水平または縁辺に向かいなだらかに傾斜する。サンゴ体下面は平面またはわずかに凹入する。口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなるサンゴ体長径方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の13～21％程度。軸柱の長軸延長線方向に位置する隔壁は軸柱付近から斜めに立ち上がる。

隔壁は厚く密に配列し、隔壁間の間隙は狭い。大型 (相対的に低次) の隔壁と小型 (相対的に高次) の隔壁が交互に並び、両者の高さの差はやや大きい。大型隔壁の内縁部には触手葉が形成される。触手葉はよく発達するもの (図1E, 4E, 5E, 6E) からあまり発達しないもの (図3E) まで変異が大きい。触手葉の両側の隔壁は触手葉を囲むように湾曲し、波型になる。隔壁の縁辺には不規則な形の顆粒状の細かい鋸歯が並ぶ。鋸歯の数は 1 cm あたり26～50程度。隔壁は多少なりとも有孔で、穴の多い隔壁では縁辺部がささくれ状になることがある (図6E)。隔壁側面は不規則な形状の顆粒で密に覆われ、隣り合う顆粒が癒合して隔壁縁辺と平行な列状になることがある(図1E, 7F, G)。

肋はほぼ同大 (図1F, G, 3F, G) またはやや大きめの肋が周期的に形成され (図2F, G, 4F, G, 5F, G, 6F, G, 7H, J, K)、下面中央部付近を除き直線的で明瞭。肋の縁辺には鈍端 (図1G, 7J ) またはやや尖った (図3G, 6G ) 不規則な形状の突起列が並ぶ。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり31～40程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く。

生時の色彩は一様な淡褐色～黄褐色で、通常昼間は触手を伸さない。

識別点：本種はほぼ円形のサンゴ体を持つことから、長円形のサンゴ体を持つ Pleuractis ゾウリイシ属の他種とは容易に識別される。

円形の輪郭を持つ自由生活性・単口性のクサビライシ類のうち、本種および Lithophyllon repanda マルクサビライシ、Danafungia scruposa ナミトゲクサビライシ、シタザラクサビライシの４種はサンゴ体壁にスリット状の穴が開くことでその他の種と識別される。これらの種の中で、本種は隔壁の鋸歯が顆粒状であること (他の３種では隔壁縁辺の鋸歯は三角形で大きい)、肋縁辺の突起が細かく顆粒状であること (他の３種では肋の突起は大きく、形態は種によりさまざま)、隔壁が厚く密に配列し、波状になること (他の３種ではあまり厚くなく、ほぼ直線的かわずかに波状になる程度) で識別される。

また、Lithophyllon scabra はサンゴ体によりやや波状の隔壁や弱い触手葉を持ち、本種と類似した形態に見えることがある。本種は、L. scabra と比較して隔壁がより明瞭な波状で、触手葉の発達も良好なものが多いことのほか、隔壁が厚く、サンゴ体の輪郭が円形に近く、口の周りが多少なりとも盛り上がり、骨格にスリット状の穴が開くことで、隔壁が薄く、サンゴ体がやや楕円形で、上面全体が緩やかに盛り上がり、骨格に穴が開かない L. scabra と識別される。

和名の由来：西平 (1988) は和名の由来を明記していないが、本種の隔壁が波状にうねることに因み命名されたものと思われる。

備考：Pleuractis granulosa ナミクサビライシは、Klunzinger (1879) により F. granulosa として記載され、後に Döderlein (1902)により Fungia "Repanda-Gruppe" に含められた。Wells (1966) は同グループに対し F. repanda Dana, 1846 をタイプ種とする新亜属 F. (Verrillofungia) を提唱したが、F. granulosa が同亜属に含まれることを明示しておらず、正式に Fungia (Verrillofungia) granulosa の学名 (新組み合わせ) を用いたのは Veron & Pichon (1980) である。その後、Hoeksema (1989) はナミクサビライシの隔壁や肋の細部の形態は F. (Verrillofungia) よりも F. (Pleuractis) に近いが、サンゴ体が円形のため長円形のサンゴ体を持つ F. (Pleuractis) には含められないとして新亜属を設立し、ナミクサビライシを F. (Wellsofungia) granulosa とした。その後クサビライシ科の分子系統解析を行った Gittenberger et al. (2011)は 、ナミクサビライシと Pleuractis paumotensis ゾウリイシおよび P. moluccensis ネジレクサビライシは、後者２種と P. gravis アツゾコゾウリイシよりも近縁であるとの仮説が強く支持されるとして、Wellsofungia を Pleuractis のジュニアシノニムとし、ナミクサビライシをゾウリイシ属に含めた。このことにより、Pleuractis は長円形と円形の両方の形態のサンゴ体を持つ種を含むこととなった。

執筆者：立川浩之

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更新履歴：

2025-11-29 公開

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