Poritidae ハマサンゴ科
Porites ハマサンゴ属
Porites cylindrica Dana, 1846
(Figs. 1-11)
Porites cylindrica Dana, 1846: 559 [Fiji?]; 1849: pl. 54, fig. 4; Vaughan 1918: 205, pl. 92, figs. 3, 3a; Veron & Pichon 1982: 35, figs. 48-52; Shirai & Sano 1985: 238, fig. 4; Nishihira 1988: 73, 3 figs.; Uchida & Fukuda 1989: 186, 2 figs., 210, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 167, 4 figs.; Veron 2000: vol. 3, 332 (part), figs. 1-3, 5, 7.
Porites attenuata: Shirai 1977: 539, 4 figs.
Porites salomonis tertia: Shirai 1977: 541, 2 figs.
ユビエダハマサンゴ 白井, 1977
(図1-11)
ユビエダハマサンゴ 白井, 1977: 541, 2図 (Porites salomonis tertia として); 西平 1988: 73, 3図; 内田・福田 1989: 186, 2図, 210, 2図; 西平・Veron 1995: 167, 4図.
ベルベットエダハマサンゴ 白井, 1977: 539, 4図 (Porites attenuata として).
ツツハマサンゴ 白井 in 白井・佐野, 1985: 238, 図4.
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図1-6. HY-HC16-056, 芝草状群体. 奄美大島阿鉄, 水深 8 m. 2016-10-02.
図7. HY-HC11-045, 樹木状群体. 西表島網取湾, 水深 11 m. 2011-06-29.
図8. 同上, クローズアップ.
図9. HY-HC14-080, 081, 色彩と形状が異なる2タイプの群体. 西表島網取湾, 水深 3 m. 2014-07-01.
図10. HY-HC17-025, 攪乱を受けたと思われる準塊状群体. 奄美大島龍郷湾, 水深 3 m. 2017-09-10.
図11. HY-HC14-008, 樹木状群体. 宮古島狩俣東離礁ナガル・ガマ, 水深 22 m. 2014-03-04.
図12. HY-HC14-139, 外観がユビエダハマサンゴ (図11) にそっくりの未知種. 宮古諸島八重干瀬, 水深 28 m. 2014-09-02.
図の標本採集・撮影は全て横地洋之.
形態:群体形は芝草状や樹木状で、まれに、強い攪乱を受けたと思われる不規則な突起をもつ準塊状群体も見られる。安定した環境では、樹木状の群体が高さ 1 m 以上、直径数 10 m におよぶ大きな群落を形成する。芝草状や樹木状群体では、先細りの枝が連続的に分岐し所々で癒合する。枝の直径は、先端付近では 1 cm に満たないが、癒合部分や大きく成長した群体の下部では 5 cm 以上の太さに達する。群体表面はなめらかで、個体はほとんど凹まない。莢径は最大で 1.5 mm 程度。個体は密着しないことが多く、個体間隔が莢径より大きくなるところもある。隔壁は楔形で厚く、典型的なハマサンゴ型配列を示す。隔壁間隙はほぼ均一で、隔壁に比べてずっと狭い。側隔壁は軸柱近くに達し、中央窩は小さい。軸柱は杭状で高さはパリと同程度か低く、時にこれを欠く。三幅対は通常融合し、方向隔壁は側隔壁に比べて短い。パリは5〜7本で良く発達する。隔壁には通常2個の歯状突起が同心円状に見られ、内側の歯状突起はパリと同程度に良く発達する。生時の色彩には、薄茶色、青みがかった灰色、黄色などがある。昼間もポリプを伸ばしていることが多く、その場合は表面が白っぽく見える。
識別点:本種のITSクレードはⅠで、Porites lutea コブハマサンゴなどの代表的塊状種の多くや P. horizontalata ウスイタハマサンゴと同じグループに属する (Kitano et al. 2016, 北野ら 2017)。このグループは、おしなべてサンゴ個体の構造が端正で、隔壁は典型的なハマサンゴ型配列を示す。一方、これまでに得られた他の樹木状種はすべてクレードⅧで、P. lichen ベニハマサンゴと同じグループに属する。このグループは、隔壁配列が読み取りにくく全体に荒れた印象を与えるものが多い (備考参照)。
分布と生態:奄美大島以南に分布し、内湾や礁池では大きな群落を形成することがある。オニヒトデが最も好まないサンゴの1つで、他のサンゴが壊滅的な食害を受けた後でも残っていることが多い。
Veron (1992) では、本文中で九州北東部に、Table 1 で土佐清水に本種の分布記録があるとしているが、典拠した Utinomi
(1971) は大分県蒲江湾のサンゴに関する報告であり、土佐清水のものではない。西平・Veron (1995) で本種の分布地とされている土佐清水は、Veron
(1992) に依拠したことによる間違いであろう。また、Veron (1992) が本種と見做した Utinomi (1971) の P. andrewsi は、図からは P. heronensis complex フタマタハマサンゴ種複合体と判断されるので (フタマタハマサンゴ種複合体の頁参照)、蒲江湾 (九州北東部) からも本種の分布記録はないことになる。
和名の由来・変遷:和名は群体の形状に由来すると思われる。白井 (1977) は P. attenuata Nemenzo, 1955 にベルベットエダハマサンゴを、P. salomonis tertia Bernard, 1905 にユビエダハマサンゴを新称として与えたが、内田・福田 (1989) は両者を共に P. cylindrica と見做し、名前が短い後者を和名として採用した。従って、白井・佐野 (1985) が P. cylindrica に対して与えたツツハマサンゴは異名となる。西平 (1988) は、出版年は内田・福田 (1989) より古いが、和名は印刷中の内田・福田 (1989)
に従ったとしている。
備考:ハマサンゴ属の中では比較的同定が容易とされる種だが、本種には樹木状のほかに準塊状とも言えるものなど群体形に幅広い変異があるだけでなく、三幅対の状態、パリや軸柱の発達程度など、個体の構造にも変異が見られる。これらの変異には生息環境や群体が受けた撹乱の履歴のみならず遺伝的要因が関与している可能性があり、今後の詳しい検討が待たれる。また、宮古諸島からは生時の外観が本種にそっくりにもかかわらずITSクレードがⅧで個体の構造も全く異なる未知種
(図12) が得られており、目視による同定には注意が必要である。
参考:担名タイプの写真等
Porites cylindrica Dana, 1846 ── Holotype, USNM 708 [Smithson NMNH]; in Vaughan (1918) pl. 92, figs. 3, 3a [Internet Archive]
Porites attenuata Nemenzo, 1955 ── Holotype, UP C-162 [Nemenzo Species List]. 左記の標本番号は担名タイプのものであり、表示されている標本写真のそれと思われるが、明示なし。
Porites salomonis tertia Bernard, 1905 ── in Bernard (1905) pl. 8, fig. 9 [BHL]; pl. 11, fig. 4 [BHL]
引用文献:
Bernard HM (1905) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. V. The family Poritidae II. The genus Prites. Part I. Porites of the Indo-Pacific Region. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
Dana JD (1846, 1849) United States exploring expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842 under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. VII. Zoophytes. Lea and Blanchard, Philadelphia. [Smithsonian Libraries: text, plates]
北野裕子・横地洋之・深見裕伸(2017)日本産ハマサンゴ属(刺胞動物門:イシサンゴ目)の分子系統解析および骨格形態解析. 日本動物分類学会第53回大会, 海洋研究開発機構, 横浜研究所.
Kitano YF, Yokochi H, Tisthammer K, Forsman ZH, Yasuda N, Fukami H (2016) Molecular phylogeny of Porites (Poritidae, Scleractinia, Anthozoa) from Japan. The 22nd International Congress of Zoology and the 87th Meeting of the Zoological Society of Japan Joint Events in Okinawa, Japan, 14-19 Nov. 2016.
Nemenzo F (1955) Systematic studies on Philippine shallow water scleractinians: I. Suborder Fungiidae. Nat Appl Sci Bull Univ Philipp 15: 3-84.
西平守孝 (1988) フィールド図鑑 造礁サンゴ. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.
白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
Utinomi H (1971) Scleractinian corals from Kamae Bay, Oita Prefecture, Northeast of Kyushu, Japan. Publ Seto Mar Biol Lab 19: 203-229, pls. 10-13. [京都大学]
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Veron JEN (1992) Hermatypic corals of Japan. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 3. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Pichon M (1982) Scleractinia of eastern Australia, part IV.
Family Poritidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
執筆者:横地洋之
Citation:
更新履歴:
2023-11-12 公開
2024-11-10 図キャプションに標本採集の表記を追記