Top page科・属リストAcroporidaeAcroporaAcropora akajimensis

Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属

Acropora akajimensis Veron, 1990
(Figs. 1-18)

Acropora akajimensis Veron, 1990: 102 (part), figs. 7, 9 [Akajima, Okinawa]; Veron 2000: vol. 1, 273 (part), fig. 7.

Acropora donei: Wallace 1999: 224 (part), pl. 50, figs. B, E-G, I.

not Acropora akajimensis: Nishihira & Veron: 1995: 110 (part), upper fig. (= Acropora sp.)

? Acropora akajimensis: Veron 1990: 102 (part), figs. 8, 10; Nishihira & Veron 1995: 110 (part), 1 skeleton fig.; Veron 2000: vol. 1, 273 (part), figs. 5, 6, 1 skeleton fig.

アカジマミドリイシ 西平・Veron, 1995
(図1-18)

アカジマミドリイシ 西平・Veron, 1995: 110 (一部).

非 アカジマミドリイシ:西平・Veron 1995: 110 (一部), 上段図 (=ミドリイシ属の一種).

? アカジマミドリイシ:西平・Veron 1995: 110 (一部), 骨格図.

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18

図1-4. AMO-188. 奄美大島大浜海浜公園, 水深 6 m. 2017-09-14. 下池和幸. 浅場の枝が太い群体. 放射サンゴ個体の多くは唇弁状: 図4. 中軸サンゴ個体の長い隔壁の様子.

図5-8. AMO-130. 奄美大島大浜海浜公園, 水深 20 m. 2017-09-11. 下池和幸. 中深度の枝が細い群体.

図9-12. TO-22-05. トカラ列島宝島, 水深 4 m. 2022-08-21. 下池和幸. 形が整った芝草コリンボース状の大群体.

図13-16. TO-22-06. トカラ列島宝島, 水深 4 m. 2022-08-21. 下池和幸. 図9-12の群体の隣で岩陰にいた枝が細い群体. 図9-12とは、元は同じ群体だったと思われる.

図17, 18. GS_AMM116. 奄美大島実久, 水深 4 m. 2016-10-06. 鈴木豪. 枝先と個体の開口部が鮮やかな青色に発色した群体.

形態:小群体はコリンボース状であるが、水平方向に主枝を伸ばしながら1次側枝が斜め上方に伸び、これらの枝の上に2次側枝が生じて芝草コリンボース状となる。水平枝はほとんど融合せず、上面には分枝して間もない中軸サンゴ個体が点在する。主枝から斜め上方へ分枝した1次側枝は、分枝の根元で直径 7~14 mm、分枝点からの長さは 90 mm 以下である。希に乱れた樹木状になることがある。

中軸サンゴ個体はやや大きく、外径は 2.0~4.0 mm、内径は 1.0~1.4 mm である。隔壁は長く発達し、1次隔壁は莢の中心付近まで達するものもあり 1R 以下、2次隔壁は 2/3R 以下である (図4)。

放射サンゴ個体は管状または唇弁状で外側に湾曲し、いずれの場合も開口部は耳形である。開口部はラッパ状に広がることが多く、莢壁は薄い。立ち上がった枝先付近では放射サンゴ個体が管状に長く伸び、開口部が広がる傾向にあり、等間隔で規則的に配列するが、水平枝や分枝の根元付近では様々なサイズの唇弁状個体が不規則に配列する。1次隔壁は 2/3R まで発達し、2次隔壁は 1/3R 以下である。

水深が深い場所や浅海でも陰になった場所では枝が細くなり、放射サンゴ個体の開口部の広がりは小さくなる傾向にある。共骨は粗い網目状で、側偏棘が列を成して並び、放射サンゴ個体の側面と枝先に向かうに従って肋状または肋が発達する。並列した肋状または肋の間には網目状に穴が空いているので、放射サンゴ個体の薄い莢壁はレース状に透けて見える。

識別点:基本的に Acropora sp. aff. tenuis ウスエダミドリイシは直立枝が優勢なコリンボース状、A. yongei ヤングミドリイシは樹木状であるのに対して、本種は水平枝が優勢な芝草コリンボース状であり、これら近縁の種とは群体形でおおよそ識別できる。枝先付近で管状の放射サンゴ個体が長く伸び、開口部がラッパ状に広がることも本種の特徴である。また、本種は同じ TENUIS GROUP の他種と比べて中軸サンゴ個体の隔壁が長い傾向にある。ちなみに、これまで本種と同種とされていた南半球に分布する A. donei は本種ほど骨格が脆くなく、放射サンゴ個体の莢壁もさほど薄くならない。また、群体形は卓コリンボース状に成長することもある。

分布と生態:トカラ列島宝島以南、琉球諸島の奄美大島から西表島にかけて、および小笠原諸島に分布する。沖ノ鳥島でも A. donei として記録されている (Kayanne et al. 2012)。波当たりの穏やかな礁斜面や礁池に生息する。破片分散によって増えることもあり、局所的に多くの群体が占め、岩礁を被覆するように純群落を形成することもある。色彩はクリーム色や淡褐色や灰色で、中軸個体と放射個体の莢壁が青色や紫色になるものもあり、この色は枝先に行くに従って濃くなる。触手が青いこともある。本種は近縁の A. sp. aff. tenuis ウスエダミドリイシなどと同じく、初夏の満月頃の日没直後に産卵するが、慶良間諸島の阿嘉島では群体の部位による卵成熟の違いから、産卵月が分かれる現象が観察された (Shimoike et al. 1992)。

和名の由来:Veron (1990) には、阿嘉島で採取されたホロタイプに対して、研究をサポートした阿嘉島臨海研究所のある阿嘉島にちなんで学名を命名したと記されている。

和名を提唱した西平・Veron (1995) に掲載されている骨格写真はフィリピンのセブ島産の標本で、パラタイプに指定されたものであるが、阿嘉島産のホロタイプと同一種であるか疑わしい。また阿嘉島で撮影された生体写真はミドリイシ属の一種ではあるが、本種ではない。

和名の提唱に際して、和名の基準標本が指定されていない場合、提唱した文献に掲載された図版に写っている標本等を基準標本と見なすのが通例である。しかし西平・Veron (1995) に掲載された生体写真は、群落の一部を写したもので基準標本となる群体が特定できない。またセブ島産のパラタイプにわざわざ阿嘉島の名を冠することは、不自然である。そのため、西平・Veron (1995) が「アカジマミドリイシ」の和名を提唱したのは、阿嘉島産のホロタイプに対してであったと推認される。そこで本稿では「アカジマミドリイシ」を本種の和名として認める。

備考:本種は Wallace (1999) によって A. donei のシノニムとされていた。しかし、Bridge et al. (2023) は、日本で A. donei とされている種はグレートバリアリーフの A. donei とは分子系統学的に大きく異なることから、別種であると指摘している。執筆者はこれを支持し、以前から日本で A. donei とされていた種は A. akajimensis と同種だと考えていたので、本稿ではこれを A. akajimensis とする。

本種の記載論文である Veron (1990) には阿嘉島産のホロタイプとフィリピンのセブ島産のパラタイプが掲載されている。両者は同種として扱われているが、放射サンゴ個体の形状が異なり、阿嘉島産は管状個体の開口部がラッパ状に広がり唇弁状になることも多いのに対して、セブ島産は管状個体が長く伸びて開口部が広がらず、ほとんど唇弁状にならない。本稿では阿嘉島産のものを本種とするが、セブ島産のものが本種の種内変異か別種であるかは今後の検討が必要である。

参考:担名タイプの写真

Acropora akajimensis Veron, 1990 ── Holotype, MTQ G32475. キャプションに "Type specimen" と表記された骨格標本写真3枚 [Corals of the World]; [Queensland Museum Network]

引用文献:

Bridge TCL, Cowman PF, Quattrini AM, Bonito BE, Victor S, Harii S, Head CEI, Hung JY, Halafihi T, Rongo T, Baird A (2023) A tenuis relationship: traditional taxonomy obscures systematics and biogeography of the 'Acropora tenuis' (Scleractinia: Acroporidae) species complex. Zool J Linn Soc. 10.1093/zoolinnean/zlad062. [ResearchGate]

Kayanne H, Hongo C, Okaji K, Ide Y, Hayashibara T, Yamamoto H, Mikami N, Onodera K, Ootubo T, Takano H, Tonegawa M, Maruyama S (2012) Low species diversity of hermatypic corals on an isolated reef, Okinotorishima, in the northwestern Pacific. Galaxea J Coral Reef Stud 14: 73-95. [J-Stage]

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

Shimoike K, Hayashibara T, Kimura T, Omori M (1992) Observasions of split spawning in Acropora spp. at Akajima Island, Okinawa. Proc 7th Internat Coral Reef Symp Guam 1992 1: 484-488.

Veron J (1990) New Scleractinia from Japan and other Indo-West Pacific Countries. Galaxea 9: 95-173. [Flanders Marine Institute]

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.

執筆者:下池和幸

Citation:

 

更新履歴:

2023-11-12 公開