Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora aspera (Dana, 1846)
(Figs. 1-8)
Madrepora aspera Dana, 1846: 468 [Fiji]; 1849: pl. 38, figs. 1, 1a, b.
Madrepora cribripora Dana, 1846: 470 [Fiji]; 1849: pl. 31, figs. 1, 1a–d.
Madrepora hebes Dana, 1846: 468 [Fiji]; 1849: pl. 35, fig. 5.
Acropora yaeyamaensis Eguchi & Shirai in Shirai, 1977: 489, 3 figs. [Yeyama Islands].
Acropora (Acropora) aspera: Veron & Wallace 1984: 266, figs. 646-654; Wallace 1999: 234, pl. 54, figs. A-J.
Acropora aspera: Shirai & Sano 1985: 188, fig. 3; Uchida & Fukuda 1989: 92, 2
figs., 131, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 118, 3 figs.; Veron 2000:
vol. 1, 342, figs. 1-4, 1 skeleton fig.; Wallace, Done & Muir 2012:
20, fig. 8; Sugihara 2016: 7, 59, 2 figs.
ヒメマツミドリイシ 内田・福田,1989
(図1-8)
サオトメミドリイシ 江口・白井 in 白井, 1977: 489, 3図 (Acropora yaeyamaensis として); 白井・佐野 1985: 188, 図3.
ヒメマツミドリイシ 内田・福田, 1989: 92, 2図, 131, 2図; 西平・Veron 1995: 119, 3図; 杉原 2016:
7, 59, 2図.
図1-4. AMT-40. 西表島網取湾, 水深 5 m. 2014-06-30. 下池和幸. 長い樹木状群体.
図5-8. MIY-KK2016-016. 多良間島, 水深 4 m. 2016-02-15. 梶原健次. コリンボース状に近い群体.
形態:群体は、枝がほぼまっすぐ伸びる樹木状で、時に枝があまり伸長しない結果としてコリンボース状に近い群体形になることがある。枝は 30°~90° の角度で分枝するが、分枝回数は概ね2回までである。枝は先細りで、太さが安定した部分の直径は 1 cm 前後、群体基部や老成部分では 2 cm 程度になる。
中軸サンゴ個体は外径 3~4 mm 程度で、1~2 mm ほど突出する。隔壁の長さは、1次隔壁で 2/3R 以下、2次隔壁で 1/3R 以下である。放射サンゴ個体は大小2タイプあり、大小の個体数比率は一定しない。大型個体は外径 1.0~1.2 mm 前後になる。大型個体は水平唇状開口の唇弁状で、外唇部分は形が整っており、枝の成長軸に対して直角に近い方向へ 1.0~1.5 mm ほど伸びる。内唇はほとんど発達しない。隔壁の長さは、1次隔壁で 1/3R 以下、2次隔壁で 1/4R 以下で発達が悪い。小型個体は、大型個体の半分以下のサイズで、半埋在する。骨格は多孔質で、個体外壁は肋状、共骨は網目状で偏平棘をともなう。
識別点:本種 Acropora aspera ヒメマツミドリイシと、A. pulchra オトメミドリイシの2種がミトコンドリアの調節領域の配列に基づく系統樹では近縁とされ、これに形態上の類似性から A. teres (和名なし) を加えた3種を本図鑑では ASPERA GROUP としてまとめている。このうち A. teres は、放射サンゴ個体が突出せず莢壁もほとんど発達しないことから、識別は容易である。一方、ヒメマツミドリイシとオトメミドリイシは概観がやや似るが、前者は放射サンゴ個体の莢壁がやや長く伸びて個体配列がきれいな鱗状となるのに対して、後者は莢壁の突出が短めで個体配列があまり揃わない点で識別できる。
分布と生態:西表島から奄美大島まで、ならびに小笠原諸島父島サのンゴ礁域に分布する (父島での分布確認は1992年)。主に礁原や礁池などで潮下帯から水深 10 m 以浅の静穏環境でみられる。群体は固い基盤上のほか、砂質底の上で生育することも多い。
和名の由来:和名は、内田・福田 (1989) により与えられたが、由来については述べられていない。「ハイマツミドリイシによく似ている」と述べているほか、枝径がハイマツミドリイシで 7~15 mm、ヒメマツミドリイシで 4~10 mm とも記述していることから、ハイマツミドリイシより細い枝振りであるとして「ヒメ」を冠したと思われる。なおハイマツ
(這松) は樹木名である。
江口・白井 in 白井 (1977) は、新種 A. yaeyamaensis として記載した標本に対してサオトメミドリイシの和名を与え、後に白井・佐野 (1985) が A. aspera と同定した別の標本に対して「白井新称」として同じサオトメミドリイシの和名を与えている。A. yaeyamaensis は Veron & Wallace (1984) で A. aspera のシノニムである可能性が指摘され、Veron (1992) ではシノニムとされている。白井・佐野 (1985) が新称としてサオトメミドリイシの和名を
A. aspera に与えた理由は示されていないが、 A. yaeyamaensis からの和名継承にあたることから、新称としたのは不適切である。
内田・福田 (1989) は、A. aspera に対して新たな和名としてヒメマツミドリイシを与えた。先取権の原則に基づけば、サオトメミドリイシの和名が使われるところであるが、新たな和名を提唱した理由については述べられていない。内田・福田
(1989) 以降、ヒメマツミドリイシの和名が定着していると見なせることから、和名の安定性を優先し、ここでは和名としてヒメマツミドリイシを採用する。
参考:担名タイプの写真
Madrepora aspera Dana, 1846 ── Holotype, USNM 285 [Smithson NMNH]
Madrepora hebes Dana, 1846 ── Syntypes, USNM 286 [ditto]; USNM 287 [ditto]
Madrepora cribripora Dana, 1846 ── Syntypes, USMN 289 [ditto]
引用文献:
Dana JD (1846, 1849) United States exploring expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842 under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. VII. Zoophytes. Lea and Blanchard, Philadelphia. [Smithson Lib: text, plates]
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.
白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
杉原薫 (2016) パラオ・グアム産サンゴ類標本目録. 琉球大学博物館 (風樹館) 収蔵資料目録第11号. 琉球大学博物館 (風樹館), 西原町. [琉球大学風樹館]
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
Veron JEN (1992) Hermatypic corals of Japan. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.
Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide
staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland
Museum, Brisbane. [ResearchGate]
執筆者:梶原健次
Citation:
更新履歴:
2023-11-12 公開