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Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属

Acropora granulosa (Milne Edwards & Haime, 1860)
(Figs. 1-23)

Madrepora granulosa Edwards & Haime, 1860: 156 [Ile Bourbon].

Acropora rayneri: Shirai 1977: 500, 2 figs.

Acropora (Acropora) granulosa: Veron & Wallace 1984: 405, figs. 1018-1026; Wallce & Wolstenholme 1998: 342, fig. 138; Wallace 1999: 330, pl. 95, figs. A-H.

Acropora caroliniana: Shirai & Sano 1985: 189, fig. 7.

Acropora granulosa: Nishihira & Veron 1995: 150, 1 fig.: Veron 2000: vol. 1, 382, figs. 1-7, 1 skeleton fig.; Wallace, Done & Muir 2012: 80, fig. 38.

Acropora speciosa: Yokochi et. al. 2019: 57, pl. 51.

not Acropora granulosa: Shirai in Shirai & Sano 1985: 194, fig. 23 (= Acropora microclados).

ツツハナガサミドリイシ 白井, 1977
(図1-23)

オオヅツハナガサミドリイシ 白井 in 白井・佐野, 1985; 189, 図7 (Acropora caroliniana として).

ツツハナガサミドリイシ 西平・Veron, 1995; 150, 1図.

非 ツツハナガサミドリイシ 白井, 1977: 500, 2図 (= Acropora cerealis); 白井 in 白井・佐野, 1985; 194, 図23 (= Acropora microclados).

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23

図1-4. KS-AMO-004. 奄美大島阿鉄, 水深 7 m. 2016-10-02. 浅場の芝草コリンボース状群体.

図5-8. KS-AMO-010. 奄美大島阿鉄, 水深 20 m. 2016-10-02. 深場で大きく成長した卓コリンボース状群体.

図9-12. KS-MYK23-55. 宮古諸島八重干瀬キジャカ, 水深 28 m. 2023-10-29. 群体形がブッシュ状で末枝が太い群体 (Acropora caroliniana に似ている).

図13-16. KS-AMT-81. 西表島サバ崎, 水深 35 m. 2014-07-02. 深場で扁平に大きく成長した板状群体 (Acropora speciosa に似た末枝が細いタイプ).

図17-23. KS-AMT-82. 西表島サバ崎, 水深 42 m. 2014-07-02. 深場で水平枝が扁平に広がった卓コリンボース状の小群体 (Acropora speciosa に似た末枝が細いタイプ); 図21. 骨格の上面; 図22, 23. 骨格の下面 (水平枝は扁平になり、個体は見られない).

写真は全て下池和幸.

形態:小群体は芝草コリンボース状で、成長に伴い水平枝が網目状に癒合しながら広がって卓コリンボース状または板状になり、最大で直径60cmに達する。直立する2次分枝 (末枝) の太さは直径 3~7 mm で、群体間で変異があり、長さは 20 mm 以下で長く伸びることはない。中軸サンゴ個体は筒状に突出し、外径 1.3~2.8 mm、内径 0.5~0.9 mm。1次隔壁は3/4R以下、2次隔壁は1/4R以下である。放射サンゴ個体は円形または楕円開口の丸い密着管状で、外径は 1.0~1.8 mm (出芽直後の若い個体を除く)。疎らに配列し1本の末枝に放射サンゴ個体が1つしか見られないこともある。1次隔壁は1/2R以下、2次隔壁は僅かで見られないこともある。骨格は緻密で堅く、共骨の表面には全体的に細分棘や単一尖端棘が密生しているため滑らかに見える。水深が深い場所では水平枝が扁平に広がり、下面には個体が見られない。

識別点:枝が太い群体は同じ種群の Acropora loripes マルヅツハナガサミドリイシとの区別が難しいが、本種は放射サンゴ個体が小さく、疎らに配列する点などで識別できる。本調査での計測の結果、放射サンゴ個体の外径 1.8 mm が両種の境界線にあたると見られ、A. loripes は概ねこの値以上、A. granulosa (本種) は概ねこの値以下である。また、A. microclados マツバミドリイシは直立枝の先端で細長く伸びた中軸サンゴ個体の特徴が本種と似ているため混同するかもしれないが、直立枝の下方には放射サンゴ個体が密に整然と配列する点、共骨が網目状でサンゴ個体 (中軸・放射) の側面に肋または肋状が形成される点で本種と識別できる。

分布と生態:西太平洋・インド洋、紅海のサンゴ礁海域に広く分布し、国内では八重山諸島から奄美大島にかけて分布する。潮通しの良い礁斜面に多く、水深が深い場所では大きく成長した板状群体が見られる。色彩は褐色、灰色など。

和名の由来:ツツハナガサミドリイシは白井 (1977) が A. hyacinthus と同定した標本に対して提唱した和名であるが、その同定は誤りで、恐らく A. cerealis と思われる。細い筒状の放射サンゴ個体が小枝の周囲に密生し上向きに伸びることを記しているので、これが和名の由来と考えられる。また、白井 in 白井・佐野 (1985) は A. granulosa と同定した標本に対してもツツハナガサミドリイシの和名を提唱しているが、この同定も誤りで、恐らく A. microclados と思われる。和名の由来は記されていないが、中軸サンゴ個体が筒状に長く突出することに由来すると推測される。白井 (1977) では A. rayneri (A. speciosa のシノニム) と同定し、白井 in 白井・佐野 (1985) では A. caroliniana と同定した同じ標本に対して、いずれもオオヅツハナガサミドリイシの和名を提唱したが (筒状の末枝が大きいことを意識したと思われる)、これらの同定も誤りで本種 (A. granulosa) だと思われる。従って、オオヅツハナガサミドリイシが本種に対して適格な和名とされるが、本種には極めて細い末枝を持つものも含まれるため、この和名は適切ではない。また、この和名は本種に対しほとんど使われておらず、西平・Veron (1995) で用いられたツツハナガサミドリイシが一般的に利用されている。そこで、本種に対して与えられた和名ではないものの和名の安定と和名の変更による混乱を避けるため、本種の和名としてツツハナガサミドリイシを採用した。なお、本和名とムギノホミドリイシは A. cerealis に対し異名関係となるが、この種に対しては一般的に通用している後者を採用したい。

備考:これまで、執筆者は末枝が極めて細いタイプ (図13-23) を A. speciosa として末枝が比較的太い A. granulosa (本種) と区別していた (橫地ら 2019)。しかし、この形質の違いは両者で連続しており、識別は困難である。A. speciosa の原記載 (Quelch 1886) には隔壁の長さに関する記述はないが、Wallace (1999) は、中軸サンゴ個体の1次隔壁の長さが A. granulosa では3/4R以下であるのに対して、A. speciosa では1/2R以下としている。これに従うと、本調査の該当標本では全て1/2R以上あったことから A. speciosa には当てはまらない。また、群体形がブッシュ状で末枝が太い特徴が A. caroliniana に似た群体も観察されている (図9-12)。A. speciosaA. carolinaiana の2種は国内での分布が確認されておらず、種の認識にはさらに分子系統学的な解析が必要である。

引用文献:

Milne Edwards H (1860) Histoire naturelle des coralliaires ou polypes proprement dits. Tome 3. Librairie Encyclopédique de Roret, Paris [BHL]

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

Quelch JJ (1886) Report on the Reef-corals collected by H.M.S. 'Challenger' during the years 1873-76. Report on the Scientific Results of the Voyage of H.M.S. Challenger during the years 1873–1876. Zoology. 16: 1-203, pl 1-12. [Lib 19C Sci]

白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.

白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.

Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland Museum, Brisbane. [ResearchGate]

Wallace CC, Wolstenholme J (1998) Revision of the coral genus Acropora (Scleractinia: Astrocoeniina: Acroporidae) in Indonesia. Zool J Linn Soc 123:199-384. [Zoological Journal of the Linnean Society]

横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.

執筆者:下池和幸

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更新履歴:

2024-08-17 公開