Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora loripes (Brook, 1892)
(Figs. 1-17)
Madrepora loripes Brook, 1892: 459 [Great Barrier Reef]; Brook 1893: 165, pl.8, fig. B.
Acropora (Rhabdocyathus) murrayensis Vaughan, 1918: 183, pl. 82, figs. 1, 1a, 1b [Murray Island].
Acropora lianae Nemenzo, 1967: 72, pl. 23, figs. 3, 4.
Acropora (Acropora) loripes: Veron & Wallace 1984: 397, figs. 995-1011; Wallce & Wolstenholme 1998: 340, fig. 136; Wallace 1999: 320, pl. 90, figs. A-I.
Acropora loripes: Shirai & Sano 1985: 197, fig. 30; Veron 2000: vol. 1, 388, figs. 1-7, 1 skeleton fig.; Wallace, Done & Muir 2012: 118, fig. 57.
not Acropora loripes: Nishihira 1991: 246, 1 fig. (= Acropora sp. aff. willisae); Nishihira & Veron 1995: 149, 3 figs. (= Acropora sp. aff. willisae).
マルヅツハナガサミドリイシ 白井 in 白井・佐野, 1985
(図1-17)
マルツツハナガサミドリイシ 白井 in 白井・佐野, 1985: 197, 図30.
非 マルツツハナガサミドリイシ: 西平 1991: 246, 1図(=コシバミドリイシ).
非 マルヅツハナガサミドリイシ:西平・Veron 1995: 149, 3図 (=ミドリイシ属の一種)
図1-4. KS-AMO-152. 奄美大島知名瀬, 水深 18 m. 2017-09-12. 下池和幸. 波が穏やかな深場の礁斜面で、枝が細い群体.
図5-8. MIY-KK2016-002. 宮古諸島多良間島多良間漁港沖礁池, 水深 10 m. 2016-02-14. 梶原健次. 波が穏やかな礁池で、枝が細くて大きな板状に成長した群体.
図9-12. KS-MYK23-61. 宮古諸島池間島西イラ・ビシ北, 水深 6 m. 2023-10-30. 下池和幸. 波あたりが強い浅海で、骨格が肥厚した小群体.
図13-17. KS-TO-04. トカラ列島中之島七ツ山ビーチ, 水深 3 m. 2010-07-03. 下池和幸.
波あたりが強い浅海で、骨格 (特に中軸サンゴ個体) が肥厚した群体.
形態:群体形はコリンボース状または芝草コリンボース状で、水平枝が網目状に癒合しながら広がって板状になることもある。環境による形態変異が大きく、波あたりの強い浅海では骨格が肥厚する傾向にある。LORIPES
Group の中で枝が最も太くなり、群体中央部で直立枝の直径は 6~12 mm、長さは 45 mm 以下である。中軸サンゴ個体は莢壁が肥厚して円錐形に突出し、外径 2.5~3.5 mm、内径 0.7~1.3 mm。1次隔壁は2/3R以下、2次隔壁は1/4R以下。放射サンゴ個体は開口部が鼻形または丸い密着管状で、莢壁が肥厚する。外径は 1.8~2.5 mm
(出芽直後の若い個体を除く)。中軸サンゴ個体の周囲や2次分枝の内側などで、局所的に放射サンゴ個体が無いことがあり、不規則に配列する。1次隔壁は2/3R以下、2次隔壁は1/4R以下である。骨格は緻密で堅く、共骨表面には全体的に細分棘や単一尖端棘が密生しているため、滑らかに見える。
識別点:枝が細い群体は本種と同じ種群の Acropora granulosa ツツハナガサミドリイシとの区別が難しいが、本種は放射サンゴ個体のサイズが大きく、隔壁が中軸サンゴ個体と同程度に発達する点などで識別できる。本調査での計測の結果、放射サンゴ個体の外径 1.8 mm が両種の境界線にあたると見られ、A. loripes (本種) は概ねこの値以上、A. granulosa は概ねこの値以下である。また、概形が A. secale トゲホソエダミドリイシや A. glauca ナカユビミドリイシに似ることもあるが、これらは共骨が網目状でサンゴ個体 (中軸・放射) 側面に肋状が見られる点で本種と識別でき、肋状の発達は
A. glauca の方がより顕著である。それに加え、A. secale は放射サンゴ個体が鼻形開口の管状に長く突出する点、A. glauca は放射サンゴ個体が密に整然と配列し、サンゴ個体 (中軸・放射) の隔壁が本種より発達する点でも識別できる。
分布と生態:西太平洋・インド洋、紅海のサンゴ礁海域に広く分布し、国内では八重山諸島からトカラ列島の中之島にかけて分布する。西平・Veron (1995)
では、本種は温帯域に多くサンゴ礁域で少ないと述べているが、そこに掲載されている天草産とされる生時写真2枚と、そのうち下方の骨格写真と思われる1枚は、いずれも本種ではなく、A. sp. aff. willisae コシバミドリイシの形態変異と思われる。本調査では温帯域での分布は確認していない。潮通しの良い礁斜面などの種多様性が高い場所で、他のサンゴと混生して希に見られる。色彩は褐色や緑色などで、枝先が紫やピンクなどの薄い色に発色する。
和名の由来:本種の和名は白井 in 白井・佐野 (1989) により与えられたが、由来については述べられていない。おそらく、本種と似た群体形の A. nasuta ハナガサミドリイシと比較して、丸くて大きな筒状の中軸サンゴ個体の特徴を表したものと思われる。
なお白井 in 白井・佐野 (1985) により与えられた和名はマルツツハナガサミドリイシで、「ツツ」の1音目は濁音にならない。西平 (1991)
でもこの和名が用いられているが、西平・Veron (1995) ではマルヅツミドリイシと濁音化している。西平・Veron (1995) 以降の文献では濁音となった和名が用いられるのが一般的であること、本WEB図鑑において
A. awi の和名をフトヅツミドリイシと命名して濁音を採用したことを考慮し、ここではマルヅツナハガサミドリイシを和名として採用する (⽇本産イシサンゴ⽬の標準和名の提唱と使⽤のガイドライン
(深見ら 2022) の3.7により、和名提唱者は白井 in 白井・佐野 (1985) となる)。
参考:担名タイプの写真
Madrepora loripes Brook, 1892 ── Lectotype, NHM 1892.6.8.219 [BHL]
Acropora (Rhabdocyathus) murrayensis Vaughan, 1918 ── Holotype, USNM 68295 [BHL]
Acropora lianae Nemenzo, 1967 ── Holotype, UP C-1215 [Philippine Corals by Francisco Nemenzo]
引用文献:
Brook G (1892) Preliminary descriptions of new species of Madrepora in the collection of the British Museum. Part II. Ann Mag Nat Hist 10: 451-465 [BHL]
深見裕伸・野村恵一・梶原健次・横地洋之・野中正法・立川浩之・北野裕子・鈴木豪・藤田喜久・山野博哉 (2022) 「日本産イシサンゴ目の標準和名の提唱と使用のガイドライン」の策定について. 日本サンゴ礁学会誌 24: 1-7. [J-Stage]
Nemenzo F (1967) Systematic studies on Philippine shallow-water scleractinians. VI Suborder Astrocoeniina (Montipora and Acropora). Nat Appl Sci Bull Univ Philipp 20: 1-141, 143-223
西平守孝 (1991) フィールド図鑑 造礁サンゴ 増補版. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
Vaughan TW (1918) Some shoal-water corals from Murray Island (Australia), Cocos-Keeling Islands and Fanning Island. Pap Dep Mar Biol Carnegie Inst Wash 9: 49-234, pls. 20-93. [BHL]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.
Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland Museum, Brisbane. [ResearchGate]
Wallace CC, Wolstenholme J (1998) Revision of the coral genus Acropora (Scleractinia: Astrocoeniina: Acroporidae) in Indonesia. Zool J Linn Soc
123:199-384. [Zoological Journal of the Linnean Society]
執筆者:下池和幸
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更新履歴:
2024-08-17 公開