Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora monticulosa (Brüggemann, 1879)
(Figs. 1-10)
Madrepora monticulosa Brüggemann, 1879: 576 [Rodriguez, Luzon Islands, Philippines]; Brook 1893: 130, pl. 14, fig. A.
Acropora (Acropora) monticulosa: Veron & Wallace 1984: 174, figs. 404-411; Wallace 1999: 122, pl. 8, figs. A-I.
Acropora monticulosa: Nishihira & Veron 1995: 93 (part), lower fig., 1 skeleton fig.; Veron 2000: vol. 1, 320, figs. 1-6, 1 skeleton fig.; Wallace, Done & Muir 2012: 130, fig. 63.
not Acropora monticulosa: Nishihira 1988: 40, 2 figs. (= Acropora gemmifera); Uchida & Fukuda 1989: 66, 2 figs. (= Acropora papillare); Nishihira & Veron 1995: 93 (part), upper & middle left figs.
(= Acropora gemmifera), middle right fig. (= Acropora humilis).
スボミミドリイシ 新称
(図1-10)
サンカクミドリイシ:西平・Veron 1995: 93 (一部), 下段の図, 骨格写真.
図1, 2. MIY-KK2014-036. 宮古島東保良湾沖礁斜面, 水深 6 m. 2014-01-23. 梶原健次.
図3, 4. MIY-KK2014-146. 西表島網取湾ウーピー先端, 水深 3 m. 2014-07-02. 梶原健次.
図5-10. MYK-14-024, 和名基準標本. 八重干瀬ウツグス・ヌ・ッスゥヒダ東, 水深 3 m. 2014-09-02. 下池和幸. 塊樹木状の群体形から
Acropora robusta ヤスリミドリイシのように見えるが, 放射サンゴ個体の開口部がほとんど欠刻しないで窄む点が異なる.
形態:群体形は被覆状または板状の付着基部からマウンド状または円錐形の直立枝が伸びる被覆指状で、希に塊樹木状に成長することもある。直立枝の基部の直径は 15~60 mm で先端は窄む。中軸サンゴ個体はほとんど突出せず、サイズは放射サンゴ個体と同程度に小さい。隔壁は良く発達し、1次隔壁は 3/4R 以下、2次隔壁は 1/4R 以下で見られないこともある。放射サンゴ個体は不規則に密生し、付着基部ではほとんどが埋没状であるが、直立枝の根元付近では半埋没状が多く、枝先に向かうに従って長い管状のサンゴ個体の割合が増える傾向にある。開口部は円形または楕円形で、ほとんど欠刻せずに窄んでいる。1次隔壁は 1/2R 以下、2次隔壁は棘が見られる程度で、欠くこともある。共骨は側偏棘や側偏細分棘が密に並ぶ網目状で、放射サンゴ個体の側面では棘を伴う荒い肋状になる。
識別点:GEMMIFERA GROUP の中で中軸サンゴ個体が特に小さいこと、放射サンゴ個体が円形開口の管状または半埋没状でほとんど欠刻せずに先端が窄むことなどで識別できる。Acropora robusta ヤスリミドリイシも中軸サンゴ個体が小さく群体形も似ているため本種と混同するかもしれないが、この種の放射サンゴ個体は欠刻開口の管状であるなどの点で識別できる。放射サンゴ個体が半埋没状の群体は
A. papillare サンカクミドリイシと似ているが、A. papillare の放射サンゴ個体は外唇が水平方向に張り出した唇弁状であることから明確に識別できる。
分布と生態:西太平洋・インド洋のサンゴ礁海域に広く分布し、波当たりの強い礁斜面の浅所で希に見ることができる。国内では沖縄本島以南で記録されているが、他種と混同されている可能性があり確認が必要である。色彩は褐色、緑色などで、枝の先端部は淡くなることが多い。
和名の由来:本種は円錐形に立ち上がる直立枝の形状から、群体形が似た複数の種と混同されてサンカクミドリイシと呼ばれてきた。この和名は白井 (1977) によって
A. digitifera のシノニムである A. pyramidalis (Klunzinger, 1879) に対してつけられているが、これは誤同定で、正しくは A. papillare である。また、白井・佐野 (1985) に A. robusta サンカクミドリイシとして掲載された写真、および内田・福田(1989)に A. monticulosa サンカクミドリイシとして掲載された写真も A. papillare であると見受けられる。従って、A. papillare の和名をサンカクミドリイシとすべきであり、杉原ら (2015) によって提唱されたタケノコミドリイシは異名となる。本種は和名を失うため、直立枝の先端が窄むこと、および放射サンゴ個体の開口部が窄むことに因んでスボミミドリイシを提唱する。和名基準標本は
MYK-14-024 である。
備考:本種の原記載である Brüggemann (1879) では、放射サンゴ個体は準唇弁状か管状に近いと記されている。また、Brook (1893) に掲載されている担名タイプの写真からは、板状の付着基部からマウンド状の突起が出る群体形で、放射サンゴ個体のほとんどが管状個体の一部が埋没した半埋没状であることが伺える。Veron & Wallace (1984) 以降の文献では、放射サンゴ個体が長い管状のものも含めて本種とされており、むしろ様々な長さの管状個体が混在することが一般的な種認識となっているようである。本稿ではこれら放射サンゴ個体の形状の違いを種内変異として認めるが、隠蔽種の可能性もあり、今後の検討が必要である。
参考:担名タイプの図・写真
Madrepora monticulosa Brüggemann, 1879. ── Lectotype, NHM 1876.5.5.93 in Brook (1893) pl. 14,
fig. A [BHL]
引用文献:
Brook G (1893) Catalogue of the madreporarian Ccorals in the British Museum (Natural History), Vol. I. The genus Madrepora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
Brüggemann F (1879) Corals. Philos Trans R Soc Lond, B, Biol Sci 168: 569-579. [JSTOR]
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Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide
staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland
Museum, Brisbane. [ResearchGate]
執筆者:下池和幸
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更新履歴:
2023-11-12 公開