Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora sp. aff. tenuis
(Figs. 1-12)
ウスエダミドリイシ 白井, 1977
(図1-12)
ウスエダミドリイシ 白井, 1977: 490, 3図 (Acropora hystrix として); 内田・福田 1989: 96, 2図; 西平・Veron 1995: 121 (一部), 上段図, 骨格図; 杉原ら 2015: 39, 4図.
非 ウスエダミドリイシ:西平・Veron 1995: 121 (一部), 中段図 (=アカジマミドリイシ).
図1-4. AMO-030. 奄美大島白浜, 水深 3 m. 2016-10-03. 浅場の枝が太い群体. 放射サンゴ個体は密に配列し, 枝の上面観はロゼット状.
図5-8. MYK-15-125. 宮古諸島八重干瀬キジャカ東, 水深 10 m. 2015-06-30. 中深度の枝がやや細い群体.
図9-12. AMO-174. 奄美大島国直, 水深 28 m. 2017-09-13. 深場の枝が細い群体. 放射サンゴ個体の間隔は開く.
図の標本採集・撮影は全て下池和幸.
形態:小群体はコリンボース状であるが、水平方向の主枝から分枝した1次側枝が斜め上方に湾曲しながら伸び、1次側枝から分枝した2次側枝が均等な間隔で林立して芝草コリンボース状となる。水平枝はほとんど融合せず、骨格は多孔質で脆いため衝撃で壊れやすい。群体は直径約 1 m にまで成長する。主枝から斜め上方へ分枝した1次側枝は、分枝の根元で直径 6~12 mm、分枝点からの長さは 70 mm 以下である。主に浅海で見られる枝が太くて強固なタイプ
(図1-4) と、広い水深帯で見られる枝が細くて繊細なタイプ (図5-12) が存在する。後者は水深が増すほど直立枝が細く短くなって、放射サンゴ個体間の間隔が開く傾向にあり、群体は水平方向に広がって卓コリンボース状になる。現在のところ、両タイプの違いは種内変異によるものと考えているが、隠蔽種が存在する可能性も捨てきれず、今後の検討が必要である。
中軸サンゴ個体は放射サンゴ個体と比してあまり大きくならず、外径は 1.8~3.2 mm、内径は 0.8~1.2 mmである。隔壁は比較的長く、1次隔壁は 3/4R 以下、2次隔壁は 1/2R 以下である。放射サンゴ個体は耳形開口の唇弁状で、外唇部の縁は丸く形が整っている。外径の幅は 1.8~2.6 mm である。放射サンゴ個体のサイズは揃っており整然と配列するため、枝を真上から見ると綺麗なロゼット状に見える。1次隔壁は 2/3R 以下、2次隔壁は 1/4R 以下で見られないこともある。しかし、サンゴ個体
(中軸・放射) の隔壁長は群体内でも変異が大きい。
共骨は水平枝から枝先に向かうに従って網目状から肋状へと発達する傾向にあり、放射サンゴ個体間では扁平な単一棘が並んだ網目状で、放射サンゴ個体の側面では肋状になり、枝先の中軸サンゴ個体にかけて肋状から肋になる。
識別点:本種は直立枝が均等な間隔で並んでおり、放射サンゴ個体の外唇が丸く整い、上面観が綺麗なロゼット状を呈することで近縁種と識別できる。Acropora millepora ハイマツミドリイシも上面観がロゼット状になるが、放射サンゴ個体の外唇部が水平に張り出して開き、外唇部の内縁が耳形にならずに角張る点で識別できる。また、本種よりも骨格が強固で、水平枝が緩やかに癒合して卓状になることもある。水深が深い場所の群体は個体配列がロゼット状に見えないため
A. paniculata との識別が難しくなるが、放射サンゴ個体の形状で識別できる。また、群体形が卓状のように見えても本種は水平枝がほとんど癒合しないことから、A. cytherea ハナバチミドリイシや A. hyacinthus complex クシハダミドリイシ種複合体などの卓状の種と識別できる。
これまで本種と同種とされてきた A. tenuis との識別は困難である。Wallace (1999) には A. tenuis について、中軸サンゴ個体の1次隔壁と2次隔壁はともに等しく 1/3R 以下という特異な隔壁の配列様式が記されている。これは本調査による本種の計測値とは大きく異なるので、種を識別する指標となりうる。
分布と生態:種子島から八重山諸島にかけて分布し、波当たりが弱い礁斜面や礁池で普通に見られる。沖ノ鳥島では A. tenuis として記録されている (Kayanne et al. 2012)。色彩はクリーム色、淡褐色、淡緑色、灰色など総じて淡色で、放射サンゴ個体の外唇が淡色で縁取られることが多い。個体の先端が青色や紫色になることもある。沖縄では初夏の満月頃、同グループの近縁種と同様に、他の多くのイシサンゴ類よりも早い時間帯の日没直後に産卵する。有性生殖による種苗生産でよく利用されている。
和名の由来:本種の和名は白井 (1977) により与えられたが、由来については述べられていない。おそらく、骨格がレース状で脆いことに因んだものと思われる。
備考:これまで A. tenuis は西インド洋から西太平洋にかけて広く分布すると考えられてきた。しかし、Bridge et al. (2023) は分子系統学的研究によって、西インド洋および北太平洋で A. tenuis とされてきたものは、南太平洋の A. tenuis とはそれぞれ別種であることを示し、日本を含む北太平洋のものは A. striata に近いことを指摘している。しかし、A. striata は芝草状または洗瓶ブラシ状を呈し、形態的 (特に群体形) には本種と似ていない。本種の外部形態は A. tenuis と酷似しているので、ここでは本種を A. sp. aff. tenuis とした。執筆者の調査により本種の隔壁の形質は A. tenuis と異なることが認められるが、今後、さらなる研究により分子系統学的解析と形質が調和した実体の解明が必要がある。なお、ウスエダミドリイシの和名は本邦で
A. tenuis とされてきた標本に対して付けられたので、その分類学的位地が変わっても和名は変わらない。
引用文献:
Bridge TCL, Cowman PF, Quattrini AM, Bonito BE, Victor S, Harii S, Head CEI, Hung JY, Halafihi T, Rongo T, Baird A (2023) A tenuis relationship: traditional taxonomy obscures systematics and biogeography of the 'Acropora tenuis' (Scleractinia: Acroporidae) species complex. Zool J Linn Soc. 10.1093/zoolinnean/zlad062. [ResearchGate]
Kayanne H, Hongo C, Okaji K, Ide Y, Hayashibara T, Yamamoto H, Mikami N, Onodera K, Ootubo T, Takano H, Tonegawa M, Maruyama S (2012) Low species diversity of hermatypic corals on an isolated reef, Okinotorishima, in the northwestern Pacific. Galaxea J Coral Reef Stud 14: 73-95. [J-Stage]
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.
杉原薫・野村恵一・横地洋之・下池和幸・梶原健次・鈴木豪・座安佑奈・出羽尚子・深見裕伸・北野裕子・松本尚・目﨑拓真・永田俊輔・立川浩之・木村匡 (2015) 日本の有藻性イシサンゴ類. 種子島編.国立環境研究所生物・生態系環境研究センター, つくば. [国立環境研究所]
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral
genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on
morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.
執筆者:下池和幸
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更新履歴:
2023-11-12 公開
2024-11-10 図キャプションに標本採集の表記を追記