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Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属

Acropora sp. aff. willisae
(Figs. 1-28)

Acropora cerealis: Utinomi 1971: 206.

Acropora loripes: Nishihira 1991: 246, 1 fig.; Nishihira & Veron 1995: 149, 3 figs.

Acropora willisae: Uchida 1988: 1, 1 fig.; Nomura & Mezaki 2005: pl. 1, fig. 12; Nomura 2016: 11, figs. A-F.

Acropora sp. aff. willisae: Nomura et. al. 2020: 9, figs. 4J-O.

コシバミドリイシ Utinomi, 1971
(図1-28)

コシバミドリイシ Utinomi, 1971: 206 (Acropora cerealis として); 内田 1988: 1, 1図 (Acropora willisae として); 野村・目崎 2005: 33, pl. 1, fig. 12 (Acropora willisae として).

マルツツハナガサミドリイシ: 西平 1991: 246, 1図 (Acropora loripes として).

マルヅツハナガサミドリイシ: 西平・Veron 1995: 149, 3図 (Acropora loripes として).

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図1-8. KS-AMK19-29. 天草牛深, 水深 14 m. 2019-10-11. 下池和幸. 芝草コリンボース状の小群体; 図3. 骨格の上面; 図4. 骨格の下面.

図9-12. KI-AMK2019-13. 天草富岡, 水深 6 m. 2019-10-09. 伊藤馨司. コリンボース状の小群体.

図13-16. AMBL-JSCT 126. 天草富岡, 水深 10 m. 2019-10-09. 鈴木豪. 板状の大きな群体.

図17.串本町双島, 2008-05-24. 野村恵一.

図18. 串本町潮岬, 2003-05-27. 野村恵一.

図19. 串本町安指, 2003-11-17. 野村恵一.

図20. 串本町有田, 2009-05-14. 野村恵一.

図21, 22. SMP-HC 0252 (K5). 串本町, 1970? 野村恵一.

図23, 24. SMP-HC 0939. 串本町潮岬ビゼン, 水深 13 m. 2003-06-13. 採取: 野村恵一, 写真: 下池和幸.

図25, 26. 宮崎県日南市小天婦浦, 水深 5 m. 1991-06-24. 採取: 野村恵一, 写真: 下池和幸.

図27, 28.高知県大月町尻貝, 水深 5 m. 1991-01-27. 採取: 野村恵一, 写真: 下池和幸. 中軸サンゴ個体の莢壁が大きく肥厚した群体; 図28. 中央右の中軸サンゴ個体は莢が欠損する.

形態:群体形は芝草コリンボース状またはコリンボース状で、成長に伴い水平枝が癒合して板状になるが、直径は最大でも 40 cm 程度である。直立枝は比較的細くて短く、直径 4~8 mm、長さ 25 mm 以下である。中軸サンゴ個体のサイズは群体によって変異幅が大きく、外径 2.4~3.8 mm、内径 0.9~1.3 mmで、莢壁が大きく肥厚して希に莢が埋没して欠損することもある (図27, 28)。1次隔壁は3/4R以下、2次隔壁は1/3R以下である。放射サンゴ個体は円形開口の密着鼻状 (枝に密着した鼻状) で、外径は 1.6~2.3 mm (出芽直後の若い個体を除く)。突出することなく、直立枝の下部や幹では半埋在または埋在する。1次隔壁は1/2R以下、2次隔壁は1/4R以下である。共骨は微細な網目状で空隙があり、網目構造の表面に沿って側偏細分棘が列生し、枝先のサンゴ個体 (中軸・放射) 側面では肉眼では見えないほど細い間隔で肋状を形成することが多いが、同じ群体内でも大きく肥厚した中軸サンゴ個体の側面では肋状は形成されない。水平枝の下面は扁平になり、埋没個体が僅かに見られる。

識別点:同じ LORIPES Group の Acropora loripes マルヅツハナガサミドリイシおよび A. granulosa ツツハナガサミドリイシは共骨に微細な細分棘や単一尖端棘が密生する点が本種と異なり、本種のように肋状を形成することはない。本種でも大きく肥厚した中軸サンゴ個体の側面では肋状を形成しないため、このような群体は A. loripes と混同するかもしれないが、本種は放射サンゴ個体が突出しない点で識別できる。これまで A. willisae Veron & Wallace 1984 と同一視されてきたが、この種の特徴 (Veron & Wallace 1984, Wallace 1999, Wallace et. al. 2012 を参照) は次の点で本種と異なる。①中軸サンゴ個体は大きく肥厚することはない。②放射サンゴ個体の外唇が突出する。③サンゴ個体 (中軸・放射) の隔壁は本種より発達が悪く、1次・2次隔壁長は、中軸サンゴ個体では2/3R以下 (1次)、1/4R以下 (2次)、放射サンゴ個体では1/4R以下 (1次)、欠損 (2次) である。④共骨には本種と形状が異なる単一鈍端棘が密生し、肋状を形成しない。また、本種は概形が A. glauca ナカユビミドリイシや A. valida ホソエダミドリイシに似ているが、放射サンゴ個体の形状が A. glauca は丸い密着管状である点が、A. valida は鼻形開口だが管状に突出する点が、密着鼻状~埋没状である本種とそれぞれ異なる。

分布と生態:本調査では九州の天草で確認された (Nomura et. al. 2020)。高知県大月町 (野村・目崎 2005)、串本 (野村 2016)、および宮崎県日南市で A. willisae として記録されたものも、骨格標本を観察した結果から本種であると断定された。岩礁上に生育し、色彩は褐色、深緑色、灰色などで、日中でも褐色の触手を伸ばしていることが多い。

和名の由来:Utinomi (1971) は大分県の南端に位置する蒲江で採集した標本を A. cerealis と同定しコシバミドリイシの和名を用いたが、和名の提唱年や由来は不明である。A. cerealis は温帯域に分布しないので誤同定と考えられ、正しくは本種 (A. sp. aff. willisae) である可能性もあるが写真がないため判断できない。しかし、コシバミドリイシは温帯域に分布する本種の和名として使用されているので、和名の安定と混乱の発生を回避するため、これを和名として採用する。

備考:本種と同一視されてきた A. willisae はグレートバリアリーフをタイプ産地とし、西太平洋の熱帯・亜熱帯海域に分布するとされている (Wallace 1999)。西平・Veron (1995) は A. willisae が本邦で八重山から土佐清水にかけて分布するとしたが、掲載された写真は西オーストラリア産のもので本邦に分布するものとは別種である。また、西平 (1991) と西平・Veron (1995) に掲載された A. loripes の写真は本種 (A. sp. aff. willisae) の形態変異であると考えられる。本種は沖縄などの亜熱帯域で出現していないことから、本邦の温帯域に限定して分布する固有種である可能性が高い。しかし、形態変異の幅が広いため、隠蔽種や交雑種が存在する可能性も考えられ、さらに分子系統学的な検討が必要である。

参考:関連担名タイプの写真

Acropora willisae Veron & Wallace, 1984 ── Holotype, MTQ G49313 [CotW]. 標本情報の記述はないが、キャプションに "Showing plate formation." と書かれた2枚の写真のうち、50 mm のスケール表示があるものは原記載 p. 413 の fig. 1035、同じく "Showing corallites." と書かれたものは p. 414 の fig. 1038 と同一写真.

引用文献:

西平守孝 (1991) フィールド図鑑 造礁サンゴ 増補版. 東海大学出版会, 東京.

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

野村恵一 (2016) 串本産有藻性イシサンゴ類図鑑. Ⅰ シズカテマリ亜目. マリンパビリオン 特別号5. [串本海中公園]

野村恵一・目崎拓真 (2005) 高知県大月町海域から記録された造礁性サンゴ類. Kuroshio Biosphere 2: 29-43. [黒潮生物研究所]

Nomura K, Yokochi H, Kimura T, Kajiwara K, Nojima S, Arakaki S (2020) Zooxanthellate scleractinian corals collected from Amakusa, western Kyushu, Japan. Coast Ecosyst 7: 1-52. [Society for Coastal Ecosystems Studies - Asia Pacific]

内田紘臣 (1988) コシバミドリイシ Acropora willisae. マリンパビリオン 17 (12) 1: 49.

Utinomi H (1971) Scleractinian corals from Kamae Bay, Oita Prefecture, Northeast of Kyushu, Japan. Publ Seto Mar Biol Lab 19: 203-229, pls. 10-13. [京都大学]

Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.

Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland Museum, Brisbane. [ResearchGate]

執筆者:下池和幸

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更新履歴:

2024-08-17 公開