Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora teres (Verrill, 1866)
要再検討種 (taxon inquirendum)。「分類上の問題点」の項を参照。
Madrepora teres Verrill, 1866: 20 [Amami-Oshima].
Acropora teres: Hoffmeister 1925: 58, pl. 10, figs. 1a, 1b.
? Acropora teres distans Wells, 1954: 418, pl. 110, figs. 1-3 [Rongelap Atoll, Marshall Islands].
? Acropora teres: Nishihira & Veron 1995: 104, 1 fig.; Veron 2000: vol. 1, 209, figs.
5, 6, 1 skeleton fig.
形態:原記載ならびに Hoffmeister (1925) に掲載された holotype の写真によると、本種は長く伸びる樹木状群体で、最大の特徴は、放射サンゴ個体が共骨に埋没して全く突出しない点にある。しかし、本種の実体については不明であり、別の樹木状種のシノニムである可能性もある。
以下、参考までに原記載の要約を記す。『群体は樹木状で長く伸び、わずかに先細りとなる。分枝角度は 50° ほど。中軸サンゴ個体は小さくほとんど突出しない。6枚の1次隔壁はよく発達するが、6枚の2次隔壁は痕跡的。放射サンゴ個体は小さく、密に分布しない。
枝の先端付近では、放射サンゴ個体はやや上を向き、開口部の外唇がわずかに出る。枝の先端以外の部分では、放射サンゴ個体は外側 (枝の成長軸に対してほぼ直角の方向)
を向き、個体全体が埋在して枝の表面から突出しない。共骨は、多孔質でざらつく。枝の長さは 15~20 cm、直径は 13 mm ほど。個体の直径は 1 mm ほどである。』
分布と生態:タイプ産地は奄美大島。西平・Veron (1995) 及び Veron (2000) では沖縄島での記録があるとされ、後者では沖縄産標本の写真を掲載している
(参考:Corals of the world)。また東北大学総合学術博物館古生物標本データベースには、沖縄産標本が3点記録されている (写真の掲載はなく、本稿執筆者は実物を確認していない)。
なお Veron (1992) は、Table 1 で沖縄島に本種の分布記録があるとしているが、典拠に関する本文中の記述では "?
Kawaguti (1983): Yaeyama Is." としており、整合していない。 "? Kawaguti (1983)"
は沖縄県水産試験場八重山支場が発表した報告書のことで、川平湾での本種確認を記録している (同定者は川口四郎博士)。ただし、文字のみの記録で標本写真の掲載はない
(上述の東北大データベースに沖縄県水産試験場寄贈とされる標本が2点あり、これが川平湾産の可能性がある)。
分類上の問題点:WoRMS (WLoS) では、taxon inquirendum (要再検討種) とされ、有効名とは見なされていない。また Wallace (1999) では本種の
Holotype を検討した結果について unresolved とされている。これは、本種が独立した種であるのか、または他種のシノニムであるのか結論がでなかった、の意と思われる。
放射サンゴ個体が共骨に埋没して全く突出しないという点において、他のミドリイシ属には見られない特異な形態を有している。しかし、原記載以降、確認例がきわめて少ないこともあり、偶然、イレギュラーな形態を示した可能性も排除できない。本種の実体確認のためには、担名タイプならびに担名タイプと同じ特徴を備えた標本の詳しい検討が必要である。
重要な参考標本:亀田ら (2013) に掲載されている Acropora aff. pulchra は、かつて八重山諸島の黒島周辺で見られた。高さ 2 m 近くにも達する枝状群体を形成し、放射サンゴ個体の莢壁外唇がわずかに突出する特徴をもつ。A. pulchra オトメミドリイシに比べると、群体が大きく成長する点と、莢壁の突出がきわめて弱い点が異なる。一方、莢壁が突出せず個体がほぼ埋没する A. teres に比べると莢壁が突出する点が異なるが、群体が長く伸びる点で共通点が見られる。A. cf. teres と位置づけて、A. teres である可能性も含めての再検討が必要である。なお、黒島周辺で見られたこの群落は、1980年代のオニヒトデ大発生の食害を受けて消失、以後再確認されていない。
図1-6. Acropora aff. pulchra 1: 図1. 群落. 黒島. 1975-11-20. 福田照雄; 図2. KU-C306. 黒島. 1976-06-23. 採集 福田照雄,
撮影 亀田和成; 図3, 4. KU-C455. 黒島. 1974-1988. 亀田和成; 図5, 6. KU-C595. 黒島. 1974-1988.
亀田和成.
図7-10. Acropora aff. pulchra 2: 図7, 8. KU-C307; 図9, 10. KU-C1056; 両標本とも黒島. 1976-06-23. 採集 福田照雄, 撮影
亀田和成.
参考:担名タイプの写真
Madrepora teres Verrill, 1866 ── Holotype, USNM 377 in Hoffmeister (1925) pl. 10, figs. 1a, 1b [HathiTrust] . なお所蔵は Smithson NMNH(写真公開なし)。
Acropora teres distans Wells, 1954 ── Holotype, USNM 44464 in Wells (1954) pl. 110, figs. 1-3
[USGS Publ WH]; [Smithson NMNH]; [Reef Builders] ※後2者の標本は、原記載 fig. 1 の下側の部分と思われる。
謝辞:図1~10は、福田照雄氏 (元串本海中公園センター) と亀田和成氏 (黒島研究所) のご快諾の下、本稿で使用させていただいた。これらは、まだ黒島周辺のサンゴ礁生態系が健全だった頃に記録された貴重な資料であるだけでなく、奄美大島から記載された
A. teres の実体に迫る可能性を秘めている点でもその貴重さが特筆される。ここに記して、感謝申し上げる。
引用文献:
Hoffmeister JE (1925) Some corals from American Samoa and the Fiji. Papers from the Department of Marine Biology of the Carnegie Institution of Washington 22, 1-90, pls. 1-23. [HathiTrust]
亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. NPO法人日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游舎, 東京.
沖縄県水産試験場八重山支場 (1983) 昭和57年度保護水面管理事業場調査報告書(貝類・藻場). [沖縄県水産海洋技術センター]
Veron JEN (1992) Hermatypic corals of Japan. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Verrill AE (1866) Synopsis of the polyps and corals of the North Pacific Exploring Expedition, under Commodore C. Ringgold and Capt. John Rodgers, U.S.N., from 1853 to 1856. Collected by Dr. Wm. Stimpson, Naturalist to the Expedition. With descriptions of some additional species from the west coast of North America. Part III. Madreporaria. Communications of the Essex Institute, Salem. 5(3): 17-50, pls. 1-2. [BHL]
Wells JW (1954) Recent corals of the Marshall Islands. Bikini and Nearby
Atolls, part 2, oceanography (biologic). U.S. Geological Survey Professional
Papers 260-I. United States Governmnet Pringing Office. Washington D. C.
pp.385-486, pls.94-187. [USGS Publ WH]
執筆者:梶原健次
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更新履歴:
2023-11-12 公開