Acroporidae ミドリイシ科
Acropora ミドリイシ属
Acropora yongei Veron & Wallace, 1984
(Figs. 1-8)
Acropora (Acropora) yongei Veron & Wallace, 1984: 293, figs. 719-732 [Britomart Reef, Great Barrier Reef]; Wallace 1999: 226, pl. 51, figs. A-I.
Acropora yongei: Nishihira & Veron 1995: 124, 3 figs.; Wallace, Done & Muir 2012:
238, fig. 117.
ヤングミドリイシ 西平・Veron, 1995
(図1-8)
ヤングミドリイシ 西平・Veron, 1995: 124, 3図.
図1-4. MIY-KK2016-084. 奄美群島油井小島, 水深 8 m. 2016-10-05. 梶原健次: 図3. 中軸サンゴ個体は大きく突出する. 放射サンゴ個体は耳形開口の唇弁状; 図4. Acroopra akajimensis アカジマミドリイシよりも隔壁が短い.
図5, 6. MIY-KK2016-021. 宮古諸島多良間漁港沖礁池, 水深 3 m. 2016-02-15. 梶原健次. 浅場で密に分枝する群体.
図7, 8. MYK-15-136. 宮古諸島大神西, 水深 18 m. 2015-07-01. 下池和幸. 深場で枝が長く伸びる群体.
形態:群体形は樹木状で、枝は波当たりが強い場所では短く、水深が深い場所や波が穏やかな場所では長く伸びる傾向にある。主枝の直径は 8~15 mmで、長さは 50 cm を超えることもある。中軸サンゴ個体は大きく突出し、外径は 2.0~4.0 mm、内径は 0.8~1.4 mmである。1次隔壁は 2/3R 以下、2次隔壁は 1/3R 以下である。放射サンゴ個体は耳形開口の唇弁状で外側に湾曲して突出する。外唇部の広がりは少なく、外径は 1.8~2.3 mm である。枝先付近では等間隔で規則的に配列することが多いが、成長途中の個体が混在して不規則に配列することもある。1次隔壁は 1/2R 以下、2次隔壁は 1/4R 以下で見られないこともある。共骨は粗い網目状で、側偏棘が列を成して並び、放射サンゴ個体の側面と枝先に向かうに従って肋状または肋が発達する。多孔質の骨格は軽くて脆い。
識別点:基本的に Acropora sp. aff. tenuis ウスエダミドリイシは直立枝が優勢なコリンボース状、アカジマミドリイシは水平枝が優勢な芝草コリンボース状であるのに対して、本種は多くが樹木状であり、これら近縁の種とは群体形でおおよそ識別できる。芝草状の群体はアカジマミドリイシとの識別が困難なこともあるが、本種は骨格がより強固で、放射サンゴ個体は管状に長く伸びず、莢壁はさほど薄くならず、外唇部の広がりも少ないことで識別できる。また、本種の方が中軸サンゴ個体と放射サンゴ個体ともに隔壁がより短い傾向にある。他の樹木状になる種とは放射サンゴ個体の形状で容易に識別できる。
分布と生態:西太平洋・インド洋・紅海のサンゴ礁海域に広く分布し、国内では奄美大島以南の琉球諸島および小笠原諸島に分布する。礁斜面や礁池など多様性が高いサンゴ礁の各所で普通に見られ、波が穏やかな砂礫底では他の樹木状の種と共に大きな群集を形成することもある。色彩は淡褐色や灰色で、枝の先端や放射個体の開口部が淡色や薄青色になることが多い。
和名の由来:和名は西平・Veron (1995) によって、学名 (yongei; ヤング博士 Dr. Yong への献名) にちなんで与えられたと思われる。
備考:Bridge et al. (2023) は、日本で A. yongei ヤングミドリイシとされているものはグレートバリアリーフの A. yongei と分子系統学的にやや離れていることを指摘しているが、別種であるとの結論を出していないので、本稿では A. yongei として扱った。Veron & Wallace (1984) にある担名タイプをはじめ、西平・Veron (1995) や Veron
(2000) などに掲載されている群体形はいずれも丈が短い樹木状または芝草状であるが、本邦の A. yongei には長く伸びた樹木状 (図7, 8) も存在する。また、群体形は樹木状だが、放射サンゴ個体が長い管状でアカジマミドリイシなどに似た群体が西表島の網取湾で出現し、これを
A. cf. yongei とした。これらは種内変異かもしれないが、未記載種または交雑種の可能性も考えられ、今後の検討が必要である。
参考:担名タイプの写真
Acropora yongei Veron & Wallace, 1984 ── Holotype, MTQ G55079 in Veron & Wallace
(1984) figs. 719, 723 [BHL]; Corals of the worldにも、原記載 figs. 719 と同一の写真が掲載されている。
引用文献:
Bridge TCL, Cowman PF, Quattrini AM, Bonito BE, Victor S, Harii S, Head CEI, Hung JY, Halafihi T, Rongo T, Baird A (2023) A tenuis relationship: traditional taxonomy obscures systematics and biogeography of the 'Acropora tenuis' (Scleractinia: Acroporidae) species complex. Zool J Linn Soc. 10.1093/zoolinnean/zlad062. [ResearchGate]
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
Wallace CC (1999) Staghorn corals of the world: A revision of the coral genus Acropora (Scleractinia; Astrocoeniina; Acroporidae) worldwide, with emphasis on morphology, phylogeny and biogeography. CSIRO Publishing, Melbourne.
Wallace CC, Done BJ, Muir PR (2012) Revision and catalogue of worldwide
staghorn corals Acropora and Isopora (Scleractinia: Acroporidae) in the Museum of Tropical Queensland. Queensland
Museum, Brisbane. [ResearchGate]
執筆者:下池和幸
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更新履歴:
2023-11-12 公開