Fungiidae クサビライシ科
Cycloseris Milne Edwards & Haime, 1849 マンジュウイシ属
Cycloseris sinensis Milne Edwards & Haime, 1851
(Figs. 1-14)
Cycloseris sinensis Milne Edwards & Haime, 1851: 112 [les mers de la Chine]; Claereboudt 1991: 21; Veron 2000: vol. 2, 238, figs. 1, 2, 1 skeleton fig.; Hoeksema 2014: 73; Sugihara et al. 2015: 92, 3 figs.; Yokochi et al. 2019: 45.
Diaseris distorta: Veron & Pichon 1980: 121, figs. 194–196; Veron 1986: 326 (part), 1 skeleton fig.; Nishihira 2019: 56 (part), 1 skeleton fig.
Diaseris fragilis: Veron & Pichon 1980: 123, figs. 197–201; Shirai & Sano 1985: 225, fig. 1; Veron 1986: 327, figs. 4, 5, 1 skeleton fig.; Nishihira 1991: 111, 1 fig.; Nishihira & Veron 1995: 240, 2 figs.; Nishihira 2019 (part): 56, 2 underwater figs.
Fungia (Cycloseris) sinensis: Hoeksema 1989: 31, figs.1, 43–54, 611, 616.
? Diaseris fragilis: Nishihira 1988: 111.
シナマンジュウイシ 西平・Veron, 1995
(図1-14)
アクロバットサンゴ 白井 in 白井・佐野, 1985: 225, 図1.
オオワレクサビライシ:西平 1991: 111, 1図; 西平・Veron 1995: 240, 2図 (Diaseris fragilis として); 西平 2019: 56, 2図 (水中写真).
シナマンジュウイシ: 杉原ら 2015: 92, 3 図; 横地ら 2019: 45.
? オオワレクサビライシ 西平, 1988: 111; 内田・福田 1989: 18.
? シナマンジュウイシ 西平・Veron, 1995: 234.
白井・佐野 (1985) は本種の標本を Diaseris fragilis と同定し、白井新称としてアクロバットサンゴの和名を与えた。西平 (1988) は D. fragilis をオオワレクサビライシ (仮称) とし、内田・福田 (1989) はアクロバットサンゴをオオワレクサビライシの異名とした。オオワレクサビライシの和名の提唱者は西平
(1988) と判断されるが、掲載された水中写真はタイ産のもので、正確な種の同定は困難である。なお、西平 (1988) の増補版である西平 (1991)
では分布状況以外の解説は同一の文章であるが、和名の「(仮称)」は削除され、写真は C. sinensis と同定される西表島産の水中写真に差し替えられている。一方、西平・Veron (1995) は C. sinensis に対しシナマンジュウイシの和名を提唱したが、その基準となる標本や写真は示しておらず、また日本産のものと低緯度域のものの形態の違いを述べているため、その実態には疑問が残る。以上のように本種の和名については混乱した状況にあるが、杉原ら
(2015) は種子島産の本種のワレクサビライシ型の標本を示してシナマンジュウイシの和名を用いた。本WEB図鑑も杉原ら (2015) に倣い、C. sinensis に対しシナマンジュウイシの和名を用いることとする。
図1A–H. CMNH-ZG 06749. 西表島網取湾, 水深 27 m. 2014-07-01. サンゴ体の長径 52.0 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図2A–H. OCTU-C90044. 西表島網取湾, 水深 30 m . 1990-07-19. サンゴ体の長径 56.0 mm.
横地洋之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の配列状態.
H: 肋の突起列.
図3A–H. CMNH-ZG 06916a.宮古島狩俣, 水深 26 m. 2014-10-23. サンゴ体の長径 23.1 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図4A–H. CMNH-ZG 10570. 宮古諸島大神島, 水深 20.5 m. 2023-10-28. サンゴ体の長径 26.2 mm.
横地洋之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図5A–B. CMNH-ZG 03963a–f. 沖縄本島西沖ナガンヌ島付近, 水深 57 m, ドレッジ採集.
2005-05-22. サンゴ体の長径 9.4–13.0 mm. 広島大学練習船豊潮丸/立川浩之採集.
A: サンゴ体6点の上面.
B: サンゴ体6点の下面.
図6A–H. KS-AMO-165. 奄美大島国直海岸, 水深 42.7 m. 2017-09-13. サンゴ体の長径 34.2 mm.
下池和幸採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図7A–H. KS-AMO-167. 奄美大島国直海岸, 水深 42.5 m. 2017-09-13. サンゴ体の長径 70.4 mm.
下池和幸採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図8A–H. HY-HC16-078. 奄美諸島加計呂麻島実久海岸, 水深 48 m. 2016-10-06. サンゴ体の長径 27.9 mm.
横地洋之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図9A–H. CMNH-ZG 08578. 奄美大島国直海岸, 水深 30 m. 2017-09-13. サンゴ体の長径 34.4 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 側面 (2方向) および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F–G: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
H: 肋の配列状態.
I: 斜め方向から見た肋の突起列.
図10A–H. CMNH-ZG 09708a. 奄美大島阿鉄海岸, 水深 12 m. 2019-03-02. サンゴ体の長径 40.1 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 側面 (2方向) および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F–G: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
H: 肋の配列状態.
I: 斜め方向から見た肋の突起列.
図11A– I. CMNH-ZG 05513a–b. 小笠原諸島父島列島西島, 水深 52 m, ドレッジ採集.
2009-07-15. A–G: CMNH-ZG 05513a.サンゴ体の長径 27.4 mm. H–I: CMNH-ZG
05513b. サンゴ体の長径 18.9 mm. 東京都小笠原水産センター調査船興洋/立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 側面 (2方向) および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: サンゴ体の上面.
I: サンゴ体の下面.
図12A–H. CMNH-ZG 05516a. 小笠原諸島父島列島西島, 水深 60 m, ドレッジ採集. 2009-07-16.
サンゴ体の長径 53.6 mm. 東京都小笠原水産センター調査船興洋/立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 肋の配列状態.
H: 斜め方向から見た肋の突起列.
図13A–H. CMNH-ZG 07049. 小笠原諸島母島, 水深 28 m. 2015-02-23. サンゴ体の長径 30.8 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の配列状態.
F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 斜め方向から見た肋の突起列.
H: 生時のサンゴ体.
図14A–I. CMNH-ZG 07411. 小笠原諸島父島, 水深 25 m. 1990-12-09. サンゴ体の長径 40.7 mm.
立川浩之採集.
A–D: サンゴ体の上面, 側面 (2方向) および下面.
E: 生時のサンゴ体.
F: 隔壁の配列状態.
G: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
H: 肋の配列状態.
I: 斜め方向から見た肋の突起列.
図4H, 8Hの撮影は横地洋之、図6H, 7Hは下池和幸、その他は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.
形態:成体のサンゴ体は自由生活性で通常は単口性。サンゴ体は通常型またはワレクサビライシ型のいずれかの形状。観察に用いた通常型の標本の長径は 2.8~7.1 cm (N=4)
(Hoeksema (1989) の検討標本は最大 8.5 cm),ワレクサビライシ型のサンゴ体の半径は最大 4.1 cm (N>200)。
通常型のサンゴ体の輪郭はほぼ円形 (図1, 6–8)。長径は短径の1.00~1.08倍程度。サンゴ体は厚みのある円盤状で、上面全体が緩やかに盛り上がるか
(図6, 8)、口の周辺がドーム状に盛り上がり、その周囲が縁辺に向かいなだらかに傾斜する形状となる (図1, 7)。サンゴ体下面はほぼ平面状。口は上面中央に位置する。軸柱はサンゴ体に比して小さく、細かいトラベキュラの集合からなり、サンゴ体長径方向に延びる短い楕円形を呈する。軸柱の長径はサンゴ体長径の11~13%程度。軸柱の長軸延長線方向
(=サンゴ体の長軸方向) に位置する隔壁は軸柱付近から比較的急角度で立ち上がるため、外観上口が短く見える。
ワレクサビライシ型のサンゴ体は扇形~楔形の小片の集合からなり、再生の段階により様々な形態となる (図2–5, 9–14)。サンゴ体はやや厚みのある板状で、口の周辺の盛り上がりは見られないか、わずかに盛り上がる程度。軸柱から放射状に延びる面を破断面として自切が起こるため、軸柱部が脱落して口が不明瞭だったり、再生に伴って一時的に複数の口が観察されたりすることも多い。
隔壁は厚く直線状からやや蛇行し、極めて密に配列する。隣り合う隔壁間の間隙は狭く、骨格標本でも隔壁間の複合シナプティキュラはほとんど確認できない。大型
(相対的に低次) の隔壁と小型 (相対的に高次) の隔壁が交互に配列するが、高さの差は小さい。大型隔壁の内縁部に形成される触手葉は、よく発達するもの
(図1, 7, 9, 11, 14) からほとんど発達しないもの (図2, 4, 10, 12) まで変異が大きい。触手葉の発達したサンゴ体では、その両側の隔壁は触手葉を囲むように両側に湾曲する。隔壁の縁辺には不規則な形状の顆粒が並ぶ。顆粒は隔壁面に直交する方向に伸び、角張った突起状となることが多い。顆粒
(鋸歯) の数は 1 cm あたり30~40程度。隔壁側面は荒い顆粒で覆われ、顆粒は不規則に配置または隔壁縁辺と垂直に並び、隣接する顆粒が不規則に癒合することもある。
肋はほぼ同大のやや幅広い隆起縁状で、下面周縁部から中央部に向けほぼ直線状に配列するが、中央部付近では不明瞭となることも多く、サンゴ体によっては全体で不明瞭なこともある。肋の縁辺には尖った三角形の突起が一列に並ぶ。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり40~75程度。サンゴ体壁に穴はあかない。
生時の色彩は茶褐色~淡褐色で、放射状に淡色の模様がみられることがあり (図6H)、多くのサンゴ体で触手葉の部分が周囲より淡色または濃色を呈する
(図1H, 3H, 6H, 7H, 8H, 13H, 14H)。
識別点:本種の通常型のサンゴ体のものは、厚い隔壁が極めて密に配列し隔壁間の隙間が狭い (骨格標本でも複合プティキュラがほとんど確認できない) ことや、隔壁縁辺が尖った鋸歯状とならず不規則な形状の顆粒が並ぶことで、他のマンジュウイシ属の種と明瞭に識別される。ワレクサビライシ型のサンゴ体のものも上記の形質は共通であるが、生時
(特に触手を伸ばした状態) は類似種との識別が困難なことも少なくないため、正確な同定のためには骨格標本を観察することが望ましい。
分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985, 西平1991)、西表島 (西平1991, 横地ら 2019) および薩南諸島の種子島
(杉原ら2015) から知られている。これまでのところ、本研究会および執筆者の調査では八重山諸島の西表島、宮古諸島の宮古島・池間島、沖縄諸島のナガンヌ島、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島、薩南諸島の種子島、小笠原諸島の父島列島・母島列島から標本が得られており、本種は奄美諸島・小笠原諸島以南のサンゴ礁域に広く分布するものと思われる。波当たりの弱い礁池内や礁斜面、やや内湾の深場の砂泥底などに生息する。外洋に面した礁斜面下部の深所
(水深 50~60 m)からドレッジにより大量の標本が採集されたこともある。
和名の由来:西平・Veron (1995) は新称和名シナマンジュウイシの由来を明示していないが、本種の種小名 sinensis (中国産の、の意味) の発音と、マンジュウイシ属の種であることとを組み合わせて和名としたものと思われる。
引用文献:
Claereboudt MR (1991) 慶良間列島におけるクサビライシ類. みどりいし2: 20–23. [阿嘉島臨海研究所]
Hoeksema BW (1989) Taxonomy, phylogeny and biogeography of mushroom corals (Scleractinia Fungiidae). Zool Verh 254: 1-295. [ResearchGate]
Hoeksema BW (2014) The “Fungia patella group” (Scleractinia, Fungiidae) revisited with a description of the mini mushroom coral Cycloseris boschmai sp. n. Zookeys. 17: 57–84. [ZooKeys]
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西平守孝 (1988) フィールド図鑑 造礁サンゴ. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝 (1991) フィールド図鑑 造礁サンゴ 増補版. 東海大学出版会, 東京.
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白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
杉原薫・野村恵一・横地洋之・下池和幸・梶原健次・鈴木豪・座安佑奈・出羽尚子・深見裕伸・北野裕子・松本尚・目﨑拓真・永田俊輔・立川浩之・木村匡 (2015) 日本の有藻性イシサンゴ類. 種子島編.国立環境研究所生物・生態系環境研究センター, つくば. [国立環境研究所]
Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Pichon M (1980) Scleractinia of eastern Australia, part III. Families Agariciidae, Siderastreidae, Fungiidae, Oculinidae, Merulinidae, Mussidae, Pectiniidae, Caryophylliidae, Dendrophylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019)
西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.
執筆者:立川浩之
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更新履歴:
2025-09-28 公開