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Fungiidae クサビライシ科
Halomitra カブトサンゴ属

Halomitra pileus (Linnaeus, 1758)
(Figs. 1A–L, 2A–H)

Madrepora pileus Linnaeus, 1758: 794 [“O. Asiatico”].

Halomitra pileus: Dana 1846: 311, 1849: pl. 21, fig. 2; Veron & Pichon 1980: 187, figs. 311–314; Randall & Myers 1983: 20, figs. 362, 363; Wood 1983: 123, 126, 2 figs., 144, bottom right photo; Shirai & Sano 1985: 229, fig. 1; Veron 1986: 354, 2 figs.; Nishihira 1988: 127, 2 figs.; Hoeksema 1989: 200, figs. 32, 525–538, 662–663; Uchida & Fukuda 1989: 228, 1 fig.; Nishihira & Veron 1995: 258, 3 figs.; Kameda Mezaki & Sugihara 2013: 28, 91, 1 fig.; Veron 2000: vol. 2, 302, figs. 1–5, 1 skeleton fig.; Nishihira 2019: 60, 6 figs.; Yokochi et al. 2019: 45, 57, pl. 49.

Halomitra philippinensis: Yabe & Sugiyama 1941: 82, pl. 81, fig. 1, pls. 82, 83.

Sandalolitha robusta: Wood 1983: 145 (part), top left photo.

カブトサンゴ 西平, 1988
(図1A–L, 2A–H)

ウスヘルメットイシ 白井・佐野, 1985: 229, 1図.

カブトサンゴ 西平, 1988: 127, 2図; 内田・福田 1989: 228, 1図; 西平・Veron 1995: 258, 3図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 91, 1図; 西平 2019: 60, 6図; 横地ら 2019: 45, 57, 写真49.


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図1A–L. CMNH-ZG 06828. 西表島網取湾, 水深 25 m. 2014-08-05. サンゴ体の長径 330 mm. 立川浩之.
A–D: サンゴ体の上面, 側面, 斜め下面および下面.
E: サンゴ体中央付近の初口.
F: 初口近くの二次口.
G: 下面中心部付近の隔壁配列.
H: 生時のサンゴ体.
I, J: 隔壁の鋸歯.
K, L: 肋の鋸歯.

図2A–H. CMNH-ZG 10566. 宮古諸島八重干瀬, 水深 21 m. 2023-10-28. サンゴ体の長径約 500 mm. 立川浩之.
A: 採集標本の上面.
B: 採集標本の破断面.
C: 隔壁の間に見える複合シナプティキュラ.
D: 生時のサンゴ体.
E, F: 隔壁の鋸歯.
G: 肋の間のサンゴ体壁に見られるスリット状の穴.
H: 肋の鋸歯.

図の標本採取・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態:サンゴ体は非固着性で多口性。二次口は口周縁出芽により形成される (稀に二次口の口内出芽により形成されることがある)。

多くの非固着性クサビライシ類と同様、有性生殖で形成された芽体は固着性で、柄の上部に形成された単口の幼サンゴ体が自切して自由生活体となる (Hoeksema 1989)。小型のサンゴ体は円形~楕円形の平板状であるが、成長に従い中央部が盛り上がった中空の半球状 (ドーム状) のサンゴ体が形成される (図1A–D)。成長したサンゴ体は直径数十cmに達する (Hoeksema (1989) の検討標本の最大直径は 63.0 cm)。サンゴ体の骨格は形態の類似した Zoopilus echinatus Dana, 1846 アミガササンゴと比較すると厚く、割れにくい。このため、破片から再生したサンゴ体はアミガササンゴほど多くは観察されない。

通常の (破片に由来しない) サンゴ体では、中央部の初口は外観上明らかで、サンゴ体のほぼ中央に位置し、口を取り囲む隔壁がやや盛り上がる (図1E)。初口の周辺に形成される多数の二次口は初口とほぼ同大で、初口と同様に口を取り囲む隔壁がやや盛り上がるが、盛り上がりはサンゴ体中心寄りで顕著であるため、二次口はサンゴ体表面からやや突出しサンゴ体周縁方向に傾くように見える (図1F)。

隔壁・肋は初口を中心に放射状に配列し、ほぼ直線状で蛇行しない。低次隔壁は高次隔壁よりやや厚く、より突出する。低次隔壁の鋸歯は周縁方向にやや傾いた三角形で、サンゴ体によっては形態がやや不規則になる (図1I, J, 図2E, F)。1 cm あたりの鋸歯数は3~6程度。鋸歯の縁辺には微細な突起がわずかに認められることがあるが、多くはほぼなめらかである。隔壁側面は微細な顆粒でまばらに覆われる。顆粒は隔壁縁辺と直交して並ぶが、配列が不明瞭であることも多い。高次隔壁の鋸歯はやや小さい。隔壁はやや隙間を持って配列するため、隔壁間を結ぶ複合シナプティキュラが容易に観察される (図2C)。

肋は隔壁と対応した位置にある。サンゴ体周縁部では肋は明らかで低次肋は高次肋よりやや厚いが、中心部に近づくに従い肋は不明瞭になる。肋の鋸歯は三角形で、隔壁の鋸歯より小さく、1 cmあたりの鋸歯数は5~10程度。鋸歯の表面は微細な顆粒でやや密に覆われる (図1K, L; 図2H)。隣接する隔壁-肋ユニット間のサンゴ体壁には多くのスリット状の穴があく (図2G)。

生時の色彩は一様な暗灰色~暗褐色で、口の部分が白色になることが多い (図1H, 図2D)。サンゴ体縁辺部がピンク色・紫色・青色などになることがある (西平・Veron 1995: 258参照)。触手は透明で小さく (Hoeksema 1989) 目立たない。

識別点:Halomitra カブトサンゴ属には、カブトサンゴ以外に Halomitra clavator Hoeksema, 1989 がインドンネシア (タイプ産地) やフィリピンから知られるが (Hoeksema 1989 など)、現在のところ日本からは確認されていない。この種は本種(カブトサンゴ)と比較し、隔壁の鋸歯が三角形ではなく先の丸い滑らかな棍棒状であること、サンゴ体がカブトサンゴより薄いこと (結果的に破片からの再生サンゴ体が多くみられること) などで識別される。

カブトサンゴは大型の中空ドーム状のサンゴ体を形成する点でアミガササンゴと似るが、骨格がやや厚く壊れにくいこと (アミガササンゴの骨格は極めて薄く壊れやすい)、二次口が大きく明瞭で盛り上がり、生時には口の部分の色彩が白色であるため二次口の位置が明瞭に識別できること (アミガササンゴでは二次口は小さく不明瞭)、隔壁・肋の鋸歯が尖った三角形で表面に顆粒が少ないこと (アミガササンゴでは鋸歯の形態は不規則でさまざまな形態の顆粒や突起で覆われる) などで識別される。

カブトサンゴの隔壁・肋の鋸歯の形態は Fungia fungites (Linnaeus, 1758) シタザラクサビライシと非常に似ているが、シタザラクサビライシは基本的に単口で、稀に多口になる場合も二次口の数はわずかであること、サンゴ体は円形からやや楕円形の厚みのある円盤状でカブトサンゴのような中空のドーム状にならず、大きさもずっと小さいことなどで識別は容易である。

分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島崎枝湾 (白井・佐野 1985)、黒島 (亀田ら 2013) および西表島 (西平・Veron 1995; 横地ら 2019)、瀬底島 (西平1988) などから知られている。これまでのところ、本研究会の調査では八重山諸島の西表島網取湾および宮古諸島の八重干瀬から標本が得られている。波当たりの弱い礁斜面下部のやや深所 (観察された生息水深は約 20~25 m) に生息する。これまでに観察されたのは、いずれも大型に成長したドーム型のサンゴ体である。

和名の由来:内田・福田 (1989) は多くの日本産の造礁サンゴ類の和名を整理し、その中で白井・佐野 (1985) が Halomitra pileus に対し提唱した和名ウスヘルメットイシをカブトサンゴの異名とした。内田・福田 (1989) には和名カブトサンゴの出典は言及されていないが、彼らがカブトイシ [属] を提唱した江口 (1975) を参照していたことは明らかであり (野村恵一私信)、何らかの理由でカブトイシ属をカブトサンゴ属に改めたうえで、種 H. pileus の和名としてもカブトサンゴが既存のものであると判断した可能性が高い (江口 (1975) は H. pileus の和名は提唱していない:本ウェブ図鑑の Halomitra カブトサンゴ属のページも参照)。内田・福田 (1989) の整理した和名は西平 (1988) が先行使用したため、結果的にカブトサンゴの和名は西平 (1988) が提唱したものと解釈される。現在の和名使用の状況に鑑み、和名の安定を図り混乱を避ける観点から、本稿では Halomitra pileus の和名として西平 (1988) に従いカブトサンゴを使用することを提唱する。

引用文献:

Dana JD (1846, 1849) United States exploring expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842 under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. VII. Zoophytes. Lea and Blanchard, Philadelphia. [Smithson Lib: text, plates]

江口元起 (1975) 珊瑚と珊瑚礁. 郵政, 27(7): 54-57.

Hoeksema BW (1989) Taxonomy, phylogeny and biogeography of mushroom corals (Scleractinia Fungiidae). Zool Verh 254: 1-295. [ResearchGate]

亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. 日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]

Linnaeus C (1758) Systema Naturae per regna tria naturae, secundum classes, ordines, genera, species, cum characteribus, differentiis, synonymis, locis. Editio decima, reformata. Vol. 1. Impensis Direct. Laurentii Salvii, Holmiae [BHL]

西平守孝 (1988) フィールド図鑑 造礁サンゴ. 東海大学出版会, 東京.

西平守孝 (2019) 有藻性サンゴ類属の同定練習帳. 沖縄美ら島財団総合研究センター, 本部町.

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

Randall RH, Myers RF (1983) Guide to the coastal resources of Guam, vol. 2. The corals. University of Guam Press.

白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.

内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.

Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Veron JEN, Pichon M (1980) Scleractinia of eastern Australia, part III. Families Agariciidae, Siderastreidae, Fungiidae, Oculinidae, Merulinidae, Mussidae, Pectiniidae, Caryophylliidae, Dendrophylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

Wood EM (1983) Corals of the world, biology and field guide. T.F.H. Publications, Hardcover.

Yabe H, Sugiyama T (1941) Recent reef-building corals from Japan and the South Sea Islands under the Japanese mandate. II. Sci Rep Tohoku Imp Univ 2nd Ser Geol, spec vol 2: 67-91, pls. 60-104. [東北大学]

横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.

執筆者:立川浩之

Citation:

 

更新履歴:

2024-04-06 公開

2024-04-11 Gittenberger et al. (2011) の分子系統学的な検討に関する備考を、このページからカブトサンゴ属のページに移動。

2024-11-10 図キャプションに標本採集の表記を追記