Top page科・属リストFungiidaeHeliofungiaHeliofungia actiniformis

Fungiidae クサビライシ科
Heliofungia パラオクサビライシ属

Heliofungia actiniformis (Quoy & Gaimard, 1833)
(Figs. 1–3)

Fungia actiniformis Quoy & Gaimard, 1833: 180, pl. 14, figs. 1–2 [“sur l'îls aux Cocos, au havre Carteret de la Nouvelle-Irelande” (Carteret Islands, north of Bougainville Island, Papua New Guinea)].

Fungia actiniformis var. palawensis Döderlein, 1902: 87, pl. 6, figs. 1, 1a.

Fungia actiniformis palauensis: Yabe & Sugiyama 1941: 77, pl. 66, figs. 1–7; Shirai, 1977: 530, 4 figs.

Heliofungia actiniformis: Veron & Pichon 1980: 125, figs. 202–205, 754; Wood 1983: 118, 2 figs., 144 (middle left photo); Shirai & Sano 1985: 230, fig. 1; Veron 1986: 328, 4 figs.; Nishihira 1988: 112, 3 figs.; Hoeksema 1989: 149, figs. 387–399, 648–649; Uchida & Fukuda 1989: 20, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 241, 4 figs.; Veron 2000: vol. 2, 254, figs. 1-8, 1 skeleton fig.; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 91, 1 fig.; Nishihira 2019: 61, 6 figs.; Yokochi et al. 2019: 45, pl. 40.

パラオクサビライシ 江口, 提唱年不明
(図1-3)

パラオクサビライシ:串本海中公園センター 1977: 1, 1図; 白井 1977: 530, 4図; 白井・佐野 1985: 230, 図1; 西平 1988: 112, 3図; 内田・福田 1989: 20, 2図; 西平・Veron 1995: 241, 4図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 91, 1図; 西平 2019: 61, 6図; 横地ら 2019: 45, 写真40.


1 2 3 4

図1A–L. CMNH-ZG 06735. 西表島網取湾, 水深 20 m. 2014-07-01. サンゴ体の長径 152 mm. 立川浩之.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯.
F: 下面中心部付近の隔壁配列および成長したサンゴ体に見られる痕跡的な付着痕.
G: 肋の鋸歯
H: 生時のサンゴ体.

図2A–L. CMNH-ZG 06860. 西表島網取湾, 水深 25 m. 2014-08-06. サンゴ体の長径 152 mm. 立川浩之.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯.
G: 肋の鋸歯
H: 生時のサンゴ体.

図3A–L. CMNH-ZG 10254. 宮古諸島大神島大神干瀬, 水深 7 m. 2023-07-11. サンゴ体の長径 79 mm. 立川浩之.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯.
F: 下面中心部付近の隔壁配列および小型のサンゴ体に見られる顕著な付着痕.
G: 肋の鋸歯
H: 生時のサンゴ体.

図4. MIY-KK2014-186. 宮古諸島八重干瀬, 水深 18 m. 2014-09-05. サンゴ体の長径 162 mm. 梶原健次.

図1-3の撮影は立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm. 図4の撮影は梶原健次. スケールは一目盛 1 mm.

形態:サンゴ体は非固着性で単口性。多くの非固着性クサビライシ類と同様、有性生殖で形成された芽体は固着性で、柄の上部に形成された幼サンゴ体が自切して自由生活体となる (Hoeksema (1989) の fig. 392 を参照)。サンゴ体は円形~わずかに楕円形の厚みのある円盤状で、口の周辺は盛り上がらない。口裂底面部の長さは、サンゴ体の長径の15~30%程度。観察されたサンゴ体の長径は 23~152 mm (N=7) で、成長すると長径 20 cm程度に達する (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 21.0 cm)。隔壁は口を中心として放射状に配列し、蛇行しない。低次隔壁はよく突出し、縁辺には丸みを帯びた三角形で周縁方向にやや傾いた大型の鋸歯を備える (図1E, 図2E, F, 図3E)。低次隔壁の鋸歯数は 1 cm あたり1~5程度。高次隔壁の鋸歯はやや小さい。隔壁側面は微細な顆粒で覆われ、顆粒は縁辺部では縁辺に垂直な列状に配列するが、配列が不明瞭でランダムに分布することも多い。隔壁の配列はやや疎であるため、隔壁間の複合シナプティキュラは容易に観察される。

肋は隔壁と対応した位置にある。低次肋と高次肋は通常はほぼ同大で、サンゴ体により一部の低次肋がわずかに大きいことがある。サンゴ体裏面中央部には、芽体からの分離時に形成される付着痕が認められる (図1F; 図3F)。付着痕の直径は 11~14  mm 程度。肋は周縁部から付着痕付近まで連続し、蛇行しない。肋の縁辺は三角形~不規則な形の鋸歯で覆われる (図1F, G, 図2G, 図3F, G)。肋の鋸歯数は 1 cm あたり12~20程度。肋の側面には縁辺と垂直に配列した微細な顆粒列が見られる。隔壁・肋の間のサンゴ体壁は無孔である。

軟体部は肉厚で、生時には昼夜を問わずイソギンチャク類に類似した褐色不透明の長い触手を多数伸ばす (図1H, 図2H, 図3H)。触手先端の頂球は大きく淡色である。サンゴ体を覆う軟体部には、隔壁に対応して放射状に配列する濃淡の縞模様が見られることが多い (図4)。

識別点:生時のパラオクサビライシは、昼間でも長い触手を伸ばすという点で非常に特徴的で、他のクサビライシ科の種と見間違うことはない。むしろ、触手の長さや触手先端の頂球の形態は、Euphylliidae ハナサンゴ科の Euphyllia glabrescens (Chamisso & Eysenhardt, 1821) ハナサンゴ に類似している。パラオクサビライシは生育初期の芽体のステージを除き円盤状のサンゴ体を持ち自由生活を送るが、ハナサンゴはファセロイド型の群体を形成して基盤に付着して生息するため、サンゴ体/群体の形状を確認すれば両者の識別は容易である。骨格標本では、パラオクサビライシはクサビライシ科の種の中で最も大きな隔壁の鋸歯を持つことで、他のいかなるクサビライシ類とも容易に識別できる。

日本からは未記録のパラオクサビライシ属に含まれる第2の種 Heliofungia fralinae との識別点は、本ウェブ図鑑のパラオクサビライシ属のページの「属の特徴」の注記を参照されたい。

分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985;西平 1988)、嘉弥真島および波照間島 (亀田ら 2013)、西表島 (横地ら 2019) および宮古諸島の伊良部島 (西平・Veron 1995) などから知られている。これまでのところ、本研究会の調査では八重山諸島の竹富島および西表島網取湾と、宮古諸島の大神島および八重干瀬から標本が得られている。波当たりの弱い礁池内や礁斜面の砂礫底に生息し、しばしば多数のサンゴ体が密集して観察される。 なお、本種は環境省版海洋生物レッドリスト (環境省 2017) により、準絶滅危惧種 (NT) に指定されている。

和名の由来:江口 (1935) は、パラオ群島から Fungia actiniformis および F. actiniformis palawensis の2タクソンを報告したが、これらの識別点は述べられていない。これらのうちの後者は、Döderlein (1902) が記載した F. actiniformis の6変種の一つである F. actiniformis var. palawensis を亜種のランクに変更したものと思われる。Yabe & Sugiyama (1941) はパラオ産の標本を F. actiniformis palauensis として報告し、シノニムリストに Döderlein (1902) の変種 ”F. actiniformis var. palauensis”を挙げたうえで、江口 (1935) と同様に亜種のランクとしたが、亜種小名の綴りは誤って引用されている。

白井 (1977) は沖縄から F. actiniformis palauensis を日本新記録種として報告したが、和名として示したパラオクサビライシの出典は記していない。白井・佐野 (1985) は、亜種名のない Heliofungia actiniformis を同じ和名で報告し、和名の提唱者を江口とした。和名パラオクサビライシは、白井 (1977) の報告以前にも串本海中公園センター (1977) により沖縄産の F. actiniformis palauensis の和名として使用されているが、本稿執筆時点で和名の初出を特定することはできなかった。ここでは暫定的に提唱者を江口、提唱年を不明として報告する。

なお、パラオクサビライシの和名は、Döerderlein (1902) による変種名 palawensis (および Yabe & Sugiyama (1941) による亜種小名 palauensis) に因むものと思われる。また、学名の種小名 actiniformis は、Actinia Linnaeus, 1767 ウメボシイソギンチャク属にラテン語の接尾語 -formis (~の形の) を組み合わせたものであり、本種のイソギンチャクに似た生時の形態を表すものと考えられる。

引用文献:

Döderlein L (1902) Die Korallengattung Fungia. Abhandlungen herausgegeben von der senckenbergischen naturforschenden Gesellschaft 27: 1–162, I–XXV. [BHL]

亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. 日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]

串本海中公園センター (1977) パラオクサビライシ. マリンパビリオン, 6(2): 1.

環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室 (2017) レッドリスト掲載サンゴの種ごとの環境特性について. 環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室, 東京. [環境省]

西平守孝 (2019) 有藻性サンゴ類属の同定練習帳. 沖縄美ら島財団総合研究センター, 本部町.

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

Quoy JRC, Gaimard PJ (1833) Voyage de la corvette l'Astrolabe: exécuté par ordre du roi, pendant les années 1826-1827-1828-1829. Zoologie t.4. J. Tastu, Paris [BHL]

白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.

白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.

内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Yabe H, Sugiyama T (1941) Recent reef-building corals from Japan and the South Sea Islands under the Japanese mandate. II. Sci Rep Tohoku Imp Univ 2nd Ser Geol, spec vol 2: 67-91, pls. 60-104. [東北大学]

横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.

執筆者:立川浩之

Citation:

 

更新履歴:

2024-04-06 公開

2024-04-11 Gittenberger et al. (2011) の分子系統学的な検討に関する備考を、このページからパラオクサビライシ属のページに移動。