Fungiidae クサビライシ科
Herpolitha キュウリイシ属
Herpolitha limax (Esper, 1797)
(Figs. 1–5)
Madrepora limax Esper, 1797: 77, pl. 63. (not Madrepora limax Houttuyn, 1772: 119.)
Herpolitha limax: Yabe & Sugiyama 1941: 80, pl. 79, figs. 1, 2, pl. 80, figs. 1–3; Sugiyama 1947: 1579, fig. 4441; Shirai 1977: 533, 3 figs.; Veron & Pichon 1980: 178, figs. 294–299; Randall & Myers 1983: 20, figs. 98, 354, 355; Wood 1983: 122, 1 fig., 144 (middle right photo); Shirai & Sano 1985: 230, fig. 1; Veron 1986: 350, figs. 1–3, 1 skeleton fig.; Nishihira 1988: 123, 2 figs.; Hoeksema 1989: 168, figs. 28, 442–459, 652–653; Uchida & Fukuda 1989: 39, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 255, 3 figs.; Veron 2000: vol. 2, 292, figs. 1–5, 1 skeleton fig.; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 91, 1 fig.; Sugihara 2014: 16, 57, 4 figs.; Nishihira 2019: 62, 6 figs.; Yokochi et al. 2019: 45.
Herpolitha stricta: Shirai 1977: 533, 2 figs.; Shirai & Sano 1985: 231, fig. 2.
Herpolitha weberi: Yabe & Sugiyama 1941: 80, pl. 81, fig. 2; Veron & Pichon 1980:
180, figs. 300–304; Randall & Myers 1983: 20, figs. 358, 359; Wood
1983: 122; Shirai & Sano 1985: 231, fig. 3; Veron 1986: 351, 1 skeleton
fig.; Nishihira 1988: 124, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 256, 2
figs.; Veron 2000: vol. 2, 291, figs. 2-4, 1 skeleton fig.; Kameda, Mezaki
& Sugihara 2013: 28, 91, 1 fig.
注:18世紀後半における本種および Polyphyllia talpina (Lamarck, 1801) の分類は大変混乱している。種小名 limax Esper, 1797 には古参異名となりうる種小名 talpa Houttuyn, 1772 および trilinguis Boddaert, 1768 が存在するが、学名の混乱を解消し安定を図る観点から、国際動物命名審議会の強権によりこれらの種小名は先取権が抑制され、有効名として使用することが禁じられている。このため、本種の有効名は
limax Esper, 1797 となる (Hoeksema 1988, ICZN 1990)。詳細は Hoeksema (1988) を参照。なお、国際動物命名審議会の裁定
(ICZN 1990) 以前の出版物では、H. limax の命名者を (Houttuyn, 1772) としているものがあるので (例えば白井 1977, Veron & Pichon 1980,
Veron 1986, 西平 1988 など) 注意が必要である。
キュウリイシ 杉山, 1947
(図1-5)
キュウリイシ 杉山, 1947: 1579, 図4441 (“きうりいし”として); 白井 1977: 533, 3図; 白井・佐野 1985: 230, 図1; 西平 1988: 123, 2図; 内田・福田 1989: 39, 2図; 西平・Veron 1995: 255, 3図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 91, 1図; 杉原 2014: 16, 57, 4図; 西平 2019: 62, 6 図; 横地ら 2019: 45.
ナガレキュウリイシ 白井, 1977 :533, 32図; 白井・佐野 1985: 231, 図2.
ヒトスジキュウリイシ 白井 in 白井・佐野, 1985: 231, 図3.; 西平 1988: 124, 2図; 西平・Veron 1995: 256, 2図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 91, 1図.
図1A–I. CMNH-ZG 06189. 竹富島, 水深未記録. 2011-06-28. サンゴ体の長さ 178 mm.
立川浩之.
A–C: 写真左端付近で折損し再生したサンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 生時のサンゴ体.
E: サンゴ体上面正中線上に並ぶ口と隔壁の配列.
F–G: サンゴ体側面の二次口と隔壁の配列.
H: 隔壁の鋸歯.
I: 肋の鋸歯.
図2A–I. CMNH-ZG 06795. 西表島網取湾, 水深 30 m. 2014-08-04. サンゴ体の長さ 233 mm.
立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 生時のサンゴ体.
E, サンゴ体上面正中線上に並ぶ口と隔壁の配列.
F: サンゴ体側面の形成途中の二次口と隔壁の配列.
G サンゴ体下面の肋とサンゴ体壁の穴.
H: 隔壁の鋸歯.
I: 肋の鋸歯.
図3A–I. CMNH-ZG 06956. 宮古島狩俣東, 水深 10 m. 2014-10-24. サンゴ体の長さ 170 mm.
立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 生時のサンゴ体.
E, サンゴ体上面正中線上に並ぶ口と隔壁の配列.
F: サンゴ体側面の不明瞭な二次口と隔壁の配列.
G: サンゴ体下面の肋とサンゴ体壁の穴.
H: 隔壁の鋸歯.
I: 肋の鋸歯.
図4A–F. CMNH-ZG 06626. 宮古島狩俣東, 水深 20 m. 2014-01-25. サンゴ体の長さ 219 mm.
立川浩之.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面,側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯.
F: 生時のサンゴ体 (右上のサンゴ体が対象).
図5A–E. CMNH-ZG 07492. 奄美大島龍郷湾, 水深 20 m. 2016-01-28. サンゴ体の長さ 118 mm.
立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面,側面および下面.
D: 隔壁の鋸歯.
E : 生時のサンゴ体.
骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.
形態:サンゴ体は非固着性で多口性。成長したサンゴ体は基本的に長い楕円形であるが、長さと幅の比は変異が大きい。時に芽体の時期に複数個体が癒合したまま成長し、三叉または四叉の形態となったサンゴ体が見られる。サンゴ体の上面は通常盛り上がり、下面は平面またはやや凹入する。上面正中線上にはサンゴ体のほぼ全長にわたり深い溝が走り、その中に初口の口内出芽に由来する口が並ぶ。正中線上の溝の両側の上面~側面には口周縁出芽に由来する二次口が正中線とほぼ平行した不規則な列となって並ぶ。正中線上の口は莢心が凹入し、複数のトラベキュラからなる軸柱を持つが、軸柱が不明瞭なことも多い
(図1E, 2E, 3E)。 上面~側面の二次口は若いサンゴ体では未形成で、サンゴ体の成長に伴い隔壁の一部がサンゴ体壁方向に陥入し、二次口が形成される。形成初期の二次口は軸柱を欠き不明瞭であるが
(図2F, 3F)、サンゴ体の成長に従い少数のトラベキュラが絡まった軸柱が形成される (図1F, G)。
隔壁は蛇行せず直線的で、低次隔壁と高次隔壁が正中線にほぼ直交して交互に並ぶ。低次隔壁は高次隔壁よりやや突出し厚い。隔壁は、若いサンゴ体では多くが正中線上の溝から周縁部までつながるが
(図5A)、二次口の形成が進むと周縁部まで伸びずに途中で途切れるものが増える。低次隔壁の縁辺には三角形の細かい鋸歯が並ぶ。隔壁側面には荒い顆粒が隔壁縁辺と直交して並び、一部が癒合して鋸歯の先端からつながる畝状の隆起となることがある
(図1H, 2H, 3H, 4E, 5D)。鋸歯の数は 1 cm あたり15~30程度。肋は低次・高次で大きさの差はなく、サンゴ体下面周縁部付近では明瞭であるが
(図2G, 3G)、下面中央部に近づくと不明瞭になる。肋の縁辺にはやや尖った突起状の鋸歯が並び、鋸歯表面は尖った顆粒でまばらに覆われる (図1I,
2I, 3I)。鋸歯の数は 1 cm あたり15~20程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く。
生時の色彩は一様な淡褐色~茶褐色で、昼間でも触手を伸ばすものが多い。触手は短く数は少ないが、白色のことが多く、よく目立つ (図1D, 2D,
5E)。
識別点:Hoeksema (1989) は、キュウリイシとは別種とされることが多かった Herpolitha werberi van der Horst, 1921 ヒトスジキュウリイシをキュウリイシのシノニムとした。ヒトスジキュウリイシは、隔壁が正中線上の溝から周縁部までつながり、正中線上以外に二次口がほとんど形成されないことで、隔壁の多くが周縁部まで達せず二次口が多いキュウリイシと識別できるとされてきたが
(Veron & Pichon 1980 など)、Hoeksema (1989) は H. werberi のシンタイプにはわずかながら二次口が存在すること、隔壁の長さや二次口の数はサンゴ体の成長段階や生息環境で大きく変化すると考えられることから、これら2種を識別することはできないとした。その後も西平・Veron
(1995) や Veron (2000) は H. werberi を独立種として扱っているが、本稿では Hoeksema (1989) および Hoeksema & Cairns (2024) に従い、キュウリイシ属には
H. limax キュウリイシ1種のみが含まれるとして扱うこととする。
日本産のクサビライシ科の種のうち、Polyphyllia talpina (Lamarck, 1801) ナマコイシは長い楕円形のサンゴ体を持ち多口であることがキュウリイシと共通するが、キュウリイシはサンゴ体正中線上の長い溝の中に口が連続的に並び、溝の周囲の隔壁は溝とほぼ直交すること
(ナマコイシは正中線上の口の個体性が明らかで、口の周りの隔壁が放射状に配列する)、上面正中線上以外の口は数が少ないこと (ナマコイシは口の数が多く上面全体に一様に分布する)、触手は通常白色で短く数が少ないこと
(ナマコイシは多数の淡褐色半透明の触手を群体表面全体に伸ばす) などで識別される。
キュウリイシの隔壁や肋の鋸歯は、Lobactis scutaria (Lamarck, 1801) クサビライシと非常によく似ているが、キュウリイシのサンゴ体は長い楕円形であること (クサビライシのサンゴ体は楕円形であるがあまり長くはならない)、多口性で正中線上の溝の中に複数の口が並ぶこと
(クサビライシは通常単口で正中線上に溝は形成されない)、隔壁の内縁に触手葉は形成されないこと (クサビライシは明瞭な触手葉を持つ) などで識別は容易である。
分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985, 西平 1988)、黒島 (亀田ら 2013) および西表島 (横地ら 2019)、沖縄諸島の沖縄島
(西平・Veron 1995, 杉原 2014)、瀬底島 (西平 1988)、久高島 (西平・Veron 1995)、奄美大島以南 (杉山 1947)
などから知られている。これまでのところ、本研究会の調査では八重山諸島の竹富島・西表島、宮古諸島の宮古島・八重干瀬、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島から標本が得られている。波当たりの弱い礁池内や礁斜面の砂礫底に生息する。
和名の由来:本種の和名は杉山 (1947) により与えられている。本種のサンゴ体が長く伸び、表面に二次口による多くの凹凸がある様子を野菜のキュウリに見立てたものと思われる。
引用文献:
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執筆者:立川浩之
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更新履歴:
2024-06-29 公開
2024-11-10 図キャプションの標本採集・撮影者の表記法を変更