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Fungiidae クサビライシ科
Lobactis Verrill, 1864 クサビライシ属

Lobactis scutaria (Lamarck, 1801)
(Figs. 1-8)

Fungia scutaria Lamarck, 1801: 370 [Indian Ocean]; Shinohara 1927: 1894, fig. 3607; Yabe & Sugiyama 1941: 78, pl. 61, fig. 6, pl. 67, figs. 3-5, pls. 68, 69; Uchida & Sugiyama 1947: 1579, fig. 4440; Shirai 1977: 529, 3 figs.; Nishihira & Veron 1995: 250, 3 figs.; Veron 2000: 280, figs. 1-4, 1 skeleton fig.; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 96, 3 figs. (KU-C 687).

Fungia (Pleuractis) scutaria: Veron & Pichon 1980: 159, figs. 264-268; Randall & Myers 1983: 18, figs. 94, 352, 353; Shirai & Sano 1985: 228, fig. 8; Veron 1986: 343, figs. 1, 2, 1 skeleton fig.; Nishihira 1988: 118, 3 figs.; Uchida & Fukuda 1989: 27, 2 figs.

Fungia (Lobactis) scutaria: Hoeksema 1989: 130, figs. 19, 20, 337-347, 640, 641.

Lobactis scutaria: Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123; Sugihara 2014: 16, 57, 4 figs. (RUMF-ZG-00191); Sugihara et al. 2015: 95, 3 figs.; Yokochi et al. 2019: 46; Nishihira 2019: 65, 7 figs.

Fungia paumotensis: Veron 2000: 282 (part), fig. 4; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 95, 3 figs. (KU-C 784).

Pleuractis paumotensis: Nishihira 2019: 66 (part), 1 live specimen fig.

クサビライシ 篠原, 1927
(図1-8)

クサビライシ 篠原, 1927: 1894, 図3607; 内田・杉山 1947: 1579, 図4440; 白井 1977: 529, 3図; 白井・佐野 1985: 228, 図8; 西平 1988: 118, 3図; 内田・福田 1989: 27, 2図; 西平・Veron 1995: 250, 3図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 96, 3図 (KU-C 687); 杉原 2014: 16, 57, 4図 (RUMF-ZG-00191); 杉原ら 2015: 95, 3図; 横地ら 2019: 46; 西平 2019: 65, 7図.

ゾウリイシ:亀田・目崎・杉原 2013: 28, 95, 3図 (KU-C 784); 西平 2019: 66 (一部), 生時写真1図.


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図1A–J. CMNH-ZG 06224. 西表島崎山湾, 水深 15 m. 2011-06-29. サンゴ体の長さ 99 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
G: 生時のサンゴ体.
H: サンゴ体壁の穴.
I, J: 肋の突起列.

図2A–G. CMNH-ZG 06752. 西表島網取湾, 水深 5 m. 2014-07-01. サンゴ体の長さ 92 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図3A–G. CMNH-ZG 06625. 宮古島狩俣沖, 水深 5 m. 2014-01-25. サンゴ体の長さ 91 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図4A–G. CMNH-ZG 07530. 奄美大島大和浜, 水深 5 m. 2016-01-29. サンゴ体の長さ 105 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図5A–G. CMNH-ZG 06120. 喜界島手久津久沖, 水深 20 m. 2011-01-23. サンゴ体の長さ 96 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図6A–G. CMNH-ZG 07347. 小笠原諸島弟島蝙蝠岩, 水深 15 m. 1992-03-01. サンゴ体の長さ 154 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体 (右のサンゴ体が対象).

図7A–G. CMNH-ZG 07598. 小笠原諸島母島大崩湾, 水深 14 m. 2016-02-14. サンゴ体の長さ 137 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と触手葉および側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図8A–B. CMNH-ZG 07346. 小笠原諸島父島釣浜, 水深 10 m. 1991-04-05. サンゴ体の長さ 56 mm.
A–B: 破片から再生したサンゴ体の上面および下面.

図の標本採集・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態:サンゴ体は自由生活性で通常は単口性だが、稀に口内出芽または口周縁出芽により複数の口を持つサンゴ体が見られる (図6)。観察に用いた標本の長径は 5.6~17.2 cm (N=23) (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 18.0 cm)。成長したサンゴ体は基本的に楕円形で、長径は短径の1.3~1.8倍程度。輪郭がやや不規則で、周縁部に浅い凹入が見られるサンゴ体が多い。縦分裂 (自切) による無性生殖はみられないが、物理的な外力により破損したと思われる破片からの再生個体は稀に観察される (図8)。サンゴ体の上面は通常一様に盛り上がり、口の周辺がドーム状に突出することは少ない。下面は平面状またはわずかに凹入する。

口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなる長軸方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の9~22%倍程度。

隔壁は大型隔壁と小型隔壁が交互に並ぶ。大型隔壁の内縁部には顕著な触手葉を持つ。触手葉の両側の隔壁は触手葉を挟む形で外側に蛇行するため、隔壁は波型になる。大型隔壁の縁辺には先端の尖った三角形の細かい鋸歯が並び、隔壁側面には隔壁縁辺と垂直に並ぶ顆粒列を持つ (図1E, F, 2E, 3E, 4E, 5E, 6E, 7E)。顆粒列は一部が癒合して鋸歯の先端からつながる畝状の隆起となることがある。鋸歯の数は 1 cm あたり25~50程度。

肋は一様な大きさで、サンゴ体下面中央部を除き明瞭である。肋の縁辺にはやや先細りの突起が並び、突起表面は尖った棘で覆われる。このため、突起は多数の尖頭を持つように見えることが多い (図1I, J, 2F, 3F, 4F, 5F, 6F, 7F)。隣接した突起が部分的に癒合して、板状になることもある (図3F, 5F)。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり15~20程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く (図1H)。

生時の色彩は一様な淡褐色~茶褐色で、隔壁の触手葉の部分はやや淡色である。口の部分が紫色になるサンゴ体が多い。触手は透明で、隔壁の触手葉の部分に位置し、通常昼間でも伸ばすものが多い (図1G, 2G, 3G, 4G, 5G, 6G, 7G)。

識別点:シノニムリストにも示したように、本種は Pleuractis paumotensis ゾウリイシと混同されることがあり、またゾウリイシの類似種である P. gravis アツゾコゾウリイシとも混同される可能性がある。これら3者は、楕円形のサンゴ体を持つこと、サンゴ体壁が有孔であること、肋が一様な大きさであることなどの特徴が類似しているが、

 ○隔壁の触手葉:クサビライシでは明瞭に有り、ゾウリイシには無くアツゾコゾウリイシでは無いかある場合も不明瞭。

 ○隔壁縁辺の鋸歯および側面の顆粒の配列:クサビライシでは鋸歯は尖った細かい三角形で、側面の顆粒は隔壁縁辺と垂直に配列する;ゾウリイシでは鋸歯は鈍角のやや大きな三角形で、側面の顆粒は隔壁縁辺と平行して配列し、ジグザグ状の畝となる;アツゾコゾウリイシでは鋸歯は非常に細かい棘または顆粒の列で、側面は顆粒によって一様に覆われる。

 ○肋縁辺の突起:クサビライシでは突起はやや先細りで尖った棘を持つため複数の尖頭を持つように見える;ゾウリイシとアツゾコゾウリイシでは突起は鈍端で表面は不規則な凹凸を持ち、ゾウリイシではサンゴ体壁と平行な隆起列を持つこともある。

などの骨格細部の形態的特徴で識別される。また、サンゴ体の輪郭は、クサビライシでは縁辺部の凹入のためやや不規則なものが多いのに対し、ゾウリイシおよびアツゾコゾウリイシでは多くは整った楕円形であること、生時のクサビライシは昼間でも触手を伸ばすことが多いが、ゾウリイシおよびアツゾコゾウリイシは通常昼間は触手を伸ばさないことなども識別の目安となる。

分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985, 西平 1988)、黒島 (亀田ら 2013) および西表島 (横地ら 2019)、沖縄諸島の沖縄島 (西平・Veron 1995, 杉原 2014)、瀬底島 (西平 1988)、慶良間諸島 (Claereboudt 1991)、薩南諸島の種子島 (杉原ら 2015)、小笠原諸島 (Yabe & Sugiyama 1941, 内田・杉山 1947, 立川ら 1991) などから知られている。串本海中公園センター (1975) は「分布は小笠原・奄美大島以南」とするのとあわせて「串本では昭和7年に1個体発見されているが、その後の報告はない」としているが、串本からの具体的な記録を見出すことはできなかった。

これまでのところ、本研究会および執筆者の調査では八重山諸島の石西礁湖・西表島、宮古諸島の宮古島・八重干瀬、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島・喜界島、小笠原諸島の父島列島および母島列島から標本が得られており、薩南諸島の種子島で観察されている。本種は、薩南諸島以南および小笠原諸島のサンゴ礁域に広く分布するものと思われる。波当たりの弱い礁池内や礁斜面、外洋に面した斜面のやや深場など様々な環境に生息する。

和名の由来:くさびらはキノコ類をさす古い日本語で、マツタケ・シイタケ等のキノコの柄を取り去った形が本科の単口性・自由生活性の種の形態とよく似ていることから、飯島 (1918) により広義の Fungia にクサビライシ [属] の和名が与えられ、その後篠原 (1927) によりクサビライシが本種の和名として用いられた。同じ語幹を持つ科名 Fungiidae と属名 Fungia の和名に齟齬が生じていることについては、本WEB図鑑のクサビライシ属のページを参照。

引用文献:

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執筆者:立川浩之

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更新履歴:

2024-11-27 公開