Top page科・属リストAcroporidaeMontiporaMontipora composita

Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora composita Crossland, 1952
(Figs. 1–7)

Montipora composita Crossland, 1952: 195, pl. 28, figs. 1, 5, pl. 29, figs. 1, 3, 4 [GBR]; Wells 1954: 439, pl. 148, figs. 4, 5, pl. 150, figs. 1-3; Nomura, Suzuki & Iwao 2017: 5, fig. 2 (22); Kajiwara et al. 2020: 76; Nomura & Suzuki 2022: 3, figs. 137, 138.

Montipora efflorescens: Nishihira & Veron 1995: 70, 2 figs.

Montipora grisea: Nishihira & Veron 1995: 713, 4 figs.

not Montipora composita: Nomura 2017: 98, fig. 1 (2) (= Montipora sp. OKINAWATOGE).

? Montipora suvadivae Pillai & Scheer, 1976: 37, pl. 14, figs. 1-4 [Fulu, Suvadiva Atoll, Maldives].

セノビコモンサンゴ 野村・鈴木・岩尾, 2017
(図1-7)

セノビコモンサンゴ 野村・鈴木・岩尾, 2017: 5, 図2 (22); 梶原ら 2020: 76; 野村・鈴木 2022: 3, 図137, 138.

シモコモンサンゴ: 西平・Veron 1995: 70, 2図. グリセアコモンサンゴ: 西平・Veron 1995: 71, 4図.

非 セノビコモンサンゴ: 野村 2017: 98, 図1 (2) (= オキナワトゲコモンサンゴ).

1 2 3 4 5 6 7 8

図1. セノビコモンサンゴ (厚板型).Fig. 1. Montipora composita Crossland, 1952 (thick plate type).

A-H. SMP-HC 2425, 和名基準標本. 慶良間諸島阿嘉島クシバル, 水深 1 m: A, B. 群体; C. サンゴ体上面; D-G. 同, 個体とその周辺; H. サンゴ体板状部下面.

図2. セノビコモンサンゴ (厚板型).Fig. 2. Montipora composita Crossland, 1952 (thick plate type).

A-D. SMP-HC 2158. 八重山諸島西表島崎山湾西, 水深 6 m: A, B. 群体; C. サンゴ体上面; D. 同, 個体とその周囲; E. SMP-HC 2244, 群体. 八重山諸島西表島網取湾南東, 水深 9 m: C. 群体; D. サンゴ体上面, 個体とその周囲.

E. SMP-HC 2249, 群体. 八重山諸島竹富島北, 水深 12 m.

F. SMP-HC 2250, 群体. 宮古諸島宮古島狩俣, 水深 7 m.

G. SMP-HC 2551, 群体. 宮古諸島宮古島狩俣, 水深 7 m.

H. SMP-HC 2705, 群体. 宮古諸島大神島西, 水深 13 m.

図3. セノビコモンサンゴ (厚板型).Fig. 3. Montipora composita Crossland, 1952 (thick plate type).

A-D. SMP-HC 2175. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 9 m; A. 群体; B. サンゴ体上面; C. 同, 突出した個体; D. 同, 個体とその周囲.

E, F. SMP-HC 2207. 八重山諸島竹富島タケルンジュ, 水深 8 m; E. 群体; F. サンゴ体上面.

G, H. SMP-HC 2211. 八重山諸島竹富島タケルンジュ, 水深 8 m; G. 群体; H. サンゴ体側面.

図4. セノビコモンサンゴ (薄板型).Fig. 4. Montipora composita Crossland, 1952 (thin plate type).

A. SMP-HC 2710, 群体. 宮古諸島宮古島狩俣, 水深 6 m.

B. SMP-HC 2712, 群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 18 m.

C-E. SMP-HC 2713. 宮古諸島八重干瀬, 水深 19 m; C. 群体; D. サンゴ体上面; E. サンゴ体下面.

F. SMP-HC 2763, 群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 6 m.

G. SMP-HC 2856, 群体. 宮古諸島大神島西, 水深 17 m.

H. SMP-HC 2859, 群体. 宮古諸島大神島西, 水深 8 m.

図5. セノビコモンサンゴ (薄板型).Fig. 5. Montipora composita Crossland, 1952 (thin plate type).

A-C. SMP-HC 2243. 八重山諸島竹富島北, 水深 12 m; A. 群体; B. サンゴ体上面; C. 同, 個体とその周囲.

D. SMP-HC 2644, 群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 6 m.

E-H. SMP-HC 2715. 宮古島諸島八重干瀬, 水深 17 m; E, F. 群体; G, H. サンゴ体上面, 個体とその周囲.

図6. セノビコモンサンゴ (薄板型).Fig. 6. Montipora composita Crossland, 1952 (thin plate type).

A-D. SMP-HC 2855. 宮古諸島大神島西, 水深 17 m; A. 群体; B. サンゴ体上面; C. 同, 個体とその周囲; D. サンゴ体下面.

E-H. SMP-HC 2858. 宮古諸島大神島西, 水深 15 m; E. 群体; G, H. サンゴ体上面; H. 同, 個体とその周囲.

図7. セノビコモンサンゴ (シンタイプ).Fig. 7. Montipora composita Crossland, 1952 (syntypes).

A-G. BMNH 1934-5-14-303 (No. 186), シンタイプ. グレートバリアリーフ Low Isles; A-D. サンゴ体上面; E-G. 同, 個体とその周囲.

H. BMNH 1934-5-14-303 (No. 23), シンタイプ, サンゴ体上面. 産地は No. 186 と同じ. Crossland (1952) より.

図8. セノビコモンサンゴ類似標本群. Fig. 8. Montipora aff. composita

A. SMP-HC 2720, 群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 6 m.

B. SMP-HC 2765, 群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 6 m.

C. SMP-HC 3996, 群体. 宮古諸島大神島南西, 水深 2 m.

D. SMP-HC 4057, 群体. 宮古諸島宮古島世渡崎東, 水深 4 m.

E-H. SMP-HC 3694. 奄美諸島奄美大島手安, 水深 2 m; E, F. 群体; G. サンゴ体上面; H. 同, 突出した個体.

図中の定規の目盛り 1 mm, スケールバー 1 mm. 図7Hを除き、図の標本・写真撮影は全て野村恵一.

形態:群体は被覆板状、被覆状、稀に周縁に短い板状部のある塊状を成し、長径は 60 cm に達する。板状部はやや薄く、厚さは末縁で約 2 mm、末縁から 5 cm の距離で 5~10 mm である。群体上面には短径 3 mm 前後の粒状突起が密生する。時に瘤状突起も疎生するが、概して不明瞭である。

サンゴ体上面の共骨上には霜柱状突起が分布し、その密度や大きさはたいてい不均一であるが、必ず個体周囲で発達して莢壁冠を形成する。莢壁冠を構成する霜柱状突起はドーム状、円柱状もしくは側扁した円柱状を成し、時に肥大成長して疣状突起を形成する。また、霜柱状突起は時に個体間で互いに接合してごく短いコリンを形成し、特に板状部周縁では不明瞭な放射列を成す場合がある。莢壁冠を構成する霜柱状突起の短径は平均 0.4 mm、最大 1.9 mm、長さは平均 0.7 mm、最大 2.3 mm である (疣状突起を含む)。

個体はしばしば莢壁冠と共に筒状を成して顕著に突出する。突出個体が成長すると、莢壁の周囲は莢壁冠を構成する霜柱状突起が互いに接合した個体壁によって完全に被われ、頂端個体を持つ粒状突起 (頂端粒状突起と呼ぶ) を形成する。基盤の厚さが 1 cm 以上あるサンゴ体 (厚板型) では頂端粒状突起が大形でかつ分布が不均一になる傾向があり、厚さが 1 cm 未満のサンゴ体 (薄板型) では頂端粒状突起が小型で分布が均一になる傾向がある。頂端粒状突起の短径は平均 2.1 mm、最大 5.8 mm、高さは平均 2.2 mm、最大 8.1 mm である。個体は不均一に分布し、個体間隔はおよそ個体2個分以内である。個体の向きは概して一定せず、様々な方向を向く。莢径は平均 0.9 (範囲 0.6~1.2) mm で、個体の大きさは属内では大きい。なお、基本的に粒状突起の短径が 5 mm を越えると側面で個体の増殖が始まり、小瘤状突起へと発達する。

隔壁はほぼ完全・規則的で準板状か鋸歯状を成し、莢開口面から突出しないかわずかに突出する。隔壁は莢奥で互いに接近するか一部が接合して小さな軸柱を形成する。各隔壁の長さは方向隔壁が平均 0.9 (範囲は 0.6~1.0) R、1次隔壁が平均 0.7 (範囲 0.5~0.8) R、2次隔壁が平均 0.4 (範囲 0.2~0.6) R で、1次隔壁は2次隔壁よりも明瞭に長い。莢壁はたいてい部分的に認められ、裸地帯は不明瞭か部分的に認められる。

共骨表面の目合いは平均 0.11 mm で、網目はフレームよりも明瞭に幅狭く、肌理は細かい。棘は基本的に霜柱状突起上に分布し、長さは短く (平均 0.12 mm)、棒状もしくは細い薄片状を成し、たいてい細かな顆粒状突起に被われる。

サンゴ体の板状部下面では、エピテカがよく発達してサンゴ体末縁近くまでを被い、エピテカに被われない部分は霜柱状突起を欠き滑らかで、個体は小さく莢径は平均 0.4 mm で、共骨中に埋没するか共骨面からよく突出する。

生時の色彩は一様な褐色、淡褐色、緑褐色、黄緑色、淡赤褐色、淡紫褐色等様々である。

識別点:個体がしばしば個体壁と共に単体で著しく隆起する特徴で、他のコモンサンゴ類と容易に区別されるが、その特徴が弱い薄板型のサンゴ体では Montipora grisea グリセアコモンサンゴ、M. sp. OKINAWA オキナワコモンサンゴならびに M. sp. ONE オネグリセアコモンサンゴとの区別が難しい場合がある。グリセアコモンサンゴは疣状突起を欠き、単体粒状突起の向きや大きさ、ならびに高さがよく揃っていることで、オキナワトゲコモンサンゴは霜柱状突起の短径が著しく細いこと (平均 0.2 mm) で、オネグリセアコモンサンゴは頂端粒状突起を欠くこと (莢壁は個体壁に完全に被われない)、疣状突起を欠くこと、個体は基本的に共骨面に対し垂直方向を向くことで、それぞれ本種と区別される。

分布と生態:国内では奄美諸島以南の琉球列島、海外ではグレートバリアリーフならびにビキニ環礁より知られる。水深 2~19 (平均 10) m の、比較的浅いサンゴ礁域に生息する。

和名の由来:個体が著しく長く伸びる特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 2477 (慶良間諸島阿嘉島産) である。

備考:国内産の標本群は、サンゴ体の厚さが 1 cm 以上の厚板型 (図1-3) と 1 cm 未満の薄板型 (図5, 6) に大別され、それぞれの霜柱状突起や単体粒状突起の分布や大きさが異なる傾向が認められた。両者を種内形態型であるとした理由は、霜柱状突起と粒状突起以外の基本的形態が類似したことと、両者の中間的な形態型が複数存在したためである。また、M. composita の担名タイプは2つのシンタイプ (No. 23, 186: 図7) から成り、No. 23 はサンゴ体が薄い板状を、No. 186 は厚みのある被覆板状をそれぞれ成し、前者は薄板型に、後者は厚板型にそれぞれ対応した。

モルジブをタイプ産地として新種記載された M. suvadivae Pillai & Scheer, 1976 の形態は本種の薄板型に類似した。しかしながら、M. suvadivae の原記載の図が不鮮明であるため、本種の分類学的位置関係についてはこの種のタイプを精査した上で判断したい。

Veron & Wallace (1984) は本種を M. aequituberculata Bernard, 1897 チヂミウスコモンサンゴのジュニアシノニムとみなし、Hoeksema & Cairns (2024) もこれを支持している。しかしながら、チヂミウスコモンサンゴは葉状群体を形成し、個体は著しく突出せず、両種は明らかに別種であると判断された。

本種と同様にしばしば長さ 3 mm 以上の著しく突出した個体を持つものの、本種とは異なった形態「疣状突起や頂端粒状突起を欠く、個体は基本的に共骨面に対し垂直方向を向く、莢径はやや小さい (平均 0.8 mm)、1次隔壁はやや短い (平均 0.5R)」を持つ標本群 (M. aff. composita とする:図8) が認められた。この標本群は個体の高さ以外の特徴はオネグリセアコモンサンゴと共有し、M. aff. composita は本種とオネグリセアコモンサンゴの中間的な形態を示す。従って、M. aff. composita は両者の雑種の可能性が持たれる。さらに、M. aff. composita は紅海産の標本を基に新種記載され、原記載以来報告のない M. villosa Klunzinger, 1879 に形態が酷似する。しかしながら、この種や M. aff. composita と本種との分類学的位置関係については、現時点では判断する材料が少ないため今後の検討課題としたい。

引用文献:

Crossland C (1952) Madreporaria, Hydrocorallinae, Heliopora and Tubipora. Scientific Report Great Barrier Reef Expedition 1928-29 6: 85-257. [BHL]

Hoeksema BW, Cairns S (2024) World List of Scleractinia. Montipora composita Crossland, 1952. Accessed through: World Register of Marine Species at: https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=759845 on 2024-05-13.

梶原健次・北野裕子・木村匡・座安佑奈・島田剛・下池和幸・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・出羽尚子・野村恵一・松本尚・山本広美・横地洋之 (2020) 宮古諸島造礁サンゴ目録. In: 宮古島市史編さん委員会(編) 宮古島市史第3巻自然編第1部宮古の自然(別冊). 宮古島市教育委員会, 宮古島市, pp 73-91.

Klunzinger CB (1879) Die korallthiere des Rothen Meeres, 2. Theil: Die steinkorallen. Erster abschnitt: Die Madreporaceen und Oculinaceen. Gutmann, Berlin. [WoRMS]

西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.

野村恵一 (2017) 小笠原諸島の有藻性イシサンゴ群集. In: 東京都小笠原支庁, 平成28年度小笠原諸島海域生態調査委託報告書. 小笠原自然文化研究所, 小笠原, pp 95-179. [小笠原世界遺産センター]

野村恵一・鈴木豪 (2022) コモンサンゴ類の同定の話(51) , 国内産種の紹介37. 霜柱状突起を持ち、被覆状・塊状群体を成し、瘤状突起以外の大型突起を欠く種. マリンパビリオン 特別号14. [串本海中公園]

野村恵一・鈴木豪・岩尾研二 (2017) 阿嘉島のコモンサンゴ類. みどりいし28, supplement. [阿嘉島臨海研究所]

Pillai CSG, Scheer G (1976) Report on the stony corals from the Maldive Archipelago. Results of the Xarifa Expedition 1957/58. Zoologica, Stuttgart 43 (126): 1-83, pls. 1-32 . [CORE]

Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

Wells JW (1954) Recent corals of the Marshall Islands. United States Department of the Interior, Geological Survey, Washington, DC. [USGS Publ WH]

執筆者:野村恵一・鈴木豪

Citation:

 

更新履歴:

2024-06-16 公開

2024-11-10 図キャプションの表記法を変更