Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属
Montipora crassifolia Bernard, 1897
(Figs. 1, 2)
Montipora crassifolia Bernard, 1897: 162, pl. 36, fig. 15 [type locality not recorded]; Nomura & Suzuki 2021a: 27, fig. 1; Nomura & Suzuki 2021b: 10, fig. 108.
Montipora hodgsoni Veron, 2000: vol. 1, 72 (part), fig. 1, 1 skeleton sketch; 2002: 9 (part),
figs. 5, 7.
アツバコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021
(図1, 2)
アツバコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021a: 27, 図1; 野村・鈴木 2021b: 10, 図108.
図1. アツバコモンサンゴ. Fig. 1. Montipora crassifolia Bernard, 1897.
A-H. SMP-HC 2177, 和名基準標本. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 11 m: A, B. 複葉状群体; C, D. サンゴ体上面; E-G. 同, 個体とその周辺; H. サンゴ体下面. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2. アツバコモンサンゴ. Fig. 2. Montipora crassifolia Bernard, 1897.
A-H. BMNH 1897-5-18-84, M. crassifolia の syntype. 産地未記録: A. syntype の主体: B-H. syntype の破片の1つ; B-G. サンゴ体上面; H., サンゴ体下面. 定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
形態:群体は複葉状、1つの葉状体は腎形を成して斜め上方に伸び、厚さは縁で 2 mm、縁から 15 cm の距離で 7 mm で、長径は 40 cm に達する。上面は一切の大型突起を欠く。
サンゴ体上面では共骨上の個体間に直径 0.3 mm 程の小型の霜柱状突起が密に分布する。霜柱状突起は基本的に個体周辺で発達して莢壁冠を形成するが、一部の霜柱状突起は個体間においても発達する。発達した霜柱状突起は肥大して莢径よりも大きな疣状突起を形成する。莢壁冠上の霜柱状突起の平均短径は 0.6 mm、疣状突起は最大で短径 1.3 mm、長さ 2 mm に達する。サンゴ体末縁から基部に向かって 10 cm 程の距離にかけて、霜柱状突起が互いに接合した細い放射状のコリン列が密生する。コリン列は破線状を成して直立し、上縁は霜柱状突起が列生し鋸歯状を呈する。コリンの幅は不均一で平均 0.9
(範囲 0.6~1.3) mm、コリン間の幅も不均一で、高さは最大で 2 mm に達する。
個体密度は粗密があるが個体は概して疎らに分布し、個体間隔は個体10個分以内である。個体の多くは莢壁冠やそれが接合した個体壁と共に筒状に突出して粒状突起を形成し、その一部は顕著なリング状を成す。粒状突起は成長初期のものは頂端にのみ個体を伴い、成長につれて側面にも個体を増やすが、長径・高さ共に 5 mm を超えることはなく、瘤状突起には発達しない。莢径は平均 0.8 mm で、個体の大きさは属内では中程度である。
方向隔壁は不明瞭、1次隔壁はほぼ完全・規則的で、長さは平均 0.7R、鋸歯状を成し、基本的に莢開口面より上方には突出しない。2次隔壁は不完全・不規則で長さは平均 0.4R である。軸柱はたいてい弱く発達する。莢壁は部分的に明瞭で、たいてい共骨面から上にやや突出する。裸地帯は不明瞭である。
共骨表面の網目の目合いは平均 0.15 mm で、網目はフレームよりも幅狭く、肌理はやや細かい。棘は細かく、表面には顆粒状突起が分布する。
サンゴ体下面ではエピテカはほとんど発達せず、共骨は短径 0.3 mm 程の未発達な霜柱状突起に密に被われるが、サンゴ体基部付近ではそれよりもやや発達したものが散見される。個体はごく疎らに分布し、大きさや形は上面に類似し、一部の個体は共骨と共に円錐状もしくは先が丸いヘラ状に突出する。
生時の色彩は共肉が一様な褐色で、ポリプは淡青色を呈する。
識別点:本種はやや厚みのある複葉状を成し、葉状部は斜め上方に伸びること、細く密生した放射状のコリン列を持つこと、霜柱状突起はしばしば肥大して疣状突起を形成すること、頂端個体を伴ったリング状の粒状突起を持つことの複数の特徴の組み合わせにより他のコモンサンゴ類と区別される。明瞭なリング状の粒状突起を持つ特徴は Montipora australiensis Bernard, 1897 や M. solanderi Bernard, 1897 と共有するが、前者は粒状突起間をコリンが連結する特徴を持つこと、後者はサンゴ体中央付近に瘤状や柱状の大型突起を持つ特徴で、それぞれ本種と区別される。
分布と生態:産地が特定されているのは西表島網取湾とフィリピン・カラミアン島の2地点、2標本のみで、タイプ産地は不明である。国内では懐の深い湾奥の礁斜面中部
(水深 11 m) に、フィリピンでは波から遮蔽され、かつ水のきれいな礁斜面上部にそれぞれ生息する。
和名の由来:やや厚みのある葉状群体を成す特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 2177 (西表島網取湾産)。
備考:網取湾で採集された標本は M. crassifolia の担名タイプに比べて霜柱状突起が良く発達するが、その他の形質については概ね一致したため、本種に同定された。Veron (2002) で M. hodgsoni Veron, 2000 のホロタイプ指定が試みられた標本 (図5と7) は、明瞭なリング状の粒状突起が認められることから本種に再同定された。なお、ホロタイプは原記載以外では指定できないため、Veron
(2002) でのホロタイプ指定は認められない。また、M. hodgsoni の原記載(Veron 2000)において掲載された図の内、スケッチと図1は本種に、図2は Montipora sp. TSUBUHOSOSUJI ツブホソスジコモンサンゴに、図3は M. prolifera スジコモンサンゴに、図4は M. minuta ウスコモンサンゴに、それぞれ再同定された (野村・鈴木 2021b)。
参考:担名タイプの写真
Montipora hodgsoni Veron, 2000 ── Lectotype, MSI-302-CO in Veron (2002) p.9, figs. 5, 7 [AIMS]. Corals of the Worldにも原記載と同じ骨格写真3枚が掲載されている.
引用文献:
Bernard HM (1897) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. 3. The genus Montipora, the genus Anacropora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
野村恵一・鈴木豪(2021a)西表島網取湾から採集された3種のコモンサンゴ類 (イシサンゴ目ミドリイシ科). Fauna Ryukyuana 59: 27-34. [琉球大学学術リポジトリ]
野村恵一・鈴木豪 (2021b) コモンサンゴ類の同定の話(48), 国内産種の紹介34. 霜柱状突起と葉状・板状群体を持つ種. マリンパビリオン 特別号12. [串本海中公園]
Veron J (1990) New Scleractinia from Japan and other Indo-West Pacific Countries. Galaxea 9: 95-173. [Flanders Marine Institute]
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN (2002) New species described in corals of the world. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [AIMS]
執筆者:野村恵一・鈴木豪
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更新履歴:
2023-11-12 公開