Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属
Montipora efflorescens Bernard, 1897
(Fig. 1-6)
Montipora frondens Bernard, 1897: 147 [Palm Island, Great Barrier Reef].
Montipora efflorescens Bernard, 1897: 150, pl. 28, fig. 1, pl. 34, fig. 11 [type locality not recorded]; Yokochi et al. 2019: 42; Kajiwara et al. 2020: 77; Nomura & Suzuki 2021: 6, figs. 120-122.
Montipora hirsuta Bernard, 1897: 164, pl. 34, fig. 16 [Tonga ?].
Montipora sp. FUNAUKI sensu Nomura & Suzuki, 2021: 10, fig. 126.
not Montipora efflorescens: Veron & Wallace 1984: 91, figs. 233-241 (= Montipora stilosa); Shirai & Sano 1985: 210, fig. 9 (= Montipora sp.) ; Veron 1986: 115, figs. 1, 2, 1 skeleton fig. (= Montipora spp.) ; Uchida & Fukuda 1989: 161, 2 figs. (= Montipora peltiformis ?); Nishihira & Veron 1995: 70, upper fig. (= Montipora composita), 1 skeleton fig. (Montipora sp.) ; Veron 2000: vol. 1 , 104, figs. 1-6, 1 skeleton sketch (= Montipora stilosa); Dai & Horng 2009: vol. 1, 22, 2 figs. (= Montipora sp.).
? Montipora plateformis Nemenzo, 1967: 24, pl. 7, fig. 4, pl. 8, fig. 5 [Puerto Galera, Oriental
Mindoro, Phillippines].
ハシラコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021
(図1-6)
シモコモンサンゴ: 横地ら 2019: 42; 梶原ら 2020: 77.
ハシラコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021: 6, 図120-122.
フナウキコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021: 10, 図126 (Montipora sp. FUNAUKI として).
図1. ハシラコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
A-H, SMP-HC 2868, 和名基準標本. 宮古諸島宮古島島尻東礁池, 水深 1 m: A, 群体; B, 同, 樹木状突起部; C, 同, 板状部; D, サンゴ体, 柱状突起部; EF, 同, 板状部; GH, 同, 柱状突起部における個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2. ハシラコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
A, SMP-HC 2181, 群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 1 m.
B, SMP-HC 2183, 群体. 網取湾, 水深 1 m.
C, SMP-HC 2184, 群体. 網取湾, 水深 2 m.
D-F, SMP-HC 2200. 八重山諸島竹富島タケルンジュ, 水深 1 m: D, 群体; E, 群体, 柱状突起部; F, サンゴ体, 柱状突起部.
G, SMP-HC 2201, 群体. タケルンジュ, 水深 1 m.
H, SMP-HC 2596, 群体. 網取湾, 水深 3 m.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図3. ハシラコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
A-D, SMP-HC 2633. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 3 m: AB, 群体; C, サンゴ体, 柱状突起部; D, 同, 瘤状突起間における個体とその周囲.
E-H, SMP-HC 2869. 宮古諸島宮古島島尻東礁池, 水深 1 m: EF, 群体; G, サンゴ体, 柱状突起部; H, 同, 瘤状突起上における個体とその周囲.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図4. ハシラコモンサンゴ.Fig. 4. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
AB, SMP-HC 4008, 群体. 宮古諸島大神島南西, 水深 2 m.
C, SMP-HC 4029, 群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 3 m.
D-F, SMP-HC 4033. 八重干瀬, 水深 3 m: DE, 群体; F, サンゴ体, 個体とその周囲.
G, SMP-HC 4034, 群体. 八重干瀬, 水深 3 m.
H, SMP-HC 4079, 群体. 大神島南西, 水深 5 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: H, 長田智史撮影; それ以外, 野村恵一撮影.
図5. ハシラコモンサンゴ.Fig. 5. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
A-H, SMP-HC 3270, Montipora sp. FUNAUKI フナウキコモンサンゴの和名基準標本. 八重山諸島西表島船浮湾奥, 水深 5 m: A, 群体; B, 同, 柱状突起部; C, 同, 被覆状付着基部; D, サンゴ体, 柱状突起部; EF, 同, 瘤状突起間における個体とその周囲; GH, 同, 瘤状突起上の個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図6. ハシラコモンサンゴ.Fig. 6. Montipora efflorescens Bernard, 1897.
A, BMNH 1892-12-1-280, Montipora frondens のホロタイプ, グレートバリアリーフパーム島.
B, BMNH 1961-12-6-2, M. hirsuta のホロタイプ, トンガ?.
C-H, BMNH 1897-10-9-1, M. efflorescens のホロタイプ, タイプ産地不明: C-E, サンゴ体, 柱状突起部; F-H, 同, 個体とその周囲.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
形態:群体は被覆状もしくは被覆板状の付着基部を持ち、その上に複数の指状突起や樹木状突起、ならびにそれらが束になった柱状突起を上方に伸ばす。樹木状突起の末枝は短く、瘤状もしくは指状を成す。群体は大形になり、稀に長径 2 m、高さ 2 m を越える。柱状突起は最大で長さが 20 cm、基部の太さが 6 cm に達する。被覆状付着基部ならびに柱状突起の表面は直径 7 mm 前後の小瘤状突起に密に被われるが、板状部上では小瘤状突起は疎らである。
サンゴ体上面では共骨は霜柱状突起に比較的密に被われる。霜柱状突起は付着基部上ならびに小瘤状突起間では概して短くてドーム状を成し、小瘤状突起もしくは大型突起の末枝上ではより発達して細長い円柱状を成し、しばしばやや側扁する。成長した霜柱状突起の太さはサンゴ体内ではよく揃い、平均短径は 0.45 mm である。また、霜柱状突起は部位を問わず個体の周りでより発達して莢壁冠を形成する傾向があり、しばしば莢壁冠を構成する霜柱状突起の一部もしくは全てが接合して個体壁を形成する。さらに、個体壁同士が個体間においてもしばしば接合して短いコリンを形成する。特に小瘤状突起ならびに末枝上ではコリンが発達して縦肋状や網目状の構造物を形成したり、板状部では放射列を形成する場合がある。コリンの幅は平均 0.5 mm で、高さは最大で 2 mm に達する。なお、霜柱状突起は著しく肥大することはなく、疣状突起を形成しない。
個体密度は部位により粗密はあるが概して密生し、個体間隔は個体1個分以内である。個体はしばしば莢壁冠もしくは個体壁と共に単体で突出するが顕著ではなく、高さは 1 mm 以内である。個体は基本的に共骨面に対し垂直方向を向き、下唇状もしくは密着管状の個体壁は伴わない。莢径は平均 0.7
(範囲 0.6~0.9) mmで、個体の大きさは属内では中程度である。方向隔壁は準板状、時に板状を成し、長さは平均 0.8R で、たいてい莢開口面から突出する。1次隔壁は完全・規則的、長さは平均 0.7R で、鋸歯状か準板状を成し、たいていやや突出する。2次隔壁は不完全・不規則、稀に完全・規則的で、1次隔壁よりも明瞭に短い。軸柱はたいてい弱く発達する。莢壁は明瞭で、しばしば共骨面よりわずかに盛り上がる。裸地帯は部分的に明瞭である。
共骨表面の目合いは平均 0.13 mm で、フレーム幅とほぼ同幅で、肌理はやや細かい。棘は細長く、長さは平均 0.17 mm、針状、棒状もしくは薄片状を成し、上縁は時に複数の尖端に分かれ、表面はたいてい顆粒状突起が弱く発達する。
板状部下面のエピテカの発達度合いはサンゴ体によって様々で、共骨表面は霜柱状突起を欠き滑らかで、個体は疎らに分布し莢径は平均 0.4 mm である。
生時の共肉は褐色か淡褐色もしくは淡紫褐色で、小型突起の上縁は明色を呈する場合が多い。ポリプはたいてい共肉と同色であるが、稀に黄緑色を呈する。
識別点:本種は柱状突起を付着基部上から立ち上げた群体形を持つこと、霜柱状突起は密生し平均短径は 0.45 mm であること、しばしば莢壁冠や個体壁を形成し瘤状突起や末枝上では縦肋状や網目状のコリンを形成すること、疣状突起を欠くこと、個体は密生し個体間隔は個体1個分以内であることの特徴の組み合わせで、類似した群体形と霜柱状突起を持つ他のコモンサンゴ類と区別される。本種は
Montipora stilosa コブトゲコモンサンゴと混同されることがあるが、この種の群体形は塊状で瘤状突起以外の上方に伸びる大型突起を欠くことで本種と容易に区別される。また、本種は
M. trabeculata フトトゲコモンサンゴとも外観がよく似るが、この種の霜柱状突起の大きさは不均一でやや太く (平均短径 0.6 mm) かつしばしば肥大して疣状突起を形成し、個体は疎生する
(個体間隔は個体4個分以内) ことの特徴によって本種と区別される。
和名の由来と変遷:和名の由来と変遷:柱状の大型突起を持つ特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 2868 (宮古島産) である。これまで M. efflorescens の学名に対しシモコモンサンゴの和名が慣例的に用いられてきた。しかしながら、この和名は白井 (1977) が M. grisea グリセアコモンサンゴを M. granulosa と誤同定して提唱したものであるため、本種に対し表記の新和名が提唱された (野村・鈴木 2021)。ただし、改めて白井 (19777) がシモコモンサンゴの和名を提唱した準拠画像を再度検討した結果、この種はグリセアコモンサンゴではなくM. sp. OKINAWATOGE オキナワトゲコモンサンゴに再同定された。なお、フナウキコモンサンゴは異名である。
備考:発達した柱状突起を持つ国内産の標本は、M. efflorescens のホロタイプ (図6D-H) と形態がよく一致した。M. efflorescens、M. frondens Bernard, 1897 (図6A)、M. hirsuta Bernard, 1897 (図6B) ならびに M. plateformis Nemenzo, 1967は、それぞれのホロタイプの形態が互いに酷似する。これらの中で M. efflorescens と M. frondens ならびに M. hirsute のホロタイプ間では本質的な形態差は認められず、互いにシノニム関係にあると判断された。これらは同一の出版物で提唱された学名であるが、よく用いられている
M. efflorescens が古参シノニムとして選択された (野村・鈴木 2021)。なお、 M. plateformis は原記載が不十分でしかもホロタイプの写真が不鮮明であるため、分類学的位置を特定できなかった。
野村・鈴木 (2021) はハシラコモンサンゴに酷似するものの別の未記載種として、西表島船浮湾産の唯一の標本を基に M. sp. FUNAUKI フナウキコモンサンゴを記載した。しかしながら、本標本 (図5) を再検討した結果、ハシラコモンサンゴとの本質的な形態差は認められず、本標本はハシラコモンサンゴの形態変異形であると判断された。
引用文献:
Bernard HM (1897) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. 3. The genus Montipora, the genus Anacropora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
Dai CF, Horng C (2009) Scleractinia fauna of Taiwan I. The complex group. National Taiwan University, Taipei.
梶原健次・北野裕子・木村匡・座安佑奈・島田剛・下池和幸・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・出羽尚子・野村恵一・松本尚・山本広美・横地洋之 (2020) 宮古諸島造礁サンゴ目録. In: 宮古島市史編さん委員会(編) 宮古島市史第3巻自然編第1部宮古の自然(別冊). 宮古島市教育委員会, 宮古島市, pp 73-91.
Nemenzo F (1967) Systematic studies on Philippine shallow-water scleractinians. VI Suborder Astrocoeniina (Montipora and Acropora). Nat Appl Sci Bull Univ Philipp 20:1-141, 143-223.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(50), 国内産種の紹介36. 霜柱状突起と上方大型突起を持つ種. マリンパビリオン 特別号13. [串本海中公園]
白井祥平 (1977) 原色沖縄海中動物生態図鑑. 新星図書, 那覇.
白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V. Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019)
西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.
執筆者:野村恵一・鈴木豪
Citation:
更新履歴:
2023-11-12 公開