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Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora orientalis Nemenzo, 1967
(Fig. 1-3)

Montipora orientalis Nemenzo, 1967: 36, pl. 12, fig. 2 [Puerto Galera Bay, Oriental Mindoro, Philippines]; Nomura & Suzuki 2021: 14, fig. 100.

Montipora sp. TOGEABATA sensu Nomura, Suzuki & Iwao, 2017: 4, fig. 2 (17).

? Montipora orientalis: Veron 2000: vol. 1, 114, fig. 1, 1 skeleton fig. (= Montipora peltiformis ?).


トゲモリスコモンサンゴ 改称
(図1-3)

トゲアバタコモンサンゴ 野村・鈴木・岩尾, 2017: 4, 図2 (17) (Montipora sp. TOGEABATAとして); 野村・鈴木 2021: 14, 図100.

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図1. トゲモリスコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora orientalis Nemenzo, 1967.

A-H, SMP-HC 2425, 和名基準標本. 慶良間諸島阿嘉島クシバル, 水深 1 m: A-C, 群体; D, サンゴ体; EF, 同, 霜柱状突起; GH, 同, 個体とその周辺. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図2. トゲモリスコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora orientalis Nemenzo, 1967.

A-D, SMP-HC 1962. 吐噶喇列島中之島七ツ山, 水深 10 m: A, 群体; B, サンゴ体; C, 同, 霜柱状突起; D, 同, 個体とその周辺.

E-H, SMP-HC 3119. 小笠原諸島母島脇浜, 水深 2 m: E, 群体; F, サンゴ体; GH, 個体とその周辺.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図3. トゲモリスコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora orientalis Nemenzo, 1967.

A-D, SMP-HC 3512. 大隅諸島種子島浦田南, 水深 4 m: AB, 群体; CD, サンゴ体, 個体とその周辺.

E-H, SMP-HC 4055. 宮古諸島宮古島世渡崎東, 水深 5 m: E, 群体; F, サンゴ体; GH, 個体とその周辺.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

形態:群体は厚い被覆状か塊状、上面に様々な大きさの瘤状突起を持ち、時に指状突起や瘤状突起が束になった柱状突起を備える。また、群体周縁に短い板状突起を伸ばす場合がある。

サンゴ体上面の共骨上には繊細な霜柱状突起が密生する。霜柱状突起は細長く、やや側扁し、成長したものは太さがほぼ揃い、短径は平均 0.3 mm、長さは最大で 1.3 mm に達する。霜柱状突起は常に莢壁冠を形成し、その一部もしくは全てが互いに接合して薄い個体壁を形成するが、完全なものは稀である。個体壁は稀に個体間で接合して短く不規則なコリンを形成する。なお、霜柱状突起は著しく肥大することはなく、疣状突起を形成しない。

個体はほぼ均一に密生し、個体間隔は個体1個分以内で、共骨面からほとんど突出しない。莢は深く空き、莢径は平均 0.9 (範囲は 0.8~1.0) mm で、個体の大きさは属内では大きい。隔壁は概して短く、不完全・不規則で、軸柱は欠くか弱く発達する。方向隔壁は長さが平均 0.6R、準板状か鋸歯状、稀に板状を成し、たいてい莢開口面から弱く突出する。1次隔壁は長さが平均 0.4R、鋸歯状か準板状を成し、たいてい突出しない。2次隔壁は長さが平均 0.2R であるが、痕跡的な場合も多い。莢壁は明瞭で、たいてい共骨面から弱く突出する。裸地帯も明瞭で、時に短い溝状を成す。

共骨表面の目合いは平均 0.20 mm で、たいていフレーム幅よりも幅広く、肌理はやや粗い。棘は霜柱状突起上で発達し、長さは平均 0.16 mm、平坦で細長い三角形状か薄片状を成し、時に上縁が複数の尖端に分かれ、顆粒状突起は発達しない。

生時の共肉は一様な淡褐色か褐色で、ポリプは共肉よりもやや明るい色彩を呈する。

識別点:本種は瘤状突起を備えた被覆状もしくは塊状群体を成すことと、個体は密生し共骨面からほとんど突出しないこと、霜柱状突起を持ち常に莢壁冠を形成し、その一部もしくは全てが互いに接合して繊細な個体壁を形成することの特徴で、他のコモンサンゴ類と区別される。Montipora peltiformis ムラサキコモンサンゴは形態が本種に最も良く似るが、この種は個体の一部が多かれ少なかれ突出することと紫色のポリプを持つことで本種と区別される。

分布と生態:国内では大隅諸島 (種子島)、吐噶喇列島 (中之島)、慶良間諸島 (阿嘉島)、小笠原諸島 (母島) より、海外ではフィリピンより知られる。稀な種で、上記国内記録地点においてそれぞれ1標本しか採集されていない。サンゴ礁域の水深 1~10 m の浅所に生息する。

和名の由来:和名は外見が M. mollis モリスコモンサンゴに似るが、この種にはない棘様の突起 (霜柱状突起) を持つ特徴に因む。本種にはトゲアバタコモンサンゴの和名が与えられていたが、アバタコモンサンゴは M. floweri ザラメコモンサンゴの異名であることと、アバタ(痘痕)は天然痘に罹患した人の顔面に生じる後遺症もしくはそれに類似した顔面の状態を指し、それを比喩する表現は差別用語に該当するため、表記の和名に改称した。和名基準標本は SMP-HC 2425 (阿嘉島産)。

和名提唱日:2023-11-12.

備考:国内から得られた標本の形態は、M. orientalis の原記載にほぼ一致した。Veron (2000) が記載した M. orientalis は個体壁の発達が悪く、別種 (ムラサキコモンサンゴ) の可能性が持たれる。

本種はモリスコモンサンゴ種群の一部の種のような繊細な個体壁とトゲコモンサンゴ群と同様の霜柱状突起を持ち、両群の形質を合わせ持つ特異な種である。また、ミトコンドリアをマーカーとして使用した分子解析においても、本種はモリスコモンサンゴ群にもトゲコモンサンゴ群にも属さず、明瞭な系統位置を示さない (野村・鈴木 未発表)。

引用文献:

Nemenzo F (1967) Systematic studies on Philippine shallow-water scleractinians. VI Suborder Astrocoeniina (Montipora and Acropora). Nat Appl Sci Bull Univ Philipp 20: 1-141, 143-223

野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(46), 国内産種の紹介32. トゲアバタコモンサンゴ. マリンパビリオン 50: 14-15. [串本海中公園]

野村恵一・鈴木豪・岩尾研二 (2017) 阿嘉島のコモンサンゴ類. みどりいし28, supplement [阿嘉島臨海研究所]

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

執筆者:野村恵一・鈴木豪

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更新履歴:

2023-11-12 公開