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Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora peltiformis Bernard, 1897
(Figs. 1–6)

Montipora patula: Quelch 1886: 174.

Montipora peltiformis Bernard, 1897: 128, pl. 23, figs. 1, 2 (= M. patula sensu Quelch 1886) [Amboyna]; Veron & Wallace 1984: 37, figs. 72-81; Veron 1986: 101, 1 fig.; Veron & Hodgson 1989: 238; Nishihira & Veron 1995: 53, 2 figs.; Veron 2000: vol. 1, 100 , figs. 1-4; Sugihara et al. 2015: 58, 4 figs.; Nomura et al. 2016: 6; Nomura 2016: 24, figs. A-F; Nomura, Suzuki & Iwao 2017: 7, fig. 2 (33); Nomura 2017: 112, fig. 1 (9); Yokochi et al. 2019: 43; Kajiwara et al. 2020: 77; Nomura et al. 2020: 13, figs. 6A-C; Nomura & Suzuki 2022: 5, figs. 141, 142; Nomura, Baird & Suzuki 2023: 45, figs. 3E, F.

Montipora reniformis Nemenzo, 1967: 46, pl. 16, figs. 2, 4 [Hundred Islands, Pangasinan].

Montipora informis: Nishihira & Veron 1995: 69 (part), upper fig.

not Montipora peltiformis: Shirai & Sano 1985: 214, fig. 19 (= Montipora sp.).

ムラサキコモンサンゴ 杉原ら, 2015
(図1-6)

イタイボコモンサンゴ: 西平・Veron 1995: 53, 2図.

ムラサキコモンサンゴ 杉原ら, 2015: 58,4図; 野村ら 2016: 6; 野村 2016: 24, 図A-F; 野村・鈴木・岩尾 2017: 7, 図2 (33); 野村 2017: 112, 図1 (9); 横地ら 2019: 43; 梶原ら 2020: 77; Nomura et al. 2020: 13, figs. 6A-C; 野村・鈴木 2022: 5, 図141, 142; Nomura, Baird & Suzuki 2023: 45, 図3E, F.

ノリコモンサンゴ: 西平・Veron 1995: 69 (一部), 上段の図 (Montipora informis として).


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図1. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A-H. SMP-HC 2512, 和名基準標本. 大隅諸島種子島大原, 水深 7 m; A, B. 群体; C, D. サンゴ体上面; E-G. 同, 個体とその周囲; H. サンゴ体板状部下面. 定規の目盛り, 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図2. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A, B. SMP-HC 2307. 和歌山県串本町潮岬, 水深 2 m; A. 群体; B. サンゴ体上面, 個体とその周囲; C, D. SMP-HC 2348. 串本町下浅地, 水深 19 m; C. 群体; D. サンゴ体上面, 個体とその周囲; E, F. SMP-HC 2398. 串本町錆浦, 水深 10 m; E. 群体; F. サンゴ体上面, 個体とその周囲; G, H. SMP-HC 2506. 串本町双島, 水深 3 m; G. 群体; H. サンゴ体上面, 個体とその周囲; 定規の目盛り, 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図3. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A, B. SMP-HC 3275. 小笠原諸島聟島, 水深 11 m; A. 群体; B. サンゴ体上面, 個体とその周囲; C. SMP-HC 3280, 群体. 聟島, 水深   10 m; D. SMP-HC 3288, 群体. 聟島, 水深 10 m; E. SMP-HC 3307, 群体. 聟島, 水深 10 m; F. SMP-HC 3379, 群体. 小笠原諸島嫁島東, 水深 20 m; G, H. SMP-HC 3403. 聟島, 水深 7 m; G. 群体; H. サンゴ体上面, 個体とその周囲; 定規の目盛り, 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図4. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 4. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A, B. SMP-HC 2426. 慶良間諸島阿嘉島クシバル, 水深 1 m; A. 群体; B. サンゴ体上面, 個体とその周囲; C. SMP-HC 2428, 群体. 阿嘉島クシバル, 水深 1 m; D-G. SMP-HC 2462. 阿嘉島マジャノハマ, 水深 2 m; D. 群体; E. 同, ポリプ; F. サンゴ体上面; G. 同, 個体とその周囲; H. SMP-HC 2485, 群体. 阿嘉島マジャノハマ, 水深 2 m  定規の目盛り, 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図5. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 5. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A, B. SMP-HC 3943. 大東諸島南大東島塩屋海岸, 水深 7 m; A. 群体; B. サンゴ体上面; C, D. SMP-HC2779. 宮古諸島八重干瀬, 水深 2 m; C. 群体; D. サンゴ体上面, 個体とその周囲; E. SMP-HC 3980, 群体. 宮古諸島大神島東, 水深 2 m; F-H. SMP-HC 4054. 宮古諸島宮古島世渡崎東, 水深 5 m; F, G. 群体; H. サンゴ体上面, 個体とその周囲. 定規の目盛り, 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図6. ムラサキコモンサンゴ.Fig. 6. Montipora peltiformis Bernard, 1897.

A-H. BMNH 1886-12-9-284, M. peltiformis のホロタイプ. インドネシアアンボン; A. ホロタイプのラベル; B-E. サンゴ体上面; F-H. 同, 個体とその周囲; 定規の目盛り, 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

形態:群体は被覆状か被覆板状、稀に準塊状を成し、長径は 1 m に達する。たいてい上面に小瘤状突起が散在し、上方に伸びる他の大型突起を欠くが、ごく稀に小瘤状突起が束になった短い柱状突起を形成する場合がある。板状部はあっても短く、厚さは末縁で 3 mm、末縁から 1 cm の距離で 1 cm である。

サンゴ体上面の共骨上には霜柱状突起が分布し、その密度や大きさはサンゴ体により変異が認められる。霜柱状突起は個体周囲で発達して莢壁冠を形成し、その形状はドーム状、円柱状もしくは側扁した円柱状を成し、同一のサンゴ体内では太さ (短径) や形はほぼ揃う。莢壁冠を構成する霜柱状突起は時に部分的に接合して不完全な個体壁を形成するが、コリンの形成は稀である。また、霜柱状突起は著しく肥大成長せず、疣状突起は形成しない。莢壁冠を構成する霜柱状突起の短径は平均 0.3 mm、最大 0.5 mm、長さは平均 0.6 mm、最大 1.2 mm である。

個体は密生し、個体間隔はたいてい個体1個分以内である。個体は共骨中に埋没するか、莢壁の伸長に伴ってわずかに突出する。莢径は平均 0.9 (範囲 0.6~1.2) mmで、個体の大きさは属内では大きい。方向隔壁は準板状か板状を成し、長さは平均 0.7 (範囲0.5~1.0) R で莢開口面から突出する。1次隔壁は完全・規則的、鋸歯状か準板状を成し、長さは平均 0.5 (範囲 0.3~0.6) R で、突出しないか部分的にやや突出する。2次隔壁は完全・規則的か不完全・不規則、長さは平均 0.3 (範囲 0.2~0.4) R で、しばしば1次隔壁と亜等長を成す。軸柱は欠くか弱く発達する。莢壁は明瞭で、しばしば共骨面からやや突出する。裸地帯は部分的に明瞭である。

共骨表面の目合いは 0.20 mm で、網目はフレームとほぼ同幅かそれよりも幅広く、肌理はやや粗い。棘は細長く、長さは平均 0.17 mm、最長 0.25 mm に達し、針状、棒状、薄片状を成し、顆粒状突起は弱く発達するか発達しない。

サンゴ体板状部下面はエピテカがよく発達し、末縁から 1 cm 以内までを被い、エピテカに被われない部分は霜柱状突起を欠き表面は滑らかで、小型の個体 (平均莢径は 0.5 mm) がごく疎らに分布する。

生時の共肉は褐色か淡褐色もしくは紫色、ポリプは紫色である。

識別点:本種は、被覆状もしくは被覆板状群体を成し瘤状突起以外の上方大型突起を欠くこと、個体は密生し著しく突出しないこと、繊細な霜柱状突起を持ち疣状突起を欠くこと、1次隔壁は概して短く時に2次隔壁と亜等長を成すこと、生時のポリプは紫色を成すことの特徴を併せ持つことで、霜柱状突起を持つ他のコモンサンゴ類と区別される。

本種はMontipora sp. HONDOTOGE サボテンコモンサンゴ の板状部と形態が酷似し、同部標本との区別が難しい場合があるが、サボテンコモンサンゴはポリプの色彩が褐色か緑色であること、成長すると柱状もしくは樹木状の大型突起を持つこと、個体の分布は不均一で個体間隔は個体3個分以内であることの特徴を持つことによって、本種と区別される。

分布と生態:国内では和歌山県以南の暖海域に広く分布し、海外ではタンザニア、アンボン、グレートバリアリーフならびにハワイから知られる。岩礁域ならびにサンゴ礁域の浅所 (平均出現水深は 5 m、水深範囲は 1~11 m) に生息する。

和名の由来:特徴的な紫色のポリプに因む。和名基準標本は SMP-HC 2512 (阿嘉島産)。白井・佐野 (1985) が M. peltiformis に同定しイタイボコモンサンゴの新和名を与えた標本は、疣状突起と皺様のコリンを持つ種不明の別種である。

備考:国内産の標本群の形態は、M. peltiformis のホロタイプとよく一致した。

引用文献:

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執筆者:野村恵一・鈴木豪

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更新履歴:

2024-06-16 公開