Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属
Montipora prolifera Brüggemann, 1879
(Figs. 1-5)
Montipora prolifera Brüggemann, 1879: 209 [Ponape]; Bernard 1897: 93, pl. 18; Nomura & Suzuki 2021: 6, figs. 105, 106.
Montipora pulcherrima Bernard, 1897: 91, pl. 17, fig. 2, pl. 33, fig. 7 [Macclesfield Bank].
Montipora sulcata Crossland, 1952: 191, pl. 28, fig. 6, pl. 29, figs. 2, 5 [Great Barrier Reef].
Montipora undans Crossland, 1952: 190, pl. 23, fig. 3, pl. 28, fig. 2 [Great Barrier Reef].
Montipora foliosa: Wallace & Veron 1984: 110 (part), figs. 291, 292, 294-299; Nishihira
1988: 33, 3 figs.; Uchida 1993: 73, 1 fig.; Nishihira & Veron 1995:
77 (part), upper & lower figs.; Veron 2000: vol. 1, 66, figs. 1-5;
Dai & Horng 2009: 23 (part), 2 figs. on p. 24; Nomura, Suzuki &
Iwao 2017: 6, fig. 2 (30).
スジコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021
(図1-5)
ウスコモンサンゴ:西平 1988: 33, 3図 (Montipora foliosa として); 内田 1993: 73, 1図 (Montipora foliosa として); 西平・Veron 1995: 77 (一部), 図上段と下段 (Montipora foliosa として); 野村・鈴木・岩尾 2017: 6, 図2 (30) (Montipora foliosa として); 梶原ら 2020: 77 (Montipora foliosa として).
スジコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021: 6, 図105, 106.
図1. スジコモンサンゴ. Fig. 1. Montipora prolifera Brüggemann, 1879.
A-H. SMP-HC 3631, 和名基準標本. 奄美諸島加計呂麻島阿多地, 水深 6 m: A, B. 複葉状群体; C. 同, 葉状部上面; D. サンゴ体葉状部上面; E. 同, 直線状のコリン列と個体の分布; F. 同, 個体とその周囲; G. サンゴ体葉上部下面; H. 同, 個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2. スジコモンサンゴ. Fig. 2. Montipora prolifera Brüggemann, 1879.
A-H. 直線状のコリンを持つ群体.
A. SMP-HC 1940, 単葉状群体. 吐噶喇列島中之島七ツ山, 水深 10 m.
B. SMP-HC 2221, 板状群体. 八重山諸島竹富島北, 水深 12 m
C. SMP-HC 2492, 葉状群体. 慶良間諸島阿嘉島マジャノハマ, 水深 5 m.
D, E. SMP-HC 2493. 阿嘉島マジャノハマ, 水深 5 m: D. 複葉状群体; E. サンゴ体上面, 個体とコリンの並び.
F, G. SMP-HC 2494, 複葉状群体. 阿嘉島マジャノハマ, 水深 5 m.
H. CMNH-ZG 08542, 被覆板状群体. 奄美諸島奄美大島大浜, 水深 12 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: A, B, E. 野村恵一撮影; C, D, F, G. 岩尾研二撮影; H. 立川浩之撮影.
図3. スジコモンサンゴ. Fig. 3. Montipora prolifera Brüggemann, 1879.
A-H. 網目状のコリンを持つ群体.
A-C. SMP-HC 2237. 八重山諸島竹富島北, 水深 12 m: A. 板状群体; B. サンゴ体板状部上面; C. 同, 個体とその周囲.
D. SMP-HC 2602, 板状群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 12 m.
E-G. SMP-HC 2721. 宮古諸島八重干瀬, 水深 8 m: E. 被覆板状群体; F. 同, 上面; G. サンゴ体上面, 個体とその周囲.
H. MIY-KK2010-138, 板状群体. 宮古諸島宮古島東平安名崎, 水深 14 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: H. 梶原健次撮影; H以外. 野村恵一撮影.
図4. スジコモンサンゴ. Fig. 4. Montipora prolifera Brüggemann, 1879.
A-H. 網目状のコリンを持つ群体.
A-C. SMP-HC 2823. 宮古諸島八重干瀬, 水深 8 m: A. 被覆板状群体; B. 同, 上面; C. サンゴ体上面, 個体とその周囲.
D-H. SMP-HC 2835. 八重干瀬, 水深 5 m: D. 被覆状群体; E. 同, 上面; F, G. サンゴ体上面; H. 同, 個体とその周囲.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図5. スジコモンサンゴ. Fig. 5. Montipora prolifera Brüggemann, 1879.
A, B. BMNH 1881-11-22-5 (a), Montipora prolifera の syntype. ミクロネシアポンペイ島.
C-E. BMNH 1881-11-22-5 (c), Montipora の syntype. ミクロネシアポンペイ島.
F. BMNH 1889-9-24-121, Montipora pulchelima の holotype. 南シナ海マックルズフィールド堆.
G. BMNH 1934-5-14-270, Montipora undans の holotype. グレートバリアリーフ.
H. BMNH 1934-5-14-433, Montipora sulcate の holotype. グレートバリアリーフ.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
形態:群体は被覆板状か板状 (単葉状) もしくは複葉状、稀に被覆状を成し、長径は 60 cm に達する。葉状部の厚さは群体により様々で、末縁で約 2 mm、末縁から 10 cm の距離で 3~10 mm である。上面は大型突起を欠いてほぼ平坦か、大小の瘤状突起が分布する。
サンゴ体上面では共骨上にドーム状の霜柱状突起が分布し、サンゴ体周縁部では疎生し、それよりも基部側では密度が高くなる傾向がある。莢壁冠は基本的に形成されない。霜柱状突起は時に肥大成長して疣状突起を形成する。霜柱状突起の平均短径は 0.5 mm、疣状突起は最大で短径 1.5 mm、高さ 3 mm に達する。霜柱状突起は頻繁に接合してコリンを形成する。コリンは特にサンゴ体周縁で顕著で、放射状に列生し、サンゴ体によっては途切れつつ末縁から基部付近まで長く連なる。この放射列は比較的均一に等間隔で並び、高く直立し、たいていコリンの前縁
(サンゴ体周縁側) は丸く肥大しかつ斜め前方に突出する。なお、放射状のコリンは側面も上面も直線的であるが、時に両面共に波打つ場合がある。また、サンゴ体によっては、同心円状の短いコリンが放射状コリンと交差して迷路状もしくは網目状構造を成す。コリンの幅は平均 1.0
(範囲 0.6~1.2) mm、高さは最大で 5.0 mm に達する。コリン間の幅はコリンよりもやや広い。
個体は基本的にコリン間に1列に並ぶ。個体の密度は部位やサンゴ体によって粗密があるが、概して疎らで、個体間隔は個体4個分以内である。個体は莢壁輪や隔壁の伸長に伴ってわずかに共骨面から突出する。個体は基本的に共骨面に対し垂直方向を向くが、サンゴ体周縁部では末縁方向に傾斜するものがある。莢径は平均 0.8
(範囲 0.7~1.0) mm で、個体の大きさは属内では中程度である。
方向隔壁はやや不明瞭、長さは平均 0.7R、準板状か鋸歯状を成す。1次隔壁はほぼ完全・規則的、長さは平均 0.6R、鋸歯状を成し、方向隔壁と共に斜め上方に突出して低いドームを形成する。2次隔壁は完全・不規則か不完全・不規則、長さは 0.4R で、たいてい1次隔壁よりも短い。軸柱は認められないかごく弱く発達する。莢壁はたいてい明瞭で共骨面よりわずかに突出するが、概して壁の発達は悪い。裸地帯はたいてい部分的に認められる。
共骨表面の目合いは平均 0.10 mm で、網目はフレームよりも幅狭く肌理は細かい。棘は繊細な棒状を成し、表面は顆粒状突起に被われる。サンゴ体葉状部
(板状部) 下面では、エピテカの発達度合いはサンゴ体により様々であるが、縁まで達することはない。共骨表面は滑らかで、個体はごく疎らに分布し、莢径は約 0.4 mm で、個体は共骨中に埋没するか共骨と共にドーム状にわずかに隆起する。
生時の色彩は共肉が黄褐色、淡褐色、淡緑褐色、淡青褐色等、ポリプは褐色や灰紫色を呈する。
識別点:本種は太く明瞭な放射状のコリン列を持つこと、霜柱状突起は疎らで基本的に莢壁冠を形成しないことの特徴で、霜柱状突起と板状・葉状群体を持つ他のコモンサンゴ類と区別される。
分布と生態:国内では小笠原諸島を除く吐噶喇列島以南、海外では南シナ海からミクロネシアにかけての西太平洋域に分布する。サンゴ礁域のやや浅所 (国内での平均出現水深は 9 m、水深範囲は 5~14 m)
に生息し、大きな群落は形成しない。
和名の由来:特徴的な放射状のコリン列を持つことに因む。和名基準標本は SMP-HC 3631 (奄美諸島加計呂麻島産) である。これまで本種の和名としてウスコモンサンゴが用いられてきたが、本和名は
Montipora minuta に対応するため、本種には新たな和名が与えられた (野村・鈴木 2021)。
備考:タクソンの実体が不明な M. compressa (Linnaeus, 1758) を除けば、M. foliosa (pallas, 1766) はコモンサンゴ属の中で最も古い種名となり、サンゴ礁域でイシサンゴ類に親しむ者にとってはポピュラーなコモンサンゴ類の1つとして見なされてきた。ただし、本種も担名タイプが指定されていないため、Pallas
(1766) の提唱以降、葉状のサンゴ体を成す複数の種がこの種名の下に扱われ、その種認識は250年以上もの長きにわたり錯綜してきた。
現代における M. foliosa の種認識は Veron & Wallace (1984) によって与えられたが、原記載では Veron & Wallace
(1984) によって示された特徴的な放射状コリン列を持つことは記載されていない。また、Bernard (1897) による M. foliosa の再記載においても、この種は放射状コリン列を欠き、それを持つものは別の新種として M. pulcherima が記載されている。従って、明瞭な放射状コリン列を持つタクソンは、真の M. foliosa と異なることは明白である。M. foliosa の分類学的位置を確定するためにはタイプを指定する必要があり、その候補としては、Pallas (1766) が調べた M. foliosa の標本群の1つである可能性があり (Bernard 1987)、Ellis & Solander (1786) が M. foliosa として図示した標本 (GLAHM:104003, グラスゴー大学ハンテリアン博物館所蔵 ) が挙げられる。しかしながら、この標本は葉状群体中央に細長い上方突起を持つため、Bernard (1897) は M. foliosa のとは別の新種 M. solanderi として記載している。
M. foliosa と M. solanderi の分類学的位置の決定はともかくとして、本稿では野村・鈴木 (2021) の見解に従い、Veron & Wallace (1984)
が M. foliosa の新参異名として扱った種名を、①繊細な放射状コリン列を持つ種、②堅牢で明瞭な放射状コリン列を持つ種、③分類学的位置が不明なグループの3つに分け、①に対しては
M. minuta Bernard, 1897 を、②に対しては M. prolifera Brüggemann, 1879 をそれぞれ古参異名として扱った。なお、③に含まれる真の M. foliosa はインド洋に限産し、バラの花状の複葉状のサンゴ体を成し、葉状部は概して厚く、霜柱状突起を持ち、繊細で破線状の放射状コリン列を持つものの、堅牢で明瞭な放射状コリン列は欠き、ほぼ全ての個体は共骨と共に低く突出する特徴を持つと解釈される。Bernard
(1897) が提唱した M. solanderi は本種であると思われる。
引用文献:
Bernard HM (1897) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. 3. The genus Montipora, the genus Anacropora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
Brüggemann F (1879) Ueber die Korallen der Insel Ponapé. Journal du Museum Godefroy, Hamburg 14: 201-212.
Crossland C (1952) Madreporaria, Hydrocorallinae, Heliopora and Tubipora. Scientific Report Great Barrier Reef Expedition 1928-29 6: 85-257. [BHL]
Dai CF, Horng C (2009) Scleractinia fauna of Taiwan I. The complex group. National Taiwan University, Taipei.
Ellis J, Solander D (1786) The natural history of many curious and uncommon zoophytes, collected from various parts of the Globe. Systematically arranged and described by the late Daniel Solander. 4. Benjamin White & Son, London. [BHL]
梶原健次・北野裕子・木村匡・座安佑奈・島田剛・下池和幸・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・出羽尚子・野村恵一・松本尚・山本広美・横地洋之 (2020) 宮古諸島造礁サンゴ目録. In: 宮古島市史編さん委員会(編) 宮古島市史第3巻自然編第1部宮古の自然(別冊). 宮古島市教育委員会, 宮古島市, pp 73-91.
西平守孝 (1988) フィールド図鑑 造礁サンゴ. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(48), 国内産種の紹介34. 霜柱状突起と葉状・板状群体を持つ種. マリンパビリオン 特別号12. [串本海中公園]
野村恵一・鈴木豪・岩尾研二 (2017) 阿嘉島のコモンサンゴ類. みどりいし28, supplement. [阿嘉島臨海研究所]
Pallas PS (1766) Elenchus zoophytorum sistens generum adumbrationes generaliores et speciarum cognitarum succintas descriptiones cum selectis auctorus synonymis. Petrum van Cleef, Hagae-Comitum. [BHL]
内田紘臣 (1993) イシサンゴの仲間. In: 益田一・林公義・中村宏治・小林安雅 (編) フィールド図鑑 海岸動物 増補改訂第2版. 東海大学出版会, 東京. pp 72-88.
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V.
Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
[BHL]
執筆者:野村恵一・鈴木豪
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更新履歴:
2023-11-12 公開