Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属
Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016
(Fig. 1-6)
Montipora cactus: Eguchi 1965: 275, 2 figs.; Utinomi 1971: 208; Sabiura Marine Park Research Station 1977: 2, 21, 3 figs.
Montipora cf. cactus: Utinomi 1966: 101.
Montipora informis: Utinomi 1971: 208, pl. 11, figs. 5a, 5b.
Montipora hispida: Uchida 1988: 49, 1 fig.; Uchida & Fukuda 1989: 184, 2 figs.; Nomura & Mezaki 2005: 37; Nomura, Uchida & Fukuda 2008: 193.
Montipora aff. hispida: Sugihara et al. 2015: 53, 4 figs.
Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016: 6; Nomura 2016: 26, figs. A-F; Nomura et al. 2020: 13, figs. 6G-I; Nomura & Suzuki 2021: 8, figs. 123, 124.
.
サボテンコモンサンゴ 江口, 1965
(図1-6)
サボテンコモンサンゴ 江口, 1965: 275, 2図 (さぼてんこもんさんご Montipora cactus として); 内海 1966: 101 (Montipora cf. cactus として); Utinomi 1971: 208 (Montipora cactus として); 錆浦海中公園研究所 1977: 2, 21, 3図 (Montipora cactus として); Nomura & Suzuki 2021: 8, 図123, 124.
ノリコモンサンゴ:Utinomi 1971: 208, 図版11, 図5a, 5b (Montipora informis として).
トゲコモンサンゴ:内田 1988: 49, 1図 (Montipora hispida として); 内田・福田 1989: 184, 2図 (Montipora hispida として); 野村・内田・福田 2008: 193 (Montipora hispida として).
ホンドトゲコモンサンゴ 杉原ら, 2015: 53, 4図 (Montipora aff. hispida として); 野村ら 2016: 6; 野村 2016: 26, 図A-F; Nomura et al. 2020: 13, figs. 6G-I.
図1. サボテンコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A-H, SMP-HC 3806. 和歌山県串本町双島, 水深 5 m: A-C, 群体; D, サンゴ体, 柱状突起部; EF, 同, 個体とその周囲; G, 同, 個体の断面; H, 同, 板状部下面. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2. サボテンコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A-H, SMP-HC 2531, ホンドトゲコモンサンゴ和名基準標本. 大隅諸島種子島上古田, 水深 5 m: A-C, 群体; D, サンゴ体, 準塊状部; E, 同, 板状部上面; F-H, 同, 個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図3. サボテンコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A, SMP-HC 999, 群体. 和歌山県串本町錆浦, 水深 10 m.
B, SMP-HC 1000, 群体. 錆浦, 水深 11 m.
C, SMP-HC 1212, 群体. 錆浦, 水深 5 m.
D, SMP-HC 1482, 群体. 串本町イズスミ礁, 水深 5 m.
E, SMP-HC 1484, 群体. 錆浦, 水深 10 m.
FG, SMP-HC 2341, 群体. 錆浦, 水深 10 m.
H, SMP-HC 2352, 群体. 串本町双島, 水深 6 m.
写真: 野村恵一撮影.
図4. サボテンコモンサンゴ.Fig. 4. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A-E, SMP-HC 2353. 和歌山県串本町双島, 水深 7 m: A-C, 群体; DE,サンゴ体, 個体とその周囲.
FG, SMP-HC 2321. 熊本県天草市牛深, 水深 19 m: F, 群体; G, サンゴ体上面.
H, SMP-HC 2324, 群体. 牛深, 水深 13 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図5. サボテンコモンサンゴ.Fig. 5. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A, SMP-HC 3289, 群体. 小笠原諸島聟島北, 水深 10 m.
B, SMP-HC 3303, 群体. 聟島北, 水深 11 m.
C, SMP-HC 3353, 群体. 小笠原諸島嫁島東, 水深 21 m.
DE, SMP-HC 3359. 嫁島東, 水深 22 m: D, 群体; E, サンゴ体, 個体とその周囲.
F-H, SMP-HC 3473. 小笠原諸島父島宮之浜, 水深 5 m: FG, 群体; H, サンゴ体, 個体とその周囲.
スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図6. サボテンコモンサンゴ.Fig. 6. Montipora sp. HONDOTOGE sensu Nomura et al., 2016.
A, 群体. 和歌山県串本町高富湾, 水深 5 m.
B, 群体. 串本町双島, 水深 5 m.
C-E, 群体. 双島, 水深 7 m.
F, 群体. 串本町有田湾, 水深 5 m.
GH, 群体. 有田湾, 水深 5 m.
写真: 野村恵一撮影.
形態:群体は被覆状か被覆板状を成し、成長するにつれてそれらの上に指状、樹木状、もしくは柱状の大型突起が不規則に生じる。群体は大形になり、長径が 3 m、高さ 1 m に達する場合がある。大型突起は最大で高さ 25 cm、基部の太さ 8 cm に達する。樹木状突起の分枝次数はたいてい1次まで、稀に2次が認められ、側枝は短く末枝は瘤状か指状を成す。板状部を除いた付着基部や大型突起上には直径 8 mm 前後の小瘤状突起が不規則に分布する。
サンゴ体上面の共骨上には霜柱状突起が分布し、その密度はサンゴ体によって異なる。また、密度はサンゴ体内の部位によって粗密がある場合と部位を問わず密生する場合とがあり、前者の場合は瘤状もしくは指状突起上でより密生しかつ長く伸びる傾向がある。霜柱状突起は細長くかつ側扁した円柱状を成し、太さは同一の群体内ではほぼ揃い、短径は平均 0.4 mm で、長さは最大で 1.5 mm に達する。霜柱状突起はたいてい莢壁冠を形成し、時に莢壁冠を構成するもの同士が部分的に接合して不完全な個体壁を形成する。さらに、個体壁同士が接合して短いコリンを形成する場合があり、稀に板状部周縁や瘤状突起先端近くで不明瞭な破線列が認められる。霜柱状突起は著しく肥大せず、疣状突起を形成しない。
個体は概してやや疎らに分布し個体間隔は個体2個以内であるが、瘤状突起間ではより密生する傾向がある。個体は基本的に多少なりとも莢壁の伸長に伴って共骨面から突出する。また、個体は周囲の霜柱状突起
(莢壁冠) と共に筒状に突出し、高さは最大で 2 mm に達する。なお、この突出個体の莢壁側面は霜柱状突起や霜柱状突起同士が接合した共骨によって完全には被われない。莢径は平均 0.9
(範囲 0.7~1.0) mm で、個体の大きさは属内では大きい。隔壁の長さは個体によって著しいバラツキが認められる。方向隔壁の長さは平均 0.7
(範囲 0.4~1.0) R で、準板状、時に板状を成し、莢開口面から突出する。1次隔壁は完全・やや不規則で、長さは平均 0.5 (範囲 0.3~0.7)
R で、鋸歯状か準板状を成し、たいてい部分的に弱く突出する。2次隔壁は完全・不規則か不完全・不規則で、長さは 0.4 (範囲 0.2~0.5) R で、しばしば1次隔壁と亜等長を成す。軸柱はたいてい弱く発達する。莢壁は明瞭で、多少なりとも共骨面から突出する。裸地帯は部分的に明瞭である。
共骨表面の目合いは 0.20 mm で、フレーム幅とほぼ同幅である。棘は基本的に霜柱状突起上に生じ、細長く、長さは平均 0.25 mm で、針状、棒状、もしくは薄片状を成し、しばしば上縁が複数に分岐し、顆粒状突起は発達しない。
板状部下面ではエピテカの発達は概して悪く、末縁から 2 cm 以内を被うことはない。共骨表面は霜柱状突起を欠き滑らかで、個体は疎らに分布し、共骨中に埋没するかやや突出し、莢径は平均 0.5 mm である。
生時の共肉は褐色もしくは緑褐色で、ポリプはたいてい緑色を呈し、時に板状部周縁が明色や青みを帯びる。
識別点:本種は以下の特徴によって他のコモンサンゴ類と区別される:群体は柱状突起を備える;霜柱状突起を持ち、太さは平均 0.4 mm で、著しく肥大せず疣状突起を形成しない;コリンの発達は弱い;個体はやや疎らに分布し、個体間隔は個体2個分以内である。
なお、本種の板状部の形態は Montipora peltiformis ムラサキコモンサンゴに酷似するため、板状部のみの標本の場合はこの種との区別が難しい場合がある。ムラサキコモンサンゴはポリプの色彩が基本的に紫色であること、上方大型突起を欠くこと、霜柱状突起はやや細いこと
(短径平均は 0.3 mm)、個体はほぼ均一に密生する (個体間隔は個体1個分以内) ことによって、本種と区別される。
分布と生態:大隅諸島以北 (鹿児島県種子島、熊本県天草市、宮崎県日南市・南郷町、高知県大月町、和歌山県串本町) ならびに小笠原諸島から知られる。岩礁域ならびにサンゴ礁域のやや浅所
(平均出現水深は 7 m、水深範囲は 3~21 m) に生息する。
和名の由来:和名はサボテン様の柱状の大型突起を伸ばす特徴に因む。サボテンコモンサンゴは M. cactus の学名に対し慣例的に用いられてきた和名である。しかしながら、M. cactus は M. hispida の新参異名とされ、さらにこの和名は江口 (1965) により本種に与えられたものであることが判明した (野村・鈴木 2021)。ホンドトゲコモンサンゴは異名。
備考:本種は該当する既知種は見当たらないため未記載種と思われる。本種は基本的に種子島以北の黒潮流域に限産するが、小笠原諸島にも分布することから、両海域間の交流の可能性が示唆される。
引用文献:
江口元起 (1965) 石珊瑚目. In: 岡田要・内田清之助・内田亨 (著者代表) 新日本動物図鑑(上). 北隆館, 東京, pp 270-297.
野村恵一 (2016) 串本産有藻性イシサンゴ類図鑑. Ⅰ シズカテマリ亜目. マリンパビリオン 特別号5. [串本海中公園]
野村恵一・深見裕伸・座安佑奈・島田剛 ・ 北野裕子・横地洋之・下池和幸・立川浩之・奥裕太郎・鈴木豪・梶原健次 (2016) 串本産有藻性イシサンゴ類相の再整理. マリンパビリオン特別号 4: 1-20. [串本海中公園]
野村恵一・目崎拓真 (2005) 高知県大月町海域から記録された造礁性サンゴ類. Kuroshio Biosphere 2: 29-43. [黒潮生物研究所]
野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(50), 国内産種の紹介36. 霜柱状突起と上方大型突起を持つ種. マリンパビリオン 特別号13. [串本海中公園]
野村恵一・内田紘臣・福田照雄 (2008) 串本産造礁サンゴ類の変遷. 南紀生物 50: 191-200.
Nomura K, Yokochi H, Kimura T, Kajiwara K, Nojima S, Arakaki S (2020) Zooxanthellate scleractinian corals collected from Amakusa, western Kyushu, Japan. Coast Ecosyst 7: 1-52. [Society for Coastal Ecosystems Studies - Asia Pacific]
錆浦海中公園研究所 (1977) 串本産イシサンゴ類. 串本海中公園センター, 串本.
杉原薫・野村恵一・横地洋之・下池和幸・梶原健次・鈴木豪・座安佑奈・出羽尚子・深見裕伸・北野裕子・松本尚・目﨑拓真・永田俊輔・立川浩之・木村匡 (2015) 日本の有藻性イシサンゴ類. 種子島編.国立環境研究所生物・生態系環境研究センター, つくば. [国立環境研究所]
内田紘臣 (1988) トゲコモンサンゴ Montipora hispida. マリンパビリオン 17: 49.
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
内海冨士夫 (1966) 紀伊半島沿岸の浅海珊瑚類相の概況. In: (財)日本自然保護協会, 日本自然保護協会調査報告第27号 和歌山県海中公園学術調査報告書, pp 97-102.
Utinomi H (1971) Scleractinian corals from Kamae Bay, Oita Prefecture,
Northeast of Kyushu, Japan. Publ Seto Mar Biol Lab 19: 203-229, pls. 10-13.
[京都大学]
執筆者:野村恵一・鈴木豪
Citation:
更新履歴:
2023-11-12 公開