Top page科・属リストAcroporidaeMontiporaMontipora sp. HOSOTOGE

Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021
(Figs. 1-6)

Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021: 15, figs. 134, 135.

Montipora stellata: Veron 2000: vol. 1, 160 (part), fig. 3.

ホソトゲコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021
(図1-6)

ホソトゲコモンサンゴ 野村・鈴木, 2021: 15, figs. 134, 135.

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図1. ホソトゲコモンサンゴ. Fig. 1. Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-H. SMP-HC 3266, 和名基準標本. 八重山諸島西表島船浮湾, 水深 4 m: A, B. 群体; C. サンゴ体内面; D. サンゴ体末枝外面; E. サンゴ体末枝内面; F-H. 個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図2. ホソトゲコモンサンゴ. Fig. 2. Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-D. SMP-HC 3704. 奄美諸島加計呂麻島知之浦, 水深 7 m: A, B. 群体; C. 枝の外面; D. 同, 個体とその周囲.

E, F. SMP-HC 3706, 群体. 知之浦, 水深 5 m.

G, H. CMNH-ZG 09113. 知之浦, 水深 3 m: G. 群体; H. 枝の外面.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: GH. 立川浩之撮影; それ以外. 野村恵一撮影.

図3. ホソトゲコモンサンゴ. Fig. 3. Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-D. SMP-HC 3715. 奄美諸島加計呂麻島知之浦, 水深 10 m: A. 群体; B. サンゴ体内面; C, D. 枝の外面, 個体とその周囲.

E-H. SMP-HC 3717. 知之浦, 水深 3 m: E. 群体; F, G. 枝の外面; H. 同, 個体とその周囲.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図4. ホソトゲコモンサンゴ. Fig. 4. Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-D. SMP-HC 4047. 宮古諸島宮古島世渡崎東, 水深 3 m: A, B. 群体; C. サンゴ体内面; D. 枝の外面; E. 同, 個体とその周囲.

F-H. SMP-HC 4076. 宮古島南静園前, 水深 3 m: F, G. 群体; H. 枝の外面.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: F, G. 梶原健次撮影; それ以外. 野村恵一撮影.

図5. ホソトゲコモンサンゴ. Fig. 5. Montipora sp. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-F. SMP-HC 4048. 宮古諸島宮古島世渡崎東, 水深 3 m: A, B. 周囲の純群落; C, D. 群体; E, F. サンゴ体外面.

G, H. SMP-HC 4066. 世渡崎東, 水深3m.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: G, H. 梶原健次撮影; それ以外. 野村恵一撮影.

図6. ホソトゲコモンサンゴ類似標本. Fig. 6. Montipora sp. cf. HOSOTOGE sensu Nomura & Suzuki, 2021.

A-C. SMP-HC 2180. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 1 m: A. 群体; B, C. 枝の外面.

D, E. SMP-HC 2314. 八重山諸島石垣島浦底湾, 水深 3 m: D. 群体; E. 枝の外面, 個体とその周囲.

F, G. SMP-HC 2600. 西表島網取湾, 水深 3 m.

H. SMP-HC 4075. 宮古諸島宮古島南静園前, 水深 3 m.

定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: D. 鈴木豪撮影; H. 梶原健次撮影; それ以外. 野村恵一撮影.

形態:群体は細い枝が密生したブッシュ状を成し、枝は海底基盤より直に生えて特別な付着付着基部を欠き、高さは 15 cm、長径は 30 cm に達する。たいていの群体は枝の分枝次数が3次以内で、海底基盤から鉛直方向に真っ直ぐ伸びるが、群体によっては分枝が4次まで認められて枝が込み入り、分枝した枝は様々な方向を向く場合がある。枝は茂みの中側を向いた面 (内面) と外側を向いた面 (外面) とで表面の構造が異なる二面性があり、外面は内面に比べて小型突起がより発達しかつ個体が多い。末枝の長さは平均 23.2 mm、末枝基部の太さは平均 3.3 mmで、たいてい細長い円錐状を成すが、稀に側偏する。幹の太さは平均 5.7 mmで、幹の断面はたいてい円形である。

サンゴ体の共骨上には霜柱状突起が疎らに分布し,短径は平均 0.5 mm で低いドーム状を成し、稀に個体壁上で不規則な莢壁冠を形成する。基本的にコリンを欠くが、群体によっては末枝側面に並んだ霜柱状突起の接合によって短い尾根状のコリンを形成する場合がある。疣状突起は個体壁の一端もしくは莢壁冠を構成する霜柱状突起の一部が発達することによってしばしば出現する。稀に疣状突起の一部が細長く伸長して、新たな枝を形成する。

個体はごく疎らにかつ不均一に分布し、個体間隔は個体6個分以内、枝軸に対し垂直方向を向くか枝先方向に傾き、たいてい後者が優占する。個体は共骨面下に埋没するか、周囲の共骨 (個体壁) と共に隆起し、高さは 1.5 mm を越えることはない。個体壁は半ドーム状 (密着管状) か下唇状を成す。莢径は平均 0.6 (範囲は 0.5~0.7) mm で、個体の大きさは属内では小さい。方向隔壁は1次隔壁よりもやや長く、たいてい準板状を成し、稀に莢開口面より上にやや突出する。1次隔壁はほぼ完全・規則的、長さは平均 0.6R で鋸歯状、時に準板状を成し、突出しない。2次隔壁は不完全・不規則で、たいてい1次隔壁よりも明瞭に短い。軸柱は弱く発達するか、発達しない。莢壁はたいてい不明瞭で莢開口面よりも上には突出せず、裸地帯も不明瞭である。

共骨表面の目合いは平均 0.08 mm で、網目はフレームよりも明瞭に幅狭く、肌理は特に細かい。棘は繊細で共骨表面ならびに小型突起上を密に被い、長さは平均 0.10 (範囲は 0.08~0.13) mm、棒状、先が複数に分かれた棍棒状もしくは薄片状をなし、上縁には繊細な顆粒状突起がよく発達する。

生時の色彩は共肉が淡褐色で、たいてい小型突起と枝の先端は明色を呈する。

識別点:本種の重要な特徴 (霜柱状突起と繊細な樹木状群体を持つ) は、Montipora altasepta コツブエダコモンサンゴ、M. carinata アカジマトゲコモンサンゴ、M. samarensis アラエダコモンサンゴ、M. stellata シゲミコモンサンゴと共有する。コツブエダコモンサンゴは莢径とほぼ同じ大きさのドーム状の霜柱状突起がやや密に分布し、たいてい莢壁冠を形成する特徴で、アカジマトゲコモンサンゴは莢壁が明瞭でたいてい枝先に明瞭な尾根状のコリンを形成する特徴で、アラエダコモンサンゴは均一に密生した霜柱状突起を持つ特徴で、シゲミコモンサンゴはしばしば個体が顕著な管状に突出する特徴で、それぞれ本種と区別される。なお、時に本種とシゲミコモンサンゴの中間的な形態を持つ標本が認められ、両者の区別が難しい場合がある。これについては備考を参照されたい。

分布と生態:国内では奄美諸島、宮古諸島、ならびに八重山諸島、海外ではインドネシアより知られる。懐の深い内湾ならびに波当たりが特に弱い礁池内の浅所 (平均出現水深は 4 m、水深範囲は 1~10 m) に生息する。

和名の由来:M. hispida トゲコモンサンゴに似た樹木状群体を形成することと、枝が細い特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 3266 (西表島船浮湾産) である。

備考:本種は既知種の中に形態が合致するものが見当たらないため、未記載種と思われる。本種に外見が最も酷似する種として M. stellata シゲミコモンサンゴが挙げられるが、両者は以下の相違点によって区別される。シゲミコモンサンゴは末枝がやや短い (平均 16.2 mm)、枝先が様々な方向を向く、幹はやや太い (平均 7.8 mm)、少なくとも枝の外面においては小形 (平均短径は 0.35 mm) の霜柱状突起が密生する、個体はやや疎らに分布し個体間隔は個体3個分以内、個体はやや大きい (平均莢径は 0.8 mm)、個体はしばしば筒状に顕著に突出し (高さは最大で 3.0 mm)、棘はやや長い (平均 0.20 mm) のに対し、本種は末枝が長い (平均 23.2 mm)、枝は海底基盤から鉛直方向に伸びる傾向がある、幹は細い (平均 5.7 mm)、霜柱状突起はやや大きくて (平均短径は 0.50 mm) 疎生する、個体は著しく疎らに分布し個体間隔は個体6個分以内、個体は小さい (平均莢径は 0.6 mm)、個体は筒状に突出することがあるが高さは 1.5 mm を越えない、棘は短い (平均 0.10 mm)。

また、分子系統においても両者間に相違が認められる。しかしながら、時に両者の中間的な形態を持つ標本が存在し、種の識別が難しい場合がある。例えば、ホソトゲコモンサンゴと同じ分子系統に位置しながらシゲミコモンサンゴに類似した形態を持つ標本 (図6A-E) や、枝振りはホソトゲコモンサンゴのように繊細でありながら、シゲミコモンサンゴのように顕著に突出した個体や密生した霜柱状突起を持つ標本 (図6F-H) が認められる。このような中間的な標本の存在は、本種の分類学的位置について再検討の余地を残すと共に、シゲミコモンサンゴとホソトゲコモンサンゴとの間に交雑が起きている可能性が示唆される。

引用文献:

野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(50), 国内産種の紹介36. 霜柱状突起と上方大型突起を持つ種. マリンパビリオン 特別号13. [串本海中公園]

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

執筆者:野村恵一・鈴木豪

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更新履歴:

2023-11-12 公開