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Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017
(Figs. 1-5)

Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017: 128, fig. 1 (16); Nomura & Suzuki 2021: 14, fig. 113.

? Montipora sp. cf. KAKAN: Nomura & Suzuki 2021: 15, fig. 114.

カカンコモンサンゴ 野村, 2017
(図1-5)

カカンコモンサンゴ 野村, 2017: 128, 図1 (16); 野村・鈴木 2021: 14, 図113.

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図1. カカンコモンサンゴ. Fig. 1. Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017.

A-H. SMP-HC 3278, 和名基準標本. 小笠原諸島聟島北, 水深 10 m: A. 渦を巻いた単葉の葉状部が集まった複葉状群体; B. 群体葉状部上面; C, D. サンゴ体上面; E, F. 同, 個体とその周囲; G. サンゴ体下面; H. 同, 個体とその周囲. 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図2. カカンコモンサンゴ. Fig. 2. Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017.

A-H. SMP-HC 3282. 小笠原諸島聟島北, 水深 10 m: A, B. 葉状部がやや立ち上がった複葉状群体; C. 群体葉状部上面; D, E. サンゴ体上面; F, G. 同, 個体とその周囲; H. サンゴ体下面. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図3. カカンコモンサンゴ. Fig. 3. Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017.

A-C. SMP-HC 1942. 吐噶喇列島中之島七ツ山, 水深 10 m: A. 被覆板状群体; B. サンゴ体上面; C. 同, 個体とその周囲.

D-F. SMP-HC 2845. 宮古諸島八重干瀬, 水深 14 m: D. 単葉の円板状群体; E. サンゴ体上面; F. 同, 個体とその周囲.

G, H. SMP-HC 3297. 小笠原諸島聟島北, 水深 11 m: G. 水平に広がった複葉状群体; H. 個体とその周囲.

定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図4. カカンコモンサンゴ. Fig. 4. Montipora sp. KAKAN sensu Nomura, 2017.

A, B. SMP-HC 3424. 小笠原諸島父島宮之浜, 水深 4 m: A. 被覆板状群体; B. サンゴ体上面, 個体とその周囲.

C. SMP-HC 3439, 瓦状に重なり合った複葉状群体. 父島巽湾, 水深 2 m.

D. SMP-HC 3470, 複葉状群体. 父島宮之浜, 水深 5 m.

E. 浅所に形成された群落. 父島巽湾, 水深 2 m.

F. 大型の被覆板状群体. 父島巽湾, 水深 2 m.

G. 複葉状群体. 父島巽湾, 水深 2 m.

H. 複葉状群体. 父島宮之浜, 水深 3 m.

スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図5. カカンコモンサンゴ類似標本群. Fig. 5. Montipora sp. cf. KAKAN.

A. SMP-HC 3316, 小さな被覆状群体. 小笠原諸島聟島群島媒島袋湾, 水深 10 m.

B. SMP-HC 3161, 様々な大型突起を持つ塊状群体. 小笠原諸島母島ウエントロ, 水深 20 m.

C. SMP-HC 3112, 様々な大型突起を持つ塊状群体. 母島脇浜, 水深 2 m.

D. SMP-HC 3434, 様々な大型突起を持つ塊状群体. 小笠原諸島父島宮之浜, 水深 3 m.

E. SMP-HC 3391, 被覆状の付着基部上に柱状突起を伸ばした群体. 聟島小花湾, 水深 6 m.

F. SMP-HC 3131, 被覆状の付着基部から樹木状突起を伸ばした群体. 母島脇浜, 水深 2 m.

G, H. SMP-HC 3384. 聟島小花湾, 水深 6 m: G. 樹木状群体; H. サンゴ体.

写真: 野村恵一撮影.

形態:群体は基本的に複数の葉状体を水平方向に伸ばした複葉状を成し、時に渦を巻いて斜め上方に伸びた単葉状もしくはそれが合わさった複葉状や被覆板状を成す。群体上面は大型突起を欠き、葉状部は薄く、厚さは末縁で約 2 mm、末縁から 5 cm の距離で約 4 mm で、長径は時に 1 m を越える。

サンゴ体上面の共骨上には繊細な霜柱状突起が分布し、個体は常に莢壁冠を伴う。莢壁冠を形成する霜柱状突起は、個体間に分布するものに比べて発達し、やや側扁した細長い薄片状を成し、短径は平均 0.2 mm で最大でも 0.3 mm を超えず、長さは最長で 0.7 mm に達する。霜柱状突起は稀に接合してごく短いコリンを形成する場合があるが、放射列を形成することはなく、また肥大して疣状突起に発達することもない。

個体はやや密に分布し、個体間隔は個体2個分以内である。個体は多かれ少なかれ莢壁の伸長に伴って共骨面から突出し、莢壁側面の大部分は裸出し、個体壁は形成されない。個体はほぼ全てが直立し、所々で同心円状に連なる場合がある。莢径は平均 0.7 (範囲 0.6~0.8) mm で、個体の大きさは属内では中程度である。

方向隔壁は他の1次隔壁と区別できないかわずかに長い程度である。1次隔壁は完全・不規則で準板状か鋸歯状を成し、長さは平均 0.6R で、たいてい莢開口面より上には突出しない。2次隔壁は不完全・不規則で、1次隔壁よりも明瞭に短い。軸柱はたいてい弱く発達する。莢壁は明瞭、裸地帯は部分的に明瞭である。

共骨表面の目合いは平均 0.15 mm で、網目はフレームとほぼ同幅で、肌理の細かさは中程度である。棘は繊細で細長く、針状、棒状もしくは薄片状を成し、上縁部は時に複数の尖端に分かれ、同部には顆粒状突起が弱く発達する。

サンゴ体下面はエピテカがよく発達し、末縁から 0.5 cm 程の距離を残して共骨を被う。共骨が裸出する部分には個体は分布しないかごく疎らで、個体は共骨中に埋没し、莢径は 0.4 mm で、共骨表面は滑らかである。

生時の色彩は軟体部が一様な淡黄褐色か淡緑黄褐色を呈し、縁はたいてい明色に染め分けられる。

識別点:本種は以下の特徴の組み合わせによって、霜柱状突起と葉状・板状群体を持つ他のコモンサンゴ類と区別される;個体は常に莢壁冠を伴い、莢壁の伸長によって多かれ少なかれ共骨面から突出し、莢壁側面の大部分は裸出する、個体は直立しサンゴ体周縁方向には傾斜しない、霜柱状突起は繊細で大きくても短径は 0.3 mm を超えない、放射状や網目状のコリンは形成されない。

分布と生態:小笠原諸島のほぼ全ての海域 (聟島群島、父島群島ならびに母島群島) に普通に分布するが、他の海域では極めて稀である (吐噶喇列島中之島と八重干瀬からそれぞれ1標本のみが採集されている)。様々な環境の比較的浅所に生息する (平均出現水深は 8 m、水深範囲は 2~14 m)。父島巽湾では群落が認められる。

和名の由来:一部の群体は花冠状を成す特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 3278 (小笠原諸島聟島産)。

備考:本種は既知種の中に該当するものが見当たらないため、未記載種である可能性が持たれる。本種には群体形は葉状もしくは被覆板状を成し群体上面は大型突起を欠くとの定義を与えたが、本種が主に分布する小笠原諸島には個体やその周囲の構造が本種に類似するものの群体形が大きく異なる標本群が認められる (図5)。これらがカカンコモンサンゴの形態変異なのか、それとも別種なのか、あるいは他種との雑種なのかの判別は現時点では困難であるため、この標本群を便宜的に Montipora sp. cf. KAKAN カカンコモンサンゴ類似標本群として扱った。

引用文献:

野村恵一 (2017) 小笠原諸島の有藻性イシサンゴ群集. In: 東京都小笠原支庁, 平成28年度小笠原諸島海域生態調査委託報告書. 小笠原自然文化研究所, 小笠原, pp 95-179. [小笠原世界遺産センター]

野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(48), 国内産種の紹介34. 霜柱状突起と葉状・板状群体を持つ種. マリンパビリオン 特別号12. [串本海中公園]

執筆者:野村恵一・鈴木豪

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更新履歴:

2023-11-12 公開