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Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属

Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834)
(Figs. 1–5)

Madrepora (Porites) stilosa Ehrenberg, 1834: 342 [Red Sea].

Manopora stilosa: Dana 1846: 500.

Montipora stilosa: Klunzinger 1879: 30, pl. 5, fig. 7, pl. 6, fig. 5, pl. 10, fig. 1; Bernard 1897: 115; Nomura & Suzuki 2022: 7 (part), figs. 143, C-H (A, B = Montipora aff. peltiformis), 144, C-H (A, B = Montipora cf. composita).

Montipora efflorescens: Veron & Wallace 1984: 91, figs. 233-241; Veron 2000: vol. 1, 104, figs. 1-6.

Montipora sp. KOBUTOGE sensu Nomura, 2017: 132, fig. 1 (18).

not Montipora stilosa: Veron 2000: vol. 1, 102, figs. 1-6 (= Montipora sp.).

コブトゲコモンサンゴ 野村, 2017
(図1-5)

コブトゲコモンサンゴ 野村, 2017: 132, 図1 (18); 野村・鈴木 2022: 7 (一部), 図143, C-H, 144, C-H.

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図1. コブトゲコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834).

A-H. SMP-HC 3350, 和名基準標本. 小笠原諸島父島二見湾, 水深 7 m; A, B. 群体; C, D. サンゴ体; E-G. 同, 個体とその周囲; H. 個体周囲の霜柱状突起と棘; 規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図2. コブトゲコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834).

A-H.SMP-HC 2655.八重山諸島西表島網取湾, 水深 2 m; A-C. 群体; D, E. サンゴ体; F-H. 同, 個体とその周囲; 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図3. コブトゲコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834).

A. SMP-HC 2176, 群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 10 m; B. SMP-HC 2263, 群体. 八重山諸島竹富島タケルンジュ, 水深 3 m; C. SMP-HC 2278, 群体. タケルンジュ, 水深 3 m; D. SMP-HC 2315, 群体. 八重山諸島石垣島浦底湾, 水深 3 m; E. SMP-HC 2467, 群体. 慶良間諸島阿嘉島マジャノハマ, 水深 3 m; F. SMP-HC 2543, 群体. 宮古諸島宮古島狩俣, 水深 18 m; G. SMP-HC 2594, 群体. 網取湾, 水深 4 m; H. SMP-HC 2595, 群体. 網取湾, 水深3m; 定規の目盛り: 1 mm. 写真: D, 鈴木豪撮影; それ以外, 野村恵一撮影.

図4. コブトゲコモンサンゴ.Fig. 4. Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834).

A. SMP-HC 2625, 群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 6 m; B. SMP-HC 2637, 群体. 網取湾, 水深 2 m; C. SMP-HC 2640, 群体. 網取湾, 水深 3 m; D. SMP-HC 2860, 群体. 宮古諸島大神島西, 水深 1 m; E, F. SMP-HC 2656, 群体. 網取湾, 水深 2 m; G. SMP-HC 3675, 群体. 奄美諸島加計呂麻島呑之浦, 水深 4 m; H. SMP-HC 3688, 群体. 奄美諸島奄美大島手安, 水深 3 m; 定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

図5. コブトゲコモンサンゴ.Fig. 5. Montipora stilosa (Ehrenberg, 1834).

A-C. SMP-HC 3272. 八重山諸島西表島船浮, 水深 5 m; A, B. 群体; C. サンゴ体, 個体とその周囲; D, E. SMP-HC 3804. 奄美諸島奄美大島阿鉄湾, 水深 7 m; D. 群体; E. サンゴ体; F-H. SMP-HC 3805. 奄美諸島奄美大島阿鉄湾, 水深 7 m; F. 群体; G. サンゴ体; H. 同, 個体とその周囲; 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.

形態:群体は塊状もしくは厚みのある被覆状を成し、最大長径は 1 m に達する。群体上には直径 1 cm 前後の丸みのある小瘤状突起が密生する。瘤状突起の大きさや形の均一性は群体によって異なり、また瘤状突起の表面は滑らかな場合や粒状突起に被われる場合がある。基本的に瘤状突起以外の大型突起は欠く。

サンゴ体の共骨上には霜柱状突起が密生し、その分布や大きさ、均一性にはサンゴ体によって変異が認められる。霜柱状突起の形はドーム状もしくはそれが伸長した細長い円柱状を成し、時に側扁し、成長しても著しく肥大せず疣状突起は形成しない。莢壁冠はたいてい不明瞭であるが、時に霜柱状突起同士が個体周囲を中心に不規則に接合して、城壁様の直立した個体壁やコリンを形成する。また、サンゴ体全面にわたって個体壁やコリンが不規則に連結して、複雑な網目状構造を形成する場合がある。霜柱状突起の短径は平均 0.4 mm、最大 0.6 mm、長さは平均 0.6 mm、最大 2.0 mm である。

個体密度はサンゴ体や部位によって粗密があるが、たいてい個体はやや疎らに分布し、個体間隔は個体3個分以内である。個体は基本的に共骨中に埋没するが、稀に周囲の霜柱状突起や共骨と共にわずかに突出し、頂端粒状突起を形成する。頂端粒状突起は最大で短径・高さ共に 3.0 mm に達する。莢径は平均 0.9 (範囲は 0.5~1.2) mmで、個体の大きさは属内では大きい。

方向隔壁は準板状もしくは鋸歯状、稀に板状をなし、長さは 0.8 (範囲 0.5~1.0) R、時に莢開口面よりも突出する。1次隔壁は完全・規則的、長さは 0.7 (範囲 0.4~0.8) R、鋸歯状もしくは準板状をなし、たいてい突出しない。2次隔壁はたいてい完全・不規則、時に不完全・不規則、長さは 0.3 (範囲 0.2~0.5) R で、まれに1次・2次隔壁の長さが亜等長を成す場合がある。軸柱は認められないか、弱く発達する。莢壁は明瞭で時にわずかに共骨面から盛り上がり、裸地帯はたいてい明瞭である。

共骨表面の目合いは平均 0.14 mm で、網目は丸くフレームよりも明瞭に幅狭く、肌理は細かい。棘はやや長く、長さは平均 0.16 mm で、針状、棒状もしくは細い薄片状を成し、表面には細かい顆粒状突起が分布する。

生時の色彩は一様な褐色、淡褐色、淡赤色、もしくは淡紫色をなし、時に霜柱状突起の先や触手が明色を呈する。

識別点:瘤状突起と霜柱状突起が密生する特徴は、Montipora efflorescens ハシラコモンサンゴと共有するが、この種はたいてい柱状の大型突起を備えることと霜柱状突起が顕著な莢壁冠を形成することで本種と区別される。本種の中で頂端粒状突起を持つ標本は、M. composita セノビコモンサンゴとの区別が難しい場合があるが、この種は瘤状突起が不明瞭なこと、頂端粒状突起はしばしば短径・高さ共に 3 mm を越えることで本種と区別される。

分布と生態:国内では琉球列島中部以南 (奄美諸島、慶良間諸島、宮古諸島、八重山諸島) ならびに小笠原諸島、海外では紅海、グレートバリアリーフならびにグアムより知られる。サンゴ礁域の比較的浅所 (平均水深は 7 m、水深範囲は 1~18 m) に生息する。

和名の由来:密生した瘤状突起と霜柱状突起を持つ特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 3350 (小笠原諸島父島産) である。なお、学名は stilus (= stylus:鉄筆) に由来し、タイプ標本に見られる特徴的な城壁様の個体壁を形成する霜柱状突起に因んだものと思われる。

備考:本種のタイプ標本はベルリン博物館に所蔵されており、同博物館で標本調査された立川浩之氏から、同博物館が非公式に作成されたタイプ画像集を見せていただいた。M. stilosa のタイプ標本 (ZMB Cni 951) は長径 13 cm の塊状を成し、表面には小瘤状突起と霜柱状突起が密生し、個体周囲の霜柱状突起は互いに接合して直立した個体壁を形成し、それらがサンゴ体全面にわたって不規則に入り交じった特異な網目状構造を形成している。この特徴は、国内産の標本 (SMP-HC 2655、図2) とよく一致した。また、国内産の多数の標本を精査した結果、本種の霜柱状突起や個体壁の発達度合いにはサンゴ体によって大きな変異があることが確かめられた。

Veron (2000) が記載した M. stilosa は本種と異なる特徴 (瘤状突起は不明瞭、霜柱状突起の分布は不均一でかつ異常に伸長する、頂端粒状突起が頻繁に出現する) を持つことからち、別種 (種不明) である可能性が持たれる。また、Veron & Wallace (1984) ならびに Veron (2000) が記載した M. efflorescens は本種に再同定された。

引用文献:

Bernard HM (1897) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. 3. The genus Montipora, the genus Anacropora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]

Dana JD (1846, 1849) United States exploring expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842 under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. VII. Zoophytes. Lea and Blanchard, Philadelphia. [Smithson Lib: text, plates]

Hoffmeister JE (1925) Some corals from American Samoa and the Fiji Islands. The Carnegie Institution of Washington, Washington, DC. [HathiTrust]

National Museum of Natural History, Smithsonian Institute (2024) Montipora nodosa (Dana, 1846). Accessed through: Search the Department of Invertebrate Zoology Collections. at: https://n2t.net/ark:/65665/39dca0109-e9bf-4a1c-83eb-3bdff90d0c54 on 2024-04-04.

Nomura K, Baird AH, Suzuki G (2023) First record in 135 years since the original description of a zooxanthellate scleractinian coral, Montipora stalagmites Ortmann, 1888 collected from Minami-Daitojima Island (Okinawa, Japan), and the Montipora fauna of this Island. Fauna Ryukyuana 68: 41-51. [琉球大学学術リポジトリ]

野村恵一・鈴木豪 (2022) コモンサンゴ類の同定の話(51) , 国内産種の紹介37. 霜柱状突起を持ち、被覆状・塊状群体を成し、瘤状突起以外の大型突起を欠く種. マリンパビリオン 特別号14. [串本海中公園]

野村恵一・鈴木豪・岩尾研二 (2017) 阿嘉島のコモンサンゴ類. みどりいし28, supplement. [阿嘉島臨海研究所]

Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 1. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

執筆者:野村恵一・鈴木豪

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更新履歴:

2024-06-16 公開