Acroporidae ミドリイシ科
Montipora コモンサンゴ属
Montipora trabeculata Bernard, 1897
(Fig. 1-5)
Montipora trabeculata Bernard, 1897: 148, pl. 27, fig. 2, pl. 34, fig. 9 [Townsville, Great Barrier Reef]; Nomura et al. 2021: 46, figs. 4, 5; Nomura & Suzuki 2021: 5, fig. 119.
? Montipora trabeculata: Hoffmeister 1925: 52, pl. 7, fig. 2.
フトトゲコモンサンゴ 野村・鈴木・立川・藤井, 2021
(図1-5)
フトトゲコモンサンゴ 野村ら, 2021: 46, 図4, 5; 野村・鈴木 2021: 5, 図119.
図1. フトトゲコモンサンゴ.Fig. 1. Montipora trabeculata Bernard, 1897.
A-H, SMP-HC 3702, 和名基準標本. 奄美諸島加計呂麻島知之浦, 水深 8 m: AB, 柱状突起を持つ群体; C, サンゴ体, 柱状突起部; D, 同, 柱状突起上面; E-G, 同, 柱状突起間における個体とその周囲; H, 同, 共骨表層の断面, 個体開口部 (a), 霜柱状突起 (b), トラベキュラ (c). 定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図2. フトトゲコモンサンゴ.Fig. 2. Montipora trabeculata Bernard, 1897.
A-D, SMP-HC 2623. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 3 m: A, 被覆板状群体; B, サンゴ体; CD, 同, 個体とその周囲.
E-G, SMP-HC 2670. 網取湾, 水深 4 m; EG, 被覆板状群体; G, サンゴ体, 個体とその周囲.
H, SMP-HC 2750, 被覆状群体, 宮古諸島八重干瀬, 水深 3 m.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図3. フトトゲコモンサンゴ.Fig. 3. Montipora trabeculata Bernard, 1897.
AB, SMP-HC 2759, 被覆板状群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 8 m.
C-E, SMP-HC 3630. 奄美諸島加計呂麻島阿多地, 水深 6 m: C, 被覆状群体; D, サンゴ体; E, 同, 個体とその周囲.
FG, SMP-HC 3681, 被覆板状群体. 奄美大島手安, 水深 21 m.
H, SMP-HC 3685, 準塊状群体, 手安, 水深 11 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
図4. フトトゲコモンサンゴ.Fig. 4. Montipora trabeculata Bernard, 1897.
A-E, SMP-HC 3732. 奄美諸島奄美大島白浜, 水深 6 m: AB, 瘤状突起を持つ塊状群体; CD, サンゴ体; E, 同, 個体とその周囲.
F, SMP-HC 4026, 瘤状突起を持つ塊状群体. 宮古諸島八重干瀬, 水深 3 m.
GH, CMNH-ZG 08491, 短い柱状突起を持つ被覆板状群体. 奄美大島久場, 水深 8 m.
定規の目盛り: 1 mm. スケールバー: 1 mm. 写真: GH, 立川浩之撮影; それ以外, 野村恵一撮影.
図5. フトトゲコモンサンゴ.Fig. 5. Montipora trabeculata Bernard, 1897.
A-C, SMP-HC 3680. 奄美諸島加計呂麻島呑之浦, 水深 5 m: AB, 瘤状突起を持つ塊状群体; C, サンゴ体.
D-H, BMNH 1892-12-1-268, M. trabeculata のホロタイプ, オーストラリアクイーンズランド州タウンズビル: DE, サンゴ体 (柱状突起) 側面; F, サンゴ体上面; GH, サンゴ体側面, 個体とその周囲.
定規の目盛り: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影..
図6. フトトゲコモンサンゴ類似標本.Fig. 6. Montipora cf. trabeculata Bernard, 1897.
A, SMP-HC 2589, 複葉状群体. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 19 m.
BC, SMP-HC 3697, 単葉状群体. 奄美諸島加計呂麻島知之浦, 水深 17 m.
DE, SMP-HC 3802. 阿鉄湾, 水深 14 m.
F-H, SMP-HC 3803. 阿鉄湾, 水深 11 m: F, 複葉状群体; G, サンゴ体, 個体とその周囲. H, サンゴ体周縁部のコリン列.
スケールバー: 1 mm. 写真: 野村恵一撮影.
形態:被覆状か被覆板状もしくは塊状の群体を形成し、長径は最大で 70 cm に達する。塊状群体では、上面に様々な大きさの瘤状突起が密生し、時に瘤状突起が房状に集まった高さ 10 cm までの柱状突起を備える。
サンゴ体の共骨上には霜柱状突起が密生するが、形や大きさは不均一で、ドーム状か円柱状、もしくは側扁した円柱状を成し、平均短径は 0.6 mm で概して太く、しばしば肥大して疣状突起に発達する。疣状突起は最大で短径 1.3 mm、長さ 4.0 mm に達する。霜柱状突起はしばしば莢壁冠を形成し、その一部は互いに接合して不完全な個体壁と成る。瘤状突起もしくは柱状突起の上縁では、個体壁同士が接合して険しく直立した壁状のコリンを形成する場合がある。
個体は概して不均一にかつ疎らに分布し、個体間隔は個体4個分以内である。個体は莢壁の伸長に伴ってわずかに突出し、さらにしばしば莢壁冠もしくは莢壁の伸長に伴って単体で突出し粒状突起を形成する。粒状突起はさらに成長して瘤状突起に発達する場合が多い。莢径は平均 0.8
(範囲 0.6~0.9) mm で、個体の大きさは属内では中程度である。隔壁はほぼ完全・規則的で、方向隔壁を含む1次隔壁は莢奥で互いに接近もしくは接合し、しばしば小さな軸柱を形成する。方向隔壁は他の1次隔壁よりもやや長く、準板状か鋸歯状を成し、たいてい莢開口面からやや突出する。1次隔壁の長さは平均 0.7R、2次隔壁は平均 0.3R である。莢壁は部分的に認められ、たいてい共骨面からわずかに伸長する。裸地帯も部分的に認められる。
共骨表面の目合いは平均 0.12 mm で、フレーム幅よりも明瞭に幅狭く、肌理は細かい。棘は繊細で長さは平均 0.08 mm、棒状か薄片状を成し、表面は顆粒状突起に被われる。
生時の色彩は共肉が淡褐色か褐色もしくは緑褐色、ポリプが共肉と同じか緑色である。
識別点:本種は付着基部上に柱状突起を備えた群体形を持つこと、霜柱状突起が密生するが、形や大きさは不均一で、概して太く (平均短径 0.6 mm)、しばしば肥大して疣状突起を形成する特徴で、霜柱状突起を持つ他のコモンサンゴ類と区別される。本種と
Montipora efflorescens ハシラコモンサンゴは外観が互いによく似るが、この種の霜柱状突起の大きさはほぼ均一でやや細く (平均短径 0.4 mm) かつ疣状突起にまで発達しないこと、個体は密生し
(板状部を除いた個体間隔は個体1個分以内) 、棘は長い (平均 0.17 mm) 特徴によって、本種と区別される。。
和名の由来:霜柱状突起が太い特徴に因む。和名基準標本は SMP-HC 3702 (加計呂麻島産)。
備考:M. trabeculata のホロタイプは柱状突起の一部である (図5D-H)。フトトゲコモンサンゴに同定された標本群の中で柱状突起を持つものの形態 (図1) は、ホロタイプの形態とよく一致した。国内の標本解析によって、本種の群体形には様々
(被覆状、被覆板状、塊状) あることが認められた。しかしながら、霜柱状突起の形状は本種に類似するものの群体が葉状を成すもの (図6) は、M. sp. TSUBUHOSOSUJI ツブホソスジコモンサンゴとの中間的な形態を有した。そのため、葉状の群体形を持つものは本文では本種には含めず、M. cf. trabeculata フトトゲコモンサンゴ類似標本として扱った。なお、Veron & Wallace (1984) ならびにその見解に従った Hoeksema
& Cairns (2023) は M. trabeculata を M. efflorescens のシノニムとして扱っているが、本文の識別点で述べてあるように両者はそれぞれ独立した別種である。
引用文献:
Bernard HM (1897) Catalogue of the madreporarian corals in the British Museum (Natural History). Vol. 3. The genus Montipora, the genus Anacropora. Trustees of the British Museum, London. [BHL]
Hoeksema BW, Cairns S (2023) World List of Scleractinia. Montipora trabeculata Bernard, 1897. Accessed through: World Register of Marine Species at: https://www.marinespecies.org/aphia.php?p=taxdetails&id=759819 on 2023-08-30.
Hoffmeister JE (1925) Some corals from American Samoa and the Fiji Islands. The Carnegie Institution of Washington, Washington, DC. [HathiTrust]
野村恵一・鈴木豪 (2021) コモンサンゴ類の同定の話(50), 国内産種の紹介36. 霜柱状突起と上方大型突起を持つ種. マリンパビリオン 特別号13. [串本海中公園]
野村恵一・鈴木豪・立川浩之・藤井琢磨 (2021) 奄美諸島から採集された国内初記録の4種のコモンサンゴ類 (イシサンゴ目ミドリイシ科). Fauna Ryukyuana 63:41–52. [琉球大学学術リポジトリ]
Veron JEN, Wallace CC (1984) Scleractinia of eastern Australia, part V.
Family Acroporidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
[BHL]
執筆者:野村恵一・鈴木豪
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更新履歴:
2023-11-12 公開