Fungiidae クサビライシ科
Pleuractis Verrill, 1864 ゾウリイシ属
Pleuractis moluccensis (van der Horst, 1919)
(Figs. 1-5)
Fungia moluccensis van der Horst, 1919: 65, pl. 1, 2 figs. [Moluccas, Indonesia]; Nishihira & Veron 1995: 252, 4 figs.; Veron 2000: 284, figs. 1-5, 1 skeleton fig; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 94, 4 figs. (KU-C 560).
Fungia (Pleuractis) moluccensis: Veron & Pichon 1980: 165, figs. 273-282, 756; Shirai & Sano 1985: 227, fig. 6; Veron 1986: 345, 2 figs.; Nishihira 1988: 120, 1 fig.; Hoeksema 1989: 135, figs. 21, 349-358, 642, 643; Uchida & Fukuda 1989: 29, 4 figs.
Pleuractis moluccensis: Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123; Sugihara 2014: 17, 60, 4 figs. (RUMF-ZG-0023); Yokochi et al. 2019: 46.
Cycloseris aff. somervillei: Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 27, 89, 3 figs. (KU-C 904).
Fungia somervillei: Matthai 1924: 41, pl. 9, fig. 1, 3, pl. 10, fig.7.
ネジレクサビライシ 白井, 1985
(図1-5)
ネジレクサビライシ 白井・佐野, 1985: 227, 図6; 西平 1988: 120, 1図; 内田・福田 1989: 29, 4図; 西平・Veron
1995: 252, 4図; 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 94, 4図 (KU-C 560); 杉原 2014: 17, 60, 4図 (RUMF-ZG-00230);
横地ら 2019: 46.
図1A–J. CMNH-ZG 06734. 西表島網取湾, 水深 35 m. 2014-07-01. サンゴ体の長さ 145 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
G: 生時のサンゴ体.
H: 肋とサンゴ体壁の穴.
I, J: 肋の突起列.
図2A–G. CMNH-ZG 06953. 宮古島狩俣, 水深 26 m. 2014-10-24. サンゴ体の長さ 130 mm.
口周縁出芽により多口となったサンゴ体.
A–C: サンゴ体の上面,側面および下面.
D: 口周縁出芽により形成された二次口.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図3A–G. CMNH-ZG 10577. 宮古島八重干瀬, 水深 33 m. 2023-10-29. サンゴ体の長さ 119 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図4A–G. CMNH-ZG 07487. 奄美大島龍郷, 水深 24 m. 2016-01-28. サンゴ体の長さ 162 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図5 A–B. CMNH-ZG 06704. 西表島網取湾, 水深 18 m. 2017-10-06. サンゴ体の長さ 99 mm.
A– C: 破片から再生したサンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 生時のサンゴ体.
図の標本採取・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.
形態:サンゴ体は自由生活性だが、口内出芽および口周縁出芽により複数の口を持つサンゴ体も見られる。観察に用いた標本の長径は 6.7~16.2 cm (N=12)
(Hoeksema (1989) の検討標本は最大 18.5 cm)。成長したサンゴ体は基本的に楕円形のサンゴ体を持つが (図1, 3)、不規則にねじれたり盛り上がったりするサンゴ体を持つものが少なくなく、このようなものは複数の口を持つことが多い
(図2, 4)。サンゴ体の長径は短径の1.0~1.7倍 (楕円形のサンゴ体のものでは1.3~1.7倍) 程度。サンゴ体の上面は口の周辺が顕著なドーム状に突出し、周縁部はほぼ平面状または口周辺に向けてなだらかに盛り上がる(図1–
4)。下面は平面状またはわずかに凹入する。縦分裂 (自切) による無性生殖はみられないが、物理的な外力により破損したと思われる破片からの再生個体は稀に観察される (図5)。
多くのサンゴ体で、下面中央付近に芽体からの分離時にできた付着痕が残る。付着痕の長径は13~27 mm程度。 口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなるサンゴ体長径方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の14~26%程度。
隔壁はあまり蛇行せず直線的で、大型隔壁と小型隔壁が交互に並ぶが、不規則な形態のサンゴ体では大型隔壁が周縁部まで達せずに途切れたり、隣り合う大型隔壁が癒合したりすることがある。大型隔壁の内縁部に不明瞭な触手葉が形成されることがある。隔壁の縁辺には顆粒状の鋸歯が並ぶか、顆粒が癒合した不規則な鋸歯が縁取る。鋸歯の数は 1 cm あたり20~50程度。隔壁側面は一様に分布する荒めの顆粒で覆われる
(図1E, F, 2E, 3E, 4E)。
肋は大きさが不ぞろいで、明瞭に大きい肋が周期的に配列し、サンゴ体下面周縁部から中央部の付着痕付近まで連続する (図1D, 2C, 3D, 4D)。肋の縁辺にはやや尖った突起
(図1I) または鈍端で不規則な凹凸を持つ突起 (図2F, 3F, 4F) が並び、大型の肋の突起は小型の肋の突起より大きい傾向がある。隣接する肋上の突起が部分的に癒合して板状になることがある
(図1J)。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり20~40程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く
(図1H)。
生時の色彩は一様な茶褐色~暗褐色で、通常昼間は触手を伸さない (図1 G, 2G, 3G, 4G)。
識別点:本種は不規則にねじれたり盛り上がったりするサンゴ体をもつものが多く、このような形態のものは他の単口性・自由生活性のクサビライシ科のいずれの種とも容易に識別される。整った楕円形のサンゴ体のものは、同属の楕円形で有孔のサンゴ体を持つ
Pleuractis paumotensis ゾウリイシおよび P. gravis アツゾコゾウリイシと形態が類似する。これらの種の識別点については、本WEB図鑑のゾウリイシのページを参照。
本種と Cycloseris somervillei コバンマンジュウイシは、楕円形で口の周辺がドーム状に突出したサンゴ体を持つことで共通しており、しばしば誤同定される。これらの2種は、
○サンゴ体壁の穴の有無:ネジレクサビライシは有孔;コバンマンジュウイシは無孔。
○肋の大きさ :ネジレクサビライシは周期的に表れる大型の肋は小型の肋より顕著に大きい;コバンマンジュウイシは肋がすべて同じ大きさか、周期的にわずかに大きい肋が現れる。
○肋縁辺の突起の形態:ネジレクサビライシでは突起はやや尖るか鈍端で不規則な凹凸を持ち、大型の肋縁辺の突起は大きい;コバンマンジュウイシでは細かい鋸歯状で大きさがそろい、肋の大小がある場合でも突起の大きさはほぼ同じ。
などで識別可能である。また、コバンマンジュウイシの生時の色彩は上面全体が淡褐色と濃褐色の斑となることが多いのに対し、ネジレクサビライシは通常均一な茶褐色であることも識別の目安となる。
分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985)、黒島 (亀田ら 2013) および西表島 (横地ら 2019)、沖縄諸島の沖縄島 (西平・Veron
1995, 杉原 2014)、瀬底島 (西平 1988)、などから知られている。これまでのところ、本研究会の調査では八重山諸島の西表島、宮古諸島の宮古島・八重干瀬、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島から標本が得られており、本種は奄美諸島以南のサンゴ礁域に広く分布するものと思われる。波当たりの弱い礁斜面のやや深場の礫底や砂泥底などの静穏な環境で観察されることが多い。
和名の由来:白井・佐野 (1985) は新称和名ネジレクサビライシの由来を明示していないが、不規則にねじれたり盛り上がったりするものが多い本種のサンゴ体の形態的特徴にちなみ和名を命名したものと思われる。
参考:担名タイプの図・写真
Fungia moluccensis van der Horst, 1919 ── in van der Horst (1919) pl. 1, Holotype. [Internet archive]
引用文献:
Gittenberger A, Reijnen BT, Hoeksema BW (2011) A molecularly based phylogeny reconstruction of mushroom corals (Scleractinia: Fungiidae) with taxonomic consequences and evolutionary implications for life history traits. Contrib Zool 80: 107-132 [ResearchGate]
Hoeksema BW (1989) Taxonomy, phylogeny and biogeography of mushroom corals (Scleractinia Fungiidae). Zool Verh 254: 1-295. [ResearchGate]
亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. 日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]
Matthai G (1924) Report on the madreporarian corals in the collection of the Indian Museum. part I. Memoirs of the Indian Museum 8: 1-59, pls 1-11.
西平守孝 (1988) フィールド図鑑 造礁サンゴ. 東海大学出版会, 東京.
西平守孝・Veron JEN (1995) 日本の造礁サンゴ類. 海游社, 東京.
白井祥平・佐野芳康 (1985) 石垣島周辺海域サンゴ礁学術調査報告書. 太平洋資源開発研究所, 石垣.
杉原薫 (2014) 中城湾サンゴ類標本目録. 琉球大学博物館 (風樹館) 収蔵資料目録第9号. 琉球大学博物館 (風樹館), 西原町. [琉球大学風樹館]
内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.
van der Horst CJ (1919) A new species of Fungia. Zoologische Mededelingen 5:65, pl. 1. [Internet Archive]
Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.
Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.
Veron JEN, Pichon M (1980) Scleractinia of eastern Australia, part III. Families Agariciidae, Siderastreidae, Fungiidae, Oculinidae, Merulinidae, Mussidae, Pectiniidae, Caryophylliidae, Dendrophylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]
横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.
執筆者:立川浩之
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更新履歴:
2024-11-27 公開