Fungiidae クサビライシ科
Pleuractis Verrill, 1864 ゾウリイシ属
Pleuractis paumotensis (Stutchbury, 1833)
(Figs. 1-4)
Fungia paumotensis Stutchbury, 1833: 495, pl. 32, fig. 6 [Paumotos (= Tuamotus, French Polynesia]; Yabe & Sugiyama 1941: 77 (part), pl. 65, figs. 5, 5a, pl. 67, figs. 2, 2a; Shirai 1977: 530, 4 figs.; Claereboudt 1991: 21; Nishihira & Veron 1995: 251, 4 figs.; Veron 2000: 282 (part), figs. 1-3.
Fungia (Pleuractis) paumotensis: Veron & Pichon 1980: 162 (part), figs. 270-272; Randall & Myers 1983: 18, figs. 346, 347; Shirai & Sano 1985: 228, fig. 7; Veron 1986: 344 (part), figs. 1, 2; Nishihira 1988: 119, 2 figs.; Hoeksema 1989: 143, figs. 23, 372-385, 646, 647.
Pleuractis paumotensis: Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123; Sugihara 2014: 17, 61, 4 figs. (RUMF-ZG-00233); Yokochi et al. 2019: 46; Nishihira 2019: 66 (part), 4 skeleton figs.
not Fungia (Pleuractis) paumotensis: Veron & Pichon 1980: 162 (part), fig. 269 (= Pleuractis gravis); Uchida & Fukuda 1989: 28, 2 figs. (= Pleuractis gravis); Veron 1986: 344 (part), 1 skeleton fig. (= Pleuractis gravis).
not Fungia paumotensis: Yabe & Sugiyama 1941: 77 (part), pl. 67, figs. 1, 1a (= Pleuractis gravis); Veron 2000: 282 (part), fig. 4 (= Lobactis scutaria), 1 skeleton fig. (= Pleuractis gravis); Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 28, 95, 3 figs. (KU-C 784) (= Lobactis scutaria); Nishihira 2019: 66 (part), 1 live specimen fig. (= Lobactis scutaria).
ゾウリイシ 白井, 1977
(図1-4)
ゾウリイシ 白井, 1977: 530, 4図; 白井・佐野 1985: 228, 図7; 西平 1988: 119, 2図; 西平・Veron 1995: 251, 4図; 杉原 2014: 17, 61, 4図 (RUMF-ZG-00233); 横地ら 2019: 46; 西平 2019: 66 (一部), 骨格写真4図.
非 ゾウリイシ: 内田・福田 1989: 28, 2図 (=アツゾコゾウリイシ); 亀田・目崎・杉原 2013: 28, 95, 3図 (=クサビライシ);
西平 2019: 66 (一部), 生時写真1図 (=クサビライシ).
図1A–J. CMNH-ZG 06736. 西表島網取湾, 水深 24 m. 2014-07-01. サンゴ体の長さ 104 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 生時のサンゴ体 (対象は左のサンゴ体).
H: 肋とサンゴ体壁の穴.
I, J: 肋の突起列.
図2A–G. CMNH-ZG 06806. 西表島網取湾, 水深 5 m. 2014-08-04. サンゴ体の長さ 132 mm.
口周縁出芽により多口となったサンゴ体.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図3A–G. CMNH-ZG 06951. 宮古島狩俣, 水深 10 m. 2014-10-24. サンゴ体の長さ 111 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図4A–G. CMNH-ZG 10685. 奄美大島崎原, 水深 20 m. 2018-02-02. サンゴ体の長さ 84 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.
図の標本採集・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.
形態:サンゴ体は自由生活性で通常は単口性だが、稀に口内出芽および口周縁出芽により複数の口を持つサンゴ体が見られる (図2)。観察に用いた標本の長径は 6.9~13.2 cm (N=23) (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 21.5 cm)。成長したサンゴ体は基本的に楕円形で、長径は短径の1.3~1.9倍程度。サンゴ体の上面は通常なだらかに盛り上がり、サンゴ体によってはさらに口の周辺がドーム状にわずかに突出する (図1, 3)。下面は平面状またはわずかに凹入する。
口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなるサンゴ体長径方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の12~29%程度。
隔壁はあまり蛇行せず直線的で、大型隔壁と小型隔壁が交互に並ぶ。触手葉は形成されない。大型隔壁の縁辺には鈍角な三角形の鋸歯がやや不規則に並ぶ。鋸歯の数は 1 cm あたり10~18程度。
隔壁側面には縁辺と平行して顆粒が並び、多くの場合これらは癒合して畝状となり、複数の列が隔壁縁辺と平行したジグザグ状に並ぶ (図1E, F, 2E,
3E, 4E)。
肋は一様な大きさで、サンゴ体下面周縁部から中央部付近まで連続して明瞭であり (図1D, 2D, 3D, 4D)、中央部でのみやや不明瞭になる。肋の縁辺には鈍端の突起列が並び、隣接する突起が部分的に癒合して板状になることがある
(図1J, 3F)。突起表面は不規則な凹凸を持ち (図2F, 3F)、隆起部分がサンゴ体壁と平行の複数の列となって配列することも多い (図1I,
J, 4F)。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり12~18程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く
(図1H)。
生時の色彩は一様な茶褐色~暗褐色で、通常昼間は触手を伸さない (図1G, 2G, 3G, 4G)。
識別点:本種は同属の Pleuractis gravis アツゾコゾウリイシと形態が類似するためしばしば混同され、シノニムリストに示すように既存の出版物でも誤同定された写真の掲載されたものが少なくない。両者は、
○隔壁縁辺の鋸歯および側面の顆粒の配列状態:(ゾウリイシでは縁辺の鋸歯は鈍角の三角形で大きく、側面の顆粒は隔壁縁辺と平行したジグザグの列となって並ぶ;アツゾコゾウリイシでは縁辺は細かい尖った鋸歯または顆粒の列で縁取られ、側面は顆粒によって一様に覆われる。
○肋の突起:ゾウリイシ、アツゾコゾウリイシとも突起は鈍端で表面は不規則な凹凸を持つ;ゾウリイシではサンゴ体壁と平行な隆起列を持つことも多い。
などの細部の形態を比較すると明瞭に識別される。特にゾウリイシのサンゴ体外縁近くの隔壁上の鋸歯は大きめであるため、水中でも確認可能なことが少なくない。このほか、同じ大きさのサンゴ体では、ゾウリイシよりアツゾコゾウリイシのほうが相対的に厚みのあるサンゴ体を持つことが多いことも目安となる。
同属の P. moluccensis ネジレクサビライシは、サンゴ体が不規則にねじれたり盛り上がったりするものが多いが、整った楕円形のサンゴ体のものはゾウリイシやアツゾコゾウリイシとやや類似した形態となる。これらの種は、
○サンゴ体上面の口周辺の突出 :ゾウリイシおよびアツゾコゾウリイシでは突出は緩やか;ネジレクサビライシでは顕著なドーム状に突出する。
○下面の肋の形態:ゾウリイシおよびアツゾコゾウリイシでは肋の大きさは一様である;ネジレクサビライシでは大きさが不ぞろいで、明瞭に大きい肋が周期的に配列する。
○下面中央の付着痕の有無:ゾウリイシおよびアツゾコゾウリイシでは小型のサンゴ体を除きほとんどが不明瞭;ネジレクサビライシではかなり大きく成長したサンゴ体でも明瞭に確認できることが多い。
などで識別できる。ゾウリイシと類似した楕円形のサンゴ体を持つ Lobactis scutaria クサビライシとの識別点については、本ウェブ図鑑のクサビライシのページを参照。
分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985, 西平 1988) および西表島 (西平・Veron 1995, 横地ら 2019)、宮古諸島の宮古島
(西平・Veron 1995)、沖縄諸島の沖縄島 (杉原 2014)、瀬底島 (西平 1988)、慶良間諸島 (Claereboudt 1991)、奄美諸島の奄美大島
(Yabe & Sugiyama 1941) などから知られている。これまでのところ、本研究会および執筆者の調査では八重山諸島の石西礁湖・西表島、宮古諸島の宮古島・八重干瀬、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島・喜界島から標本が得られており、本種は奄美諸島以南のサンゴ礁域に広く分布するものと思われる。波当たりの弱い礁池内や礁斜面、外洋に面した斜面のやや深場など様々な環境に生息する。
和名の由来:白井 (1977) は新称和名ゾウリイシの由来を明示していないが、楕円形の輪郭を持つ本種のサンゴ体の形態を、履物の草履になぞらえたものと思われる。
参考:担名タイプの図・写真
Fungia paumotensis Stutchbury, 1833 ── in Stutchbury (1833) pl. 32, fig. 6. [BHL]
引用文献:
Claereboudt MR (1991) 慶良間列島におけるクサビライシ類. みどりいし2: 20–23. [阿嘉島臨海研究所]
Gittenberger A, Reijnen BT, Hoeksema BW (2011) A molecularly based phylogeny reconstruction of mushroom corals (Scleractinia: Fungiidae) with taxonomic consequences and evolutionary implications for life history traits. Contrib Zool 80: 107-132 [ResearchGate]
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Yabe H, Sugiyama T (1941) Recent reef-building corals from Japan and the South Sea Islands under the Japanese mandate. II. Sci Rep Tohoku Imp Univ 2nd Ser Geol, spec vol 2: 67-91, pls. 60-104. [東北大学]
横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019)
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執筆者:立川浩之
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更新履歴:
2024-11-27 公開