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Fungiidae クサビライシ科
Polyphyllia ナマコイシ属

Polyphyllia talpina (Lamarck, 1801)
(Figs. 1–4)

Fungia talpina Lamarck, 1801: 370.

Polyphyllia talpina: Yabe & Sugiyama 1941: 81, pl. 86, figs. 1, 2, pl. 87, fig. 3; Sugiyama 1947: 1580, fig. 4442; Shirai 1977: 534, 3 figs.; Veron & Pichon 1980: 183, figs. 305–310; Randall & Myers 1983: 20, figs. 99, 360, 361; Wood 1983: 122, 123, 2 figs., 144 (bottom left photo); Shirai & Sano 1985: 232, fig. 1; Veron 1986: 352, figs. 1, 2, 1 skeleton fig.; Nishihira 1988: 125, 3 figs.; Hoeksema 1989: 181, figs. 29, 473–483, 654–655; Uchida & Fukuda 1989: 38, 2 figs.; Nishihira & Veron 1995: 257, 3 figs.; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 29, 98, 1 fig.; Veron 2000: vol. 2, 295, figs. 4-6, 1 skeleton fig.; Nishihira 2019: 68, 8 figs.; Yokochi et al. 2019: 46.

注:18世紀後半における本種および Herpolitha limax (Esper, 1797) の分類は大変混乱している。種小名 talpina Lamarck, 1801 には古参異名となりうる種小名 talpa Houttuyn, 1772 および limax Houttuyn, 1772 が存在するが、学名の安定を図り混乱を避ける観点から、国際動物命名審議会の強権によりこれらの種小名は先取権が抑制され、有効名として使用することが禁じられている。このため、本種の有効名は talpina Lamarck, 1801 となる (Hoeksema 1988, ICZN 1990)。詳細は Hoeksema (1988) を参照。

ナマコイシ 改称
(図1-4)

イシナマコ 杉山 1947: 1580, 図4442; 白井1977: 534, 3図; 白井・佐野 1985: 232, 図1; 西平 1988: 125, 3図; 内田・福田 1989: 38, 2図; 西平・Veron 1995: 257, 3図; 亀田・目崎・杉原 2013: 29, 98, 1図; 西平 2019: 68, 8図; 横地ら 2019: 46.


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図1A–E. CMNH-ZG 06754. 西表島網取湾, 水深 25 m. 2014-07-01. サンゴ体の長さ 322 mm. 立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 隔壁の配列と鋸歯.
E: 生時のサンゴ体.

図2A–G. CMNH-ZG 10568. 宮古諸島八重干瀬, 水深16 m. 2023-10-28. サンゴ体の長さ 129 mm. 立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面, 側面および下面.
D: サンゴ体上面正中線上に並ぶ口と隔壁の配列.
E, サンゴ体上面~側面の二次口と隔壁の配列.
F: サンゴ体下面の肋とサンゴ体壁の穴.
G : 生時のサンゴ体.

図3A–I. CMNH-ZG 08271. 奄美大島白浜, 水深 14 m. 2016-10-03. サンゴ体の長さ 169 mm. 立川浩之.
A–C: サンゴ体の上面, 側面および下面.
D: 触手に覆われた生時のサンゴ体の一部.
E: サンゴ体上面正中線上に並ぶ口.
F: サンゴ体上面~側面の二次口と隔壁の配列 (右が正中線側).
G: 低次隔壁の鋸歯 (右が正中線側).
H: サンゴ体下面の肋とサンゴ体壁の穴.
I: 肋の鋸歯.

図4A, B. 種子島上古田, 水深 20 m. 生時のサンゴ体 (AとBは別のサンゴ体). 標本採取せず.

図1–3の標本採取・撮影は立川浩之, 図4の撮影は野村恵一. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態:サンゴ体は非固着性で多口性。成長したサンゴ体は基本的に長い楕円形であるが、細長く屈曲したもの (図1) や輪郭が不規則なもの (図4) など変異が大きい。サンゴ体の上面は通常盛り上がり、下面は平面またはやや凹入する。上面正中線上に初口の口内出芽に由来する口が列状に並び、その両側の上面~側面全体に口周縁出芽 (縁辺出芽を含む) に由来する多数の二次口が分布する。正中線上の口は莢心が凹入し、複数のトラベキュラからなる、あるいはこれらが癒合した塊状の軸柱を持つが、軸柱が不明瞭なことも多い。上面~側面の口は莢心がやや凹む程度で軸柱を欠くことが多い。

隔壁は低次隔壁と高次隔壁が交互に並ぶ。低次隔壁は突出し、正中線上の口の周りではやや放射状に配列するが、その他の部位では正中線にほぼ直交する向きとなり、サンゴ体周縁部を除き隣接する口の間を結ぶ口間隔壁となる。口の密度が高いため、低次隔壁の長さは短く、長さは 3~7 mm 程度。高次隔壁は低次隔壁より低く、低次隔壁と同様に隣接する口の間を結ぶが、上面~側面の口の軸柱部分と一体化し、低次隔壁を取り囲む網目状に連続した構造物となることが多い。サンゴ体の周縁部では隔壁は平行し、低次隔壁と高次隔壁の大きさはほぼ同じになる。

低次隔壁の鋸歯は不規則に尖り、荒い顆粒で覆われる。隔壁側面は荒い顆粒でまばらに覆われる。鋸歯の数は 1 cm あたり15~20程度。高次隔壁の鋸歯は小さい。肋はサンゴ体下面周縁部付近では明瞭で、顆粒に覆われた鈍端の鋸歯を持つ。鋸歯の数は 1 cm あたり20~30程度。下面中央部に近づくと肋は不明瞭になり、顆粒に覆われた鈍端の突起が不規則に配列する。サンゴ体壁には様々な大きさのスリット状の穴が開く。

生時の色彩は一様な灰褐色~暗褐色で、昼夜を通して上面全体が多数の淡褐色半透明の短い触手で覆われる。

識別点:ナマコイシ属には、ナマコイシのほかに南太平洋のニューギニア島西部~ソロモン群島にかけて分布する Polyphyllia novaehiberniae (Lesson, 1831) が含まれるが、日本近海からは未記録である。ナマコイシが厚みのある強固で緻密な骨格を持つのに対し、P. novaehiberniae の骨格は薄く壊れやすい (このため破片から再生したサンゴ体が普通にみられる) ことにより識別される (Hoeksema 1989)。

日本産のクサビライシ科の種のうち、Herpolitha limax (Esper, 1797) キュウリイシは長い楕円形のサンゴ体を持ち多口であることがナマコイシと共通するが、ナマコイシのほうが口の数が多く上面全体に一様に分布すること (キュウリイシでは上面正中線上以外の口は不明瞭で数が少ない)、正中線上の口の個体性が明らかで、口の周りの隔壁が放射状に配列すること (キュウリイシでは正中線上に伸びる溝の中に口が連続して並び、溝の周囲の隔壁は溝とほぼ直交する)、低次隔壁の長さが短いこと (キュウリイシは低次隔壁が比較的長い)、生時に淡褐色半透明の触手を群体表面全体に多数伸ばすこと (キュウリイシも昼間も触手を伸ばすが、触手は白色で短く、数も少ない) などで識別される。

分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島 (白井・佐野 1985, 西平・Veron 1995)、黒島・鳩間島 (亀田ら 2013) および西表島 (西平・Veron 1995, 横地ら 2019)、沖縄諸島の瀬底島 (西平 1988)、座間味島 (西平・Veron 1995)、薩南諸島の種子島 (杉原ら 2019) などから知られている。これまでのところ、本研究会の調査では八重山諸島の西表島網取湾、宮古諸島の八重干瀬、奄美諸島の奄美大島から標本が得られ、薩南諸島の種子島で生時の写真が撮影されている。波当たりの弱い礁池内や礁斜面の砂礫底に生息する。

和名の由来と改称の理由:本種の旧和名イシナマコの初出は杉山 (1947) であり、本属の日本産の種は1種で類似種もないことから和名は安定して使われてきた。しかしながら、同一の和名はナマコ類の Holothuria nobilis (Selenka, 1867) にも使われており、異分類群間での異物同名 (ホモニム) となっている。一般に、生物の和名は本来むやみに変更すべきでなく、安定して使用されることが望まれるが、同名による混乱を避けるなどの合理的理由により改称が望ましい場合がある。イシサンゴ類の和名について論じた深見ら (2022) は「…イシサンゴ目以外の生物とイシサンゴ目の間で異物同名が認められた場合…所属分類群との整合性を勘案して解消を提案するべきである」としたうえで、イシナマコを例として「本和名はナマコ類であるという誤解を生じ [させ] かねないので、イシサンゴ類の方を改称すべきである。」と述べている。

本稿では、この提言を受け、イシサンゴ類である Polyphyllia talpina の和名を改称してナマコイシとすることを提唱する。この和名は、本種のサンゴ体が厚みのある長い楕円形でかなり細長いものもあり、また生時に多数の短い触手がサンゴ体表面を覆うためナマコ類を想起させる外観であることと、イシサンゴ類の多くの和名に使われている接尾語「-イシ」との組み合わせによるものである。改称和名の基準標本は CMNH-ZG 06754 (図1:八重山諸島西表島網取湾、水深 25 m で採集) である。

なお、ナマコ類の H. nobilis の和名イシナマコの提唱者は明確には判明しておらず、また従来 H. nobilis とされていた日本産のナマコは、現在は Holothuria whitmaei Bell, 1887 と Holothuria fuscogilva Cherbonnier, 1980 の2種に分けられているが、これらのどちらがイシナマコの和名を担う種であるかは明確でない (沖縄県立芸術大学 藤田喜久博士私信)。

改称和名提唱日:2024-10-15.

引用文献:

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Hoeksema BW (1988) Madrepora limax Esper, 1797 (currently Herpolitha limax) and Fungia talpina Lamarck, 1801 (currently Polyphyllia talpina; both Cnidaria, Anthozoa): proposed conservation of the specific names. Bull Zool Nomencl 45:13-17. [ResearchGate]

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ICZN (1990) Opinion 1573, Madrepora limax Esper, 1979 (currently Herpolitha limax) and Fungia talpina Lamarck, 1801 (currently Polyphyllia talpina; both Cnidaria, Anthozoa): specific names conserved. Bull Zool Nomencl 47: 63–64..

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Lamarck JB (1801) Système des animaux sans vertèbres, ou tableau général des classes, des ordres et des genres de ces animaux; Présentant leurs caractères essentiels et leur distribution, d'apres la considération de leurs rapports naturels et de leur organisation, et suivant l'arrangement établi dans les galeries du Muséum d'Histoire Naturelle, parmi leurs dépouilles conservées; Précédé du discours d'ouverture du Cours de Zoologie, donné dans le Muséum National d'Histoire Naturelle l'an 8 de la République. Published by the author and Deterville, Paris: viii + 432 pp [BHL]

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執筆者:立川浩之

Citation:

 

更新履歴:

2024-10-15 公開

2024-11-10 図キャプションに標本採集の表記を追記