Fungiidae クサビライシ科
Zoopilus アミガササンゴ属
Zoopilus echinatus Dana, 1846
(Figs. 1-28)
Zoopilus echinatus Dana, 1846: 319 [Feejee Islands]; 1849: pl. 21, fig. 6 ; Wood 1983: 130, 2 figs., 145 (part) middle right fig.; Shirai & Sano 1985: 233, fig. 1; Veron 1986: 591, 1 fig.; Nishihira 1988: 126, 2 figs.; Hoeksema 1989: 195, figs. 31, 508-523, 660-661; Nishihira & Veron 1995: 260, 3 figs.; Hoeksema 2012: 435, fig. 6B; Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 29, 98, 1 fig.; Hoeksema & Lane 2014: 576, fig. 7; Veron 2000: vol. 2, 304, figs. 1-6, 1 skeleton fig.; Nishihira 2019: 71, 5 figs.; Yokochi et al. 2019: 46, 56, pl. 48.
not Zoopilus echinatus: Wood 1983: 145 (part) middle left fig. (= Ctenactis echinata ?)
アミガササンゴ 白井, 1985
(図1-28)
アミガササンゴ 白井 in 白井・佐野, 1985: 233, 図1; 西平 1988: 126, 2図; 西平・Veron 1995: 260, 3図;
亀田・目崎・杉原 2013: 29, 98, 1図; 西平 2019: 71, 5図; 横地ら 2019: 46, 56, 写真48.
図1-3. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 30 m. 2014-06-30: 図1. 長径約 60 cm の大形生体 (ハンマー頭部の長さは約 7.5 cm); 図2. 同じ生体の中央付近の初口; 図3. 同じ生体の縁辺部の隔壁配列.
図4. 図1-3の大形生体の周辺にみられた破片から再生した複数の小形生体. 写真奥の生体がCMNH-ZG 06723.
図5, 6. CMNH-ZG 06723. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 30 m. サンゴ体の上面および下面.
図7-13. CMNH-ZG 06722. 八重山諸島西表島網取湾, 水深 30 m. CMNH-ZG 06723と同地点で採集されたサンゴ体: 図7, 8. サンゴ体の上面および下面; 図9, 9a. 二次口群. 黄色矢印部分が二次口; 図10, 11. 隔壁の鋸歯; 図12, 13. 肋の鋸歯.
図14-24. CMNH-ZG 06851. 八重山諸島西表島網取湾. 水深 26 m: 図14, 15. サンゴ体の上面および下面; 図16, 17, 17a. 二次口群. 黄色矢印部分が二次口; 図18-20. 隔壁の鋸歯; 図21-24. 肋の鋸歯.
図25-28. KU-C-661. 八重山諸島黒島: 図25, 26. サンゴ体の上面および下面; 図27. 隔壁; 図28. 肋.
図の撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.
形態:サンゴ体は非固着性で多口性。多くの非固着性クサビライシ類と同様、有性生殖で形成された芽体 (anthocaulus) は固着性で、柄の上部に形成された単口の幼サンゴ体が自切して自由生活体
(anthocyathus) となる (Hoeksema, 1989 の figs. 510-511 を参照)。小形のサンゴ体はやや不規則な楕円形平板状のものが多いが、成長に従い中央部が盛り上がった中空のドーム状サンゴ体が形成される。成長したサンゴ体は直径数十cmに達する
(Hoeksema (1989) の検討標本の最大直径は 93.0 cm)。サンゴ体の骨格は極めて薄く割れやすい。割れて形成された破片から再生したサンゴ体も普通にみられる。
破片に由来しないサンゴ体では、中央部の初口は外観上明らかである。初口の周辺に形成される多数の二次口は小さく、外見上極めて不明瞭である。破片由来の再生サンゴ体は初口を欠くため、口が無いように見えることが多い。
隔壁・肋は初口を中心に放射状に配列する。再生サンゴ体では、破片の全周に放射状に新たな隔壁が形成されるため、中央部に残った元の破片の形が明らかである。低次隔壁は高次隔壁より厚く、突出する。隔壁の鋸歯は周縁方向にやや傾いた三角形で、尖った顆粒や小突起で表面が覆われる。低次隔壁の鋸歯は大きく、大きさや配列はやや不規則で、1 cm あたりの鋸歯数は2~5程度。高次隔壁は低く、鋸歯は小さくまばらである。隔壁の配列はやや疎であるため、隔壁間を結ぶ複合シナプティキュラが容易に観察される。
肋は隔壁と対応した位置にある。低次肋は高次肋より厚く、棍棒状~細い三角形の鋸歯を持ち、鋸歯の表面は尖った顆粒や樹枝状に分岐する小突起で密に覆われる。高次肋の鋸歯はまばらで、不規則に配列する。低次肋 1 cm あたりの鋸歯数は6~10程度。隔壁・肋の間のサンゴ体壁には多くのスリット状の穴があく。
生時の色彩は一様な暗灰色~暗褐色で、口の部分がわずかに明色になることがある (西平・Veron 1995: 260下図参照)。触手は透明で小さく
(Hoeksema 1989) 目立たない。
識別点:Halomitra カブトサンゴ属は大形の中空ドーム状のサンゴ体を形成する点でアミガササンゴと似るが、骨格がやや厚く壊れにくいこと、二次口が大きく明瞭で盛り上がり、生時には口の部分の色彩が薄いため二次口の位置が明瞭に識別できること、隔壁・肋の鋸歯が尖った三角形
(H. clavator では隔壁の鋸歯は棍棒状) で表面に顆粒が少ないことなどで識別される。固着性の Podabacia ヤエヤマカワラサンゴ属の一部の種では、サンゴ体の破片からアミガササンゴと類似した非固着性のサンゴ体が形成されることが知られているが (Bos
& Hoeksema 2017, Hoeksema 1989: figs. 604-605)、ヤエヤマカワラサンゴ属の種では隔壁・肋がアミガササンゴより明瞭に細かく、それぞれの鋸歯も小さいこと、二次口が形態的に明瞭であることなどで識別される。アミガササンゴの隔壁・肋の鋸歯の形態は
Ctenactis トゲクサビライシ属と非常に似ているが、トゲクサビライシ属ではサンゴ体の形態が厚みのある長円形で、複数の口を持つ場合には口内出芽で形成された口がサンゴ体の長軸中央に沿って並ぶことでアミガササンゴとの識別は容易である。
分布と生態:日本では、八重山諸島の石垣島崎枝湾 (白井・佐野 1985)、黒島 (亀田ら 2013) および西表島 (横地ら 2019) から知られているが、記録は少ない。これまでのところ、本研究会の調査では西表島網取湾から標本が得られている。波当たりの弱い礁斜面下部に生息する。大形のサンゴ体の周辺に、破片由来の小形サンゴ体が散在していることがある。
和名の由来:サンゴ体が薄いドーム状で多数のスリット状の穴があく様を、「編み笠」に見立てたものと思われる。
備考:Gittenberger et al. (2011: 126) によると、Zoopilus アミガササンゴ属、Sandalolitha ヘルメットイシ属、Podabacia ヤエヤマカワラサンゴ属の3属は、形態・分子の両面から、単系統群または互いに非常に近縁な関係にあると推定されている。
引用文献:
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Dana JD (1846, 1849) United States exploring expedition during the years 1838, 1839, 1840, 1841, 1842 under the command of Charles Wilkes, U.S.N. Vol. VII. Zoophytes. Lea and Blanchard, Philadelphia. [Smithson Lib: text, plates]
Gittenberger A, Reijnen BT, Hoeksema BW (2011) A molecularly based phylogeny reconstruction of mushroom corals (Scleractinia: Fungiidae) with taxonomic consequences and evolutionary implications for life history traits. Contrib Zool 80: 107-132. [ResearchGate]
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横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019)
西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.
執筆者:立川浩之
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更新履歴:
2023-11-12 公開