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Fungiidae クサビライシ科
Cycloseris Milne Edwards & Haime, 1849 マンジュウイシ属

Cycloseris somervillei (Gardiner, 1909)
(Figs. 1-5)

Fungia somervillei Gardiner, 1909: 269, pl. 34, figs. 5, 6 [Seychelles].

Cycloseris somervillei: Veron & Pichon 1980: 113, figs. 180-183; Veron 1986: 323, 1 fig.; Claereboudt 1991: 21; Veron 2000: 242, figs. 1-4, 1 skeleton fig.; Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123; Yokochi et al. 2019: 45.

Fungia (Cycloseris) somervillei: Hoeksema 1989: 50, figs. 2, 3, 97-108.

not Fungia somervillei: Matthai 1924: 41, pl. 9, fig. 1, 3, pl. 10, fig. 7 (Reg. No. 3189/3; = Pleuractis moluccensis).

not Cycloseris aff. somervillei: Kameda, Mezaki & Sugihara 2013: 27, 94, 4 figs. (= Pleuractis moluccensis).

コバンマンジュウイシ 新称
(図1-5)


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図1A–J. CMNH-ZG 06789. 西表島網取湾, 水深 40 m. 2014-08-04. サンゴ体の長さ 87 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
G: 生時のサンゴ体.
H: 肋と無孔のサンゴ体壁.
I, J: 肋の鋸歯状突起列.

図2A–G. CMNH-ZG 06791. 西表島網取湾, 水深 35 m. 2014-08-04. サンゴ体の長さ 87 mm. 口内出芽により多口となったサンゴ体.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の鋸歯状突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図3A–G. CMNH-ZG 08619. 奄美諸島加計呂麻島, 水深 22 m. 2017-10-06. サンゴ体の長さ 66 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の鋸歯状突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図4A–G. MUFS-AOU-388. 奄美大島国直, 水深不明. 2017-09-13. 採集:奥裕太郎. 撮影:(A-F) 立川浩之, (G) 奥裕太郎. サンゴ体の長さ 96 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の鋸歯状突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図5A–D. OCF-Cn0010. 沖縄県瀬底島北パッチ, 水深不明. 1988-02-09. 採集:西平守孝. 撮影: 立川浩之. サンゴ体の長さ 97 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.

図1-3の標本採取・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態:サンゴ体は自由生活性で通常は単口性だが、稀に口内出芽により複数の口を持つサンゴ体が見られる (図2)。観察に用いた標本の長径は 6.6~9.7 cm (N=7) (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 12.5 cm)。成長したサンゴ体は基本的に楕円形で、長径は短径の1.14~1.36倍程度。サンゴ体の上面は口の周辺が顕著なドーム状に突出し、周縁部はほぼ平面状または口周辺に向けてなだらかに盛り上がる (図1~5)。下面は平面状またはやや凹入し、上面の盛り上がりの大きいサンゴ体では凹入が大きい。成長したサンゴ体下面には付着痕は見られない。

口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなるサンゴ体長径方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の14~21%程度。

隔壁はあまり蛇行せず直線的で、大型隔壁と小型隔壁が交互に並ぶ。触手葉は通常形成されないが、サンゴ体によっては大型隔壁の内縁部に不明瞭な触手葉が形成されることがある (図1E, 2E)。大型隔壁の縁辺は尖った三角形の細かい鋸歯を持つ。鋸歯の数は 1 cm あたり35~52程度。隔壁側面は細かい顆粒で一様に覆われるか (図1E, F, 2E, 4E)、隔壁縁辺と垂直に並ぶ顆粒列を持つ (図3E)。隔壁には不定形の穴が開くことがあり、穴が隔壁縁辺に達し隔壁が不規則に切れ込むようになることもある (図1E, 3E)。

肋は細く、下面周縁部から中央部の付近までほぼ直線状に連なり、多くのサンゴ体ではわずかに大きい肋が周期的に配列するが (図1D, 3D, 4D, 5D)、肋の大きさがほぼ均一なサンゴ体も見られる (図2D)。肋の縁辺には尖った三角形の鋸歯状突起が一列に並ぶ (図1I, 1J, 2F, 3F, 4F)。肋に大小のあるサンゴ体でも、肋縁辺の鋸歯状突起の大きさはほぼ同大である。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり35~50程度。サンゴ体壁に穴はあかない (図1H)。

生時の色彩は褐色で、濃淡の褐色部分が放射状に配列することが多く、また多くのサンゴ体で大型隔壁内縁部が淡色となる (図1 G, 2G, 3G, 4G)。触手は透明で、昼間でもわずかに伸ばすことがある (図1 G, 2G, 4G)。

識別点:多くの自由生活性のマンジュウイシ属の種はサンゴ体がほぼ円形であるが、コバンマンジュウイシは楕円形のサンゴ体を持つという点で特徴的である。コバンマンジュウイシ以外では、Cycloseris cyclolites マンジュウイシがやや楕円形のサンゴ体を持つが、長径/短径比がマンジュウイシでは1.03~1.11程度、コバンマンジュウイシでは1.14~1.36程度でマンジュウイシのほうが円形に近く、またコバンマンジュウイシのほうが口の周りのドーム状の盛り上がりが顕著であることで識別される。

本種と Pleuractis moluccensis ネジレクサビライシは、楕円形で口の周辺がドーム状に盛り上がったサンゴ体を持つことで共通しており、しばしば誤同定される。これら2種の識別点については、本WEB図鑑のネジレクサビライシのページを参照。

なお、自由生活性のマンジュウイシ属のいくつかの種では、サンゴ体が縦分裂と再生を繰り返す「ワレクサビライシ型」の無性生殖をすることが知られている (Hoeksema 1989)。コバンマンジュウイシについてもこのような縦分裂中のサンゴ体が報告されているが (Hoeksema 1989: fig. 3)、本種は縦分裂したサンゴ体でも口周辺の盛り上がりがあることで他種の縦分裂サンゴ体と識別できるとされる (Hoeksema 1989: 54)。

分布と生態:日本では、Claereboudt (1991) が日本初記録種として慶良間諸島から、また横地ら (2019) が西表島網取湾からの採集記録を報告しているが、いずれも標本は図示されておらず、和名も与えられていない。本研究会の調査では八重山諸島の西表島、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島から標本が得られている。生息地はいずれも礁斜面の深場の静穏またはやや流れのある砂礫底などの環境であった。このほか、沖縄美ら島財団所蔵の瀬底島産標本を観察することができた (図5)。本種の分布域は奄美諸島以南と考えられるが、いずれの産地でも稀な種と思われる。

新称和名:本種は自由生活性のマンジュウイシ属のなかで、明らかに楕円形のサンゴ体を持つことで特異な種である。この形態を小判の形態になぞらえ、コバンマンジュウイシの和名を提唱する。新称和名の基準標本は CMNH-ZG 06789 (図1:八重山諸島西表島網取湾、水深 40 m で採集) である。


和名提唱日:2024-11-27.


参考:担名タイプの図・写真

Fungia somervillei Gardiner, 1909 ── in Gardiner (1909) pl. 34, fig. 5, 6, Holotype. [BHL]

引用文献:

Claereboudt MR (1991) 慶良間列島におけるクサビライシ類. みどりいし2: 20–23. [阿嘉島臨海研究所]

Gardiner JS (1909) The madreporarian corals: 1. The family Fundiidae, with a revision of its genera and species and an account of their geographical distribution. Trans Linn Soc Lond 2nd Ser Zool 12: 257–290, pls 33–39. [BHL]

Gittenberger A, Reijnen BT, Hoeksema BW (2011) A molecularly based phylogeny reconstruction of mushroom corals (Scleractinia: Fungiidae) with taxonomic consequences and evolutionary implications for life history traits. Contrib Zool 80: 107-132 [ResearchGate]

Hoeksema BW (1989) Taxonomy, phylogeny and biogeography of mushroom corals (Scleractinia Fungiidae). Zool Verh 254: 1-295. [ResearchGate]

亀田和成・目崎拓真・杉原薫 (2013) 黒島研究所収蔵造礁サンゴ目録第2版. 日本ウミガメ協議会付属 黒島研究所, 竹富町. [日本ウミガメ協議会付属黒島研究所]

Matthai G (1924) Report on the madreporarian corals in the collection of the Indian Museum. part I. Memoirs of the Indian Museum 8: 1-59, pls 1-11.

Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Veron JEN, Pichon M (1980) Scleractinia of eastern Australia, part III. Families Agariciidae, Siderastreidae, Fungiidae, Oculinidae, Merulinidae, Mussidae, Pectiniidae, Caryophylliidae, Dendrophylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.

執筆者:立川浩之

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更新履歴:

2024-11-27 公開