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Fungiidae クサビライシ科
Pleuractis Verrill, 1864 ゾウリイシ属

Pleuractis gravis (Nemenzo, 1955)
(Figs. 1-5)

Fungia gravis Nemenzo, 1955: 62, pl. 10, figs. 1, 2 [Guimares Is., Philippines]; Claereboudt 1991: 21.

Fungia (Pleuractis) gravis: Hoeksema 1989: 140, figs. 22, 360-370, 644, 645.

Pleuractis gravis: Gittenberger, Reijnen & Hoeksema 2011: 123; Yokochi et al. 2019: 46.

Fungia paumotensis: Yabe & Sugiyama 1941: 77 (part), pl. 67, fig. 1; Veron 2000: 282 (part), 1 skeleton fig.

Fungia (Pleuractis) paumotensis: Veron & Pichon 1980: 162 (part), fig. 269; Veron 1986: 344 (part), 1 skeleton fig.; Uchida & Fukuda 1989: 28, 2 figs.

アツゾコゾウリイシ 新称
(図1-5)

ゾウリイシ:内田・福田 1989: 27, 2図.


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図1A–J. CMNH-ZG 06836. 西表島網取湾, 水深 30 m. 2014-09-06. サンゴ体の長さ 134 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E, F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
G: 生時のサンゴ体.
H: 肋とサンゴ体壁の穴.
I, J: 肋の突起列.

図2A–G. CMNH-ZG 06753. 西表島網取湾, 水深 15 m. 2014-07-01. サンゴ体の長さ 127 mm. 口内出芽および口周縁出芽により多口となったサンゴ体.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図3A–G. CMNH-ZG 10242. 宮古諸島大神島, 水深 15 m. 2023-07-11. サンゴ体の長さ 114 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図4A–G. CMNH-ZG 08395. 奄美諸島加計呂麻島実久, 水深 22 m. 2016-10-06. サンゴ体の長さ 120 mm.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
F: 肋の突起列.
G: 生時のサンゴ体.

図5A–G. SMPF 88-75. 西表島高那沖, 水深 30 m. 1988-01-26. サンゴ体の長さ 156 mm. 採集:福田照雄. 撮影:立川浩之. 内田・福田 (1989) p. 28にゾウリイシとして掲載された写真の標本.
A–D: サンゴ体の上面, 斜め上面, 側面および下面.
E–F: 隔壁の鋸歯と側面の顆粒列.
G: 肋の突起列.

図1-4の標本採集・撮影は全て立川浩之. 骨格拡大写真のスケールは一目盛 5 mm.

形態:サンゴ体は自由生活性で通常は単口性だが、稀に口内出芽および口周縁出芽により複数の口を持つサンゴ体が見られる (図2)。観察に用いた標本の長径は 8.5~15.6 cm (N=14) (Hoeksema (1989) の検討標本は最大 17.5 cm)。成長したサンゴ体は基本的に楕円形で、長径は短径の1.4~1.8倍程度。サンゴ体の上面は通常なだらかに盛り上がり、口の周辺が低いドーム状に突出し、また全体に厚みのあるサンゴ体を持つものが多い (図1, 2, 4)。下面は平面状またはわずかに凹入する。

口は上面中央に位置し、細かいトラベキュラの集合からなるサンゴ体長径方向に長い軸柱を持つ。軸柱の長径はサンゴ体長径の15~29%程度。

隔壁はあまり蛇行せず直線的で、大型隔壁と小型隔壁が交互に並ぶ。触手葉は形成されない。大型隔壁の縁辺には細かい尖った鋸歯が並ぶか (図1E, F)、顆粒の列が縁取る (図2E, 3E, 4E)。隔壁側面はやや荒い顆粒で一様に覆われる (図1E, F, 2E, 3E, 4E)。鋸歯の数は 1 cm あたり30~40程度。

肋は一様な大きさで、サンゴ体下面周縁部から中央部付近まで連続して明瞭であり (図1D, 2D, 3D, 4D)、中央部でのみやや不明瞭になる。肋の縁辺には鈍端の突起列が並び、隣接する突起が部分的に癒合して板状になることがある (図1J, 3F, 4F)。突起表面は不規則な凹凸を持つ (図1I, 1J, 2F, 3F, 4F)。肋縁辺の突起の数は 1 cm あたり16~25程度。サンゴ体壁には不規則なスリット状の穴が開く (図1H)。

生時の色彩は一様な茶褐色~暗褐色で、通常昼間は触手を伸さない (図1G, 2G, 3G, 4G)。

識別点:同属の類似種であるゾウリイシおよびネジレクサビライシとの識別点については本ウェブ図鑑のゾウリイシのページを、形態の類似したクサビライシ属のクサビライシとの識別点についてはクサビライシのページを参照。

分布と生態:日本では、Claereboudt (1991) が日本初記録種として慶良間諸島から、また横地ら (2019) が西表島網取湾からの採集記録を報告しているが、いずれも標本は図示されておらず、和名も与えられていない。なお、串本海中公園センターに所蔵されている内田・福田 (1989) がゾウリイシとして掲載した写真の標本は、執筆者の観察でアツゾコゾウリイシと同定された (図5)。内田・福田 (1989) に撮影地は示されていないが、ラベルの記載情報より本標本は西表島高那沖で撮影・採集されたことが判明した。これまでのところ、本研究会および執筆者の調査では八重山諸島の石西礁湖・西表島、宮古諸島の宮古島・大神島・八重干瀬、奄美諸島の奄美大島・加計呂麻島・喜界島から標本が得られている。日本からの記録がこれまで少なかったのはゾウリイシと混同されていたためである可能性が高く、本種は奄美諸島以南のサンゴ礁域に広く分布するものと思われる。波当たりの弱い礁池内や礁斜面、外洋に面した斜面のやや深場など様々な環境に生息する。

新称和名:本種はゾウリイシと類似するが、相対的に厚みがあり重量のあるサンゴ体を持つものが多い (種小名 gravis は「重い」を意味するラテン語)。この特徴に因み、地面に接する部分が厚い草履になぞらえ新称和名アツゾコゾウリイシを提唱する。新称和名の基準標本は CMNH-ZG 06836 (図1:八重山諸島西表島網取湾、水深 30 m で採集) である。

和名提唱日:2024-11-27.

引用文献:

Claereboudt MR (1991) 慶良間列島におけるクサビライシ類. みどりいし2: 20–23. [阿嘉島臨海研究所]

Gittenberger A, Reijnen BT, Hoeksema BW (2011) A molecularly based phylogeny reconstruction of mushroom corals (Scleractinia: Fungiidae) with taxonomic consequences and evolutionary implications for life history traits. Contrib Zool 80: 107-132 [ResearchGate]

Hoeksema BW (1989) Taxonomy, phylogeny and biogeography of mushroom corals (Scleractinia Fungiidae). Zool Verh 254: 1-295. [ResearchGate]

Nemenzo F (1955) Systematic studies on Philippine shallow water scleractinians: I. Suborder Fungiidae. Nat Appl Sci Bull Univ Philipp 15: 3-84

内田紘臣・福田照雄 (1989) 沖縄海中生物図鑑 第9巻 サンゴ. 新星図書出版, 浦添.

Veron JEN (1986) Corals of Australia and the Indo-Pacific. Angus & Robertson Publication, North Ryde, NSW.

Veron JEN (2000) Corals of the world, vol. 2. Australian Institute of Marine Science, Townsville.

Veron JEN, Pichon M (1980) Scleractinia of eastern Australia, part III. Families Agariciidae, Siderastreidae, Fungiidae, Oculinidae, Merulinidae, Mussidae, Pectiniidae, Caryophylliidae, Dendrophylliidae. Australian Institute of Marine Science, Townsville. [BHL]

Yabe H, Sugiyama T (1941) Recent reef-building corals from Japan and the South Sea Islands under the Japanese mandate. II. Sci Rep Tohoku Imp Univ 2nd Ser Geol, spec vol 2: 67-91, pls. 60-104. [東北大学]

横地洋之・下池和幸・梶原健次・野村恵一・北野裕子・松本尚・島田剛・杉原薫・鈴木豪・立川浩之・山本広美・座安佑奈・木村匡・河野裕美 (2019) 西表島網取湾の造礁サンゴ類. 西表島研究 2018, 東海大学沖縄地域研究センター所報 36-69.

執筆者:立川浩之

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更新履歴:

2024-11-27 公開